軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第197話 ~再会~ クロウ目線

「……は」

短い呼吸が口から洩れる。

『なんだ?その顔は初めて見るなぁ』

もうこの世にいないはずの、だけれど私が覚えているままのその姿で、そいつは笑った。

もうこの世にいないはずの、黒豹の獣人。

勇者として祭り上げられた、妹の次に大切だった私の幼馴染。

「……リッター、か?」

懐かしいその姿に、私は思わずそう聞く。

だがすぐに首を振って自分の考えを否定した。

「いや、そんなはずがない。お前は私が看取ることなく死んでしまったはずだ」

死に際にも会えなかった大切な人間。

確か、そのときは大量注文が入ってずっと俗世の干渉を断っていたため、リッターが死んだ二週間後に私は幼馴染の死を知ったのだったか。

自業自得で、自分のことしか考えられない私は本当に最低野郎だ。

私はいつも間に合わない。

妹の死に目にも会えず、幼馴染と最期の言葉を交わすこともできなかった。

いつも、どこかで足止めを食らってそれ以上は進めないのだ。

『お兄ちゃん、なんだか卑屈になったみたい』

口に手を当てて、上品にくすくすと少女が笑う。

その仕草は、長い間あの母親に厳しく躾けられて身についたものだ。

「……アリア」

記憶の中にある妹と同じ顔の少女が、妹と同じ表情で、同じ仕草で笑っている。

懐かしいその表情に、胸がぎゅっと絞られるように痛んだ。

妹が死んだあと、偶然立ち寄った村に赤子が生まれた。

幼馴染が死に、妹が死んだ私は死に場所を求めてさまよっていた中、彼女に出会った。

その子を自らの命に変えてでも生きさせようとした女。

リリアと名乗った、身重の美しい女性。

一目で惹かれるような心地がした彼女は子供を産むと同時に死んでしまい、そのとき山菜を採りに出ていた私はまたも間に合わなかった。

そして生まれた子供に俺は、“アリア”、“リリア”、“アメリア”の、私が認めた女性の名前に共通した“リア”という名をつけた。

いや、実を言うと、“リア”を“アリア”として、死んだ妹の代わりとして育てたかったのかもしれない。

まあ、そうだとしても、あんなじゃじゃ馬が私の妹と同じなわけがなかったのだが。

「私は、俺は……お前に合わせる顔がない……」

彼らがここにいる原理はまだわからないが、私が実の妹を間違えるはずがない。

懐かしい妹の前で、思わずずっと昔の一人称に戻ってしまった。

そんな俺の様子にアリアはただくすくすと笑う。

『おいおいお嬢さん、こいつはいっつも卑屈だったぜ?』

薄く透けたリッターがアリアの肩に手を置いて、茶化すようにそう言った。

よく見るとアリアの方も透けている。

私の後ろでツダが「幽霊!?」と驚いたような声を上げていた。

おそらくそれに近しいものだろうか。

「なるほど、降霊術の一種、魔力を込めた人間の縁が近い魂を呼び寄せる道具だな……」

よくもこんな複雑な魔道具を作ったものだ。

今の私でさえこんなもの作ることも直すこともできはしない。

私は津田友也が触れたその魔道具の埃を払って嘆息した。

昔から、幼馴染の魔道具生成のスキルは群を抜いていた。

そして、それらを最高の道具として使いこなすことができていた。

だからこそ、勇者なんてものになってしまったのだが。

『ご名答。直接触れた彼はおそらく、物心がついてから生前に会ったことのある故人がいないのだろう』

満足げに微笑んでリッターが私を見る。

優し気なその顔を見て、鼻の奥がツーンと痛んだような気がした。

「もともと私が触ること前提で用意していたやつがよく言う」

私は何年もここに来なかったのでこの部屋の最後を正確に覚えているわけではないが、この魔道具がこの場所になかったことは分かっている。

「この場所は私が色々と道具を置いていた場所だ。もし私がここに来たときに違和感を覚えるようにしたんだろう?察するに、設置したのは魔王城から帰ってきたあとか」

相変わらず、用意周到にもほどがある。

ため息を吐く私とは対照的に、リッターは私以外に視線を彷徨わせた。

視線が下がり、ある一点で止まる。

『ところで、そこにいるのは噂にあったあのブラックキャットか?』

キラキラとした目でリッターの瞳がヨルに向けられた。

そういえば、私たちが魔王城に向かっていたときから、ヨルの“魔王の右腕”といった噂が流れだしたのだったな。

「そうだ。今は今代の勇者たちについてきているがな」

そう言うと、リッターは大声を上げて笑った。

そういえばこいつの笑いの沸点は驚くほど低いんだった。

『まじかまじかよ!!!あの魔王の右腕が!?』

お腹を抱え両手を叩いて笑うリッターにさすがのアリアも引き気味だ。

私はため息をついて頭を抱えた。

そうだ、こいつは驚くほどマイペースな奴だった。

「そんなことはどうでもいい。それよりもお前がこの魔法具を私に残したのはなぜだ?」

わざわざこんなところに置いておいて、いったい何を伝えたかったのだろう。