軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第101話 〜『影魔法』VSマヒロ2〜

目の前に突然現れた眩しい光に思わず俺――というより『影魔法』――は目を閉じた。

戦闘中に目を閉じるのは致命的だ。

マヒロが足を使って放った魔法が俺の腹を貫く。

今日一日で何回貫かれるのやら。

《マスターの損傷を確認。許容値をオーバー》

許容も何も、お前が勝手に動かしてるんだろうが、なんて言葉はぐっと飲みこんだ。

俺に今の状況を打開する力はないし、『影魔法』を止める術は持っていない。

どうやら『影魔法』に命を救われたようだし、今は素直に体を貸しておいてやろう。

《モード、“治癒”》

結局、マヒロの魔法で空いた穴もすぐに塞がれた。

魔法に助けてもらうというのもおかしな話だ。

「さっきからお前おかしくないか?その刀といい、その体に巻き付いた魔法といい、その口調といい。……なんかに乗っ取られてんのか?」

まさかの正解だ。

体が動いていたら俺は思わず拍手していただろう。

《その質問には答えかねます》

なにも答えないと思ったが、『影魔法』は律儀に返答した。

俺の体に力が入る。

もちろん俺が力を入れたのではない。

いつの間にか手足が自由になっていたマヒロは手を合わせる。

あれだけ大技の魔法陣をバンバン発動してもなお魔力が尽きないのか。

だが空気中に漂うマヒロの魔力はだいぶ薄れてきている。

「いいさ。捕まえて無理やりにでも答えさせてやる。本来はお姫さんだけ連れて帰るつもりだったが、気が変わったよ。お前にも興味がある」

男なんぞに興味を持たれてもちっともうれしくない。

それどころか鳥肌が立つ。

「『神の御手』」

マヒロの背後に光り輝く巨大な手が生まれた。

その手は俺を捕まえようと迫る。

目の前に来ても『影魔法』は動かなかった。

《……光が強ければ影はさらに濃く、強くなる。私はマスターの願いを叶えます》

誰に言うでもなく、『影魔法』は呟く。

だがきっと俺に言ったのだろう。

疑っているわけではなかったが、やはり俺の『影魔法』には自我があるらしい。

《あなたが死ねばアメリア・ローズクォーツにかけられた魔法も解けるでしょう》

『影魔法』は『神の御手』の前に手を掲げた。

《喰い散らかせ》

口にした言葉はそれだけ。

たったそれだけで圧倒的な存在感を放っていた『神の御手』が消えた。

いや、喰われた。

さすがのマヒロも言葉が出ないようだ。

《格の違いを知りなさい。お前ごとき私の敵ではない》

その言葉に呆然としていたマヒロはぽかんと口を開けた。

そして、ぞっとするような笑みを浮かべた。

「へぇ……」

視界の端で夜たちが圧されて一歩足を引いたのが見えた。

俺も体が動いていれば下がっていただろう。

さすがは魔族の二番手。

「言うじゃねぇか。……底辺が」

初めてマヒロの顔から笑みが消えた。

元々にこやかでもなければ、なにか感情が浮かんでいるわけでもない、形だけの笑みだったが、それでも突然消えてしまえば恐怖は感じる。

「お前ら人族は魔族には絶対に敵わない。それは必然で 運命(さだめ) だ」

俺は決めつけられるのが心底嫌いだ。

だけど今ここでは、マヒロが言っていることも一理あると思うのも真実だ。

俺がバグなだけで、勇者も含めた他の人族はきっと唯一の強みである数をもってしても魔族には敵わないだろう。

あれだけ戦ったのにマヒロの魔力が尽きる気配がない。

アウルムも、今回はいい感じに攻撃が決まっただけで次はこう上手くは決まらないだろう。

《勝手に決めつけないでください》

だが、『影魔法』は違う意見のようだ。

《努力が必ずしも報われるとは思わない。それほど優しい世界ではないですから。けれども、やってみてもないのに諦めるのは間違っています》

『影魔法』の言葉にマヒロは青筋を浮かべる。

どうやら怒ったらしい。

「お前ら人族は本当に学ばないな。歴史を見ても魔族に人族が勝ったことは一度もない」

勇者ならともかくな、とマヒロが付け加える。

口調からして人族から勇者が出たことがあるのだろう。

マヒロは手を合わせる。

アメリアの体を覆っている赤色の光が濃くなった。

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!?」

アメリアが体を反らして叫ぶと同時にマヒロは新たな魔法を発動させる。

「お前、魔法が喰えるんだろ?なら、腹いっぱいにしてはち切れさせてやるよ」

影魔法が魔法や魔物を喰らう度に俺は疑問に思っていたことがある。

それは、上限があるのかということ。

万が一暴発してしまったら俺に止めることはできない。

自分の魔法くらい把握しておきたいのだが、いかんせん前例がないのだ。

サラン団長も影魔法なんて魔法はないと言うし、じゃあ一体この魔法はなんなのかという話だ。

できればマヒロの策略には乗りたくない。

サラン団長の光魔法と組み合わせたといっても森一つを消しかけたのだ。

制御不能にだけはしたくない。

……いや、今のこの状況も制御不能なのだろうか。

「『 水針(すいしん) 』」

たくさんの魔法陣が浮かび、水の針を降らせるのと同時にアメリアが突っ込んできた。

体が操られているため、降ってくる針を避けることもしない。

このままではアメリアにも針は降り注ぐだろう。

俺は動かないと分かっていてもアメリアに手を伸ばした。

アメリアが傷つくのをこれ以上見たくない。

《っ!!!》

その想いが届いたのか、俺の体が動いてアメリアを抱き寄せた。

そして、アメリアを庇って降ってくる雨に背を向ける。

針は針でも氷柱に近い大きさの針だ。

突き刺されば人の体など簡単に貫通するだろう。

死にたくはない。

が、それ以上にアメリアが苦しむのを見たくなかった。

『主殿っ!!!』

夜が叫ぶ声が聞こえる。

俺は痛みを覚悟して目を閉じた。

本当に、今日一日で俺の腹にはいくつ穴があくのだろうか。