軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

弟子はとらん

「マーギン、腹減ったぞ」

「そういや昼飯時をずいぶんと過ぎてるな。ハルトラン、この辺に飯屋とかある?」

「リヒトもすぐに戻って来るじゃろうから、それから行きつけの飯屋に行くか」

ということで腹減った合唱をする子供たちをなだめてリヒトの帰りを待つ。

そしてリヒトは1人の青年を連れて帰ってきた。

「マーギン、こいつを弟子にしてやってくれ」

「は?」

「こいつはジーニア、この魔導炉の回路を組んだ奴だ。こいつは早くに両親に先立たれて…」

「リヒト、詳しくは飯を食いながら話せ。ガキ共が腹減ったとうるさくてかなわん」

「そ、そうか… なら飯を食いながら話す」

ということで職人街にある食堂へ。昼時は過ぎているがそこそこ混んでいる。客は職人ばかりのようだ。

子供たちに好きなものを頼ませ、リヒトの話を聞くことに。

「こいつの親は魔導回路を組んでた職人でな、こいつが12歳の時にジーニアに色々と教えぬまま死んだ。で、こいつは親が残した資料を元に独学で魔導回路を組めるようになった努力家だ。ジーニア、お前はいくつになった?」

「リヒトのおっちゃん、子供扱いすんなよ。もう今年で17歳になったんだ。それに誰かの弟子ってなんだよ?俺はもう独り立ちしてんだぜ」

「すまん、すまん。お前の赤ん坊の頃から知ってるからついな。でも立派になってくれておっちゃんは嬉しいんだ。何回危ねぇって言っても吹きガラスの所に近付きやがってよぉ、引き離しゃ泣いて暴れて…」

「止めてくれよっ、そんな子供の頃の話はっ」

頭を撫でながら昔話をするリヒトに怒るジーニア。

確かに、子供時代の事を親戚のおっちゃんとかにしつこく言われるのは俺も嫌だった。それも兄貴と比べられるから尚更だ。

「で、あんた達は誰だ?」

「俺はマーギンだ。魔法書店をやってる。こいつはアイ…」

「マーギンさんの妻のアイ…」

ゴスッ

「ハンターになる予定のアイリスだ。で、こいつらはカザフ、トルク、タジキ。ハンター見習いになる予定の奴らだ。俺もいきなりお前を紹介されてどうなってるかよくわからん。今回は魔道具をハルトランに作ってもらおうと来ただけなんだよ」

「それがなんでリヒトのおっちゃんと関係があるんだよ?」

「詳しくはワシが話す」

と、ハルトランがそもそもの経緯を話した。

「ハルトラン、お前あのライトはイードンの所の依頼か?なぜ受けた」

「初めはどこの依頼か知らんかったんじゃ。組合の奴がしつこく頭を下げて来たからやむを得ず受けただけじゃ。イードンからの依頼だと分かっておったら受けるか」

「イードンってなんだ?」

「なんじゃ知らんのか?大手魔道具店イードン。数年前から急成長した大型魔道具店じゃ」

「あのライトの回路を組んだ店?」

「そうじゃ」

「なんで急成長したんだろうね?」

「安売りじゃ。他の所は各分野の職人に回路や部品毎に仕事を頼んだものを売る。あそこは自社で職人を抱えて、自分の所で作って安く売ってるんじゃ」

「なるほど。その方が効率がいいだろうね」

マーギンがそう言うとリヒトが難しい顔をする。

「マーギン、商売のあり方はお互いの努力だ。それに文句を言うつもりはない。しかし、職人を抱えたからといって値段を大幅に下げられるのはなぜだと思う?」

「経費の削減だね。それと同じ物をたくさん作れば効率も良くなるから値段を下げられる」

「開発は誰がやる?商品になるまで色々と創意工夫して作っていくものだ。それも商品にならないものも山程ある。それに金がかかるのはわかるだろう?」

「そうだね。売れると思った物が売れない事はよくあると思うよ」

「で、イードンは開発費用をほとんど掛けてない」

「他の商品をパクってんの?」

「開発した奴を自社で雇うんだ」

「なるほど。でも別にいいじゃん。雇われる方も安定して仕事が入るんだろ?」

「雇い方に問題があるんだよ。何か問題を発生させて違約金を払わせる。で、払えないならうちで働けというようなやり方をしているようなんだ」

「それは本当かっ」

今の話を聞いて驚くハルトラン。

「まさかハルトランも違約金払えとか言われてんのか?」

「ワシが受けた仕事はレンズの研磨と反射板の作成じゃ。しかし、ライトが暗いと言われて改良したら魔石消費が激しいとクレームが付いたらしくてな、それをこっちの作った物が悪いせいだとなっておるんじゃ」

「契約書はどうなってる?」

「知らん」

「はぁ〜、だから契約書はちゃんと読めと言っただろうが。昔みたいに口約束だけで仕事をするなと何度も言っただろうが」

「ワシは頼まれた仕事をやっただけじゃっ」

リヒトの言う事はもっともだ。ハルトランは昔ながらの職人だから契約書とかなしに信用だけで仕事をしてきたんだな。

「ハルトラン、契約書にサインはした?」

「なんかサインしろとうるさかったから、勝手にしとけと言うた」

「じゃ、サインはしてないんだね?」

「しとらん」

「なら、その契約書は無効だね。契約書の内容はしらないけど違約金なんて払う必要ないよ」

「本当か?」

「うん、向こうが勝手にサインしたなら書類偽造になるからね。この国の細かい法律は知らないけど、場合によっては向こうが罪に問われるんじゃないかな?組合に間に入ってもらって解決すれば?そういうことなら依頼主に会う必要もなくなる」

「おい、お前。今の話は本当か?」

と、違う席の人がいきなり話し掛けてきた。

「えっと… どちら様?」

「良いから教えろ。契約書に自分でサインしてなかったら無効になるんだな?」

「多分ね。俺もそこまでこの国の法律に詳しくはないから。なんかあったの?」

「俺の知り合いも、ミスをこっちのせいにされて違約金払えってなりやがったんだ。で払えずにそのまま安い給料で雇われちまった」

「やっぱり噂は本当だったか」

と、リヒトが呟いた。

「イードンめ…」

そしてジーニアも怖い顔をする。

「どうした?」

「あそこの魔道具の中に父さんが作ったのとそっくりのがいくつもあるんだ。絶対に回路を盗んだに決まってる」

「回路を盗むか… お前はあの魔導炉の回路を組んだんだってな」

「そうだ」

「回路って秘匿するもんだろ?なぜあんな見やすい所に回路を組んである?」

「お前は知らんかもしれないけど、回路はちょっとしたことでダメになることがある。だから、すぐに直せるようにしてあるんだ」

「お前の親父さんが組んだ回路も同じようにしてあったのか?」

「あそこまで解りやすいところには組んでない。分解しないとわからない所に隠してある」

「そんなの隠しているとか言わんぞ。ちゃんと隠蔽する作りにしておかないと」

「隠蔽?」

「そう、回路を組んだら、回路板と同じ素材の板で蓋をして封をするんだよ。で、こじ開けたら回路が壊れるようにしておくのが隠蔽だ」

「そんなの聞いた事がないぞっ。それに回路に異常があったら修理出来なくなるじゃないかっ」

「回路なんて使い捨てなんだよ。同じ物をいくつも作っておいて、回路がダメになったら回路ごと交換するんだ。こんなのは常識だろ?」

「回路が使い捨て…」

「そう。修理ったって、回路の切れた部分を魔導インクで補修するんだろ?それをしてもまた同じ所が切れやすくなるし、丈夫にしようと太く描くと他のところに影響がでて他の所が切れる。そもそも、回路が切れるということは回路を描く技術が下手なんだよ。きっちりと回路を描けてれば、衝撃とかが加わらない限り切れん。魔導炉みたいな熱の影響を受ける奴は断熱材を使って事前に防ぐもんなんだよ」

「お前、回路師なのか?」

自分の知らなかった事を知っているマーギンに目が丸くなるジーニア。

「俺は魔法書店をやっている。仕組みは似たようなもんだ。昔に魔道具の開発をやっていた事もあるけどな」

「ジーニア、こいつはお前が知らないことを知っているようだ。だから弟子にしてもらえ。ほぼ独学でここまでやれるようになったお前の努力は認める。しかし、師に付くというのは悪くはないことなんだぞ」

リヒトよ、勝手に師にしないでくれ。アイリスやカザフ達でもう手一杯だ。

「お、俺は独りで…」

「リヒト、悪いけど俺は魔道具の弟子を取るつもりはないし、コイツらの面倒もしばらく見にゃならん。それと自分でやりたいことも残っているしな。ジーニアも独学で創意工夫がよく出来ているから後は自分で試行錯誤を続けてやってけ。回路を秘匿するやり方を教えてやるぐらいはしてやるけどな」

「弟子にしてやってはくれんのか?」

「弟子は無理だ。それに俺は自分の欲しい物だけ作ってたからな。俺の魔道具に対する熱意はそんなもんだ。人様に偉そうに教えるものでもない」

「しかし…」

「マーギン、回路の秘匿の仕方を教えてくれるってのは本当か?」

「この国は回路の特許とかないんだろ?」

「特許ってなんだ?」

「初めに回路を組んだ人の権利を守るための法律だよ。俺が昔にいた国では特許というのがあってな、回路を開発した人は国にその回路の登録をするんだよ。同じ魔道具をたくさん作ろうと思っても独りで同じ回路を組むのには限界があるだろ?だから他の人にもその回路を教える必要がある。で、その回路を使って商売する人は開発した人に特許料ってのを払うんだよ」

「秘匿するんじゃないのか?」

「特殊な魔道具の時は秘匿して特許の申請もしないこともある。例えば軍事利用出来そうなものとかな」

「軍事利用が出来るもの?」

「例えば鉱山で硬い岩盤を掘っていくのは大変だろ?それを破壊するものとかだ。岩盤を破壊出来るということは、敵の砦を崩せたり、直接人を殺す事も出来る。そういった類のものだよ」

「そんな魔道具があるのか…」

「例えばの話だ。魔道具ってのは人の生活を楽にするものだ。生活に密着したものこそ価値がある」

「お前のパン焼き魔道具とかか?」

「そう。寝る前に材料入れといたら朝にパンが焼き上がってるとか最高だろ?」

「パン焼き機なんてあるのか?」

「こいつがワシに回路以外の所を作ってくれと依頼してきたんじゃ。見たこともない魔道具じゃったからこいつの言う事を信用したんじゃ。ワシもジーニアが学べることがあるなら学んだ方が良いと思うぞ」

こんな話をしていると、食堂にいる職人達が周りを囲んで聞き耳を立てているのであった。