軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お前が先頭だ

「なんかめっちゃ囲まれてんだけど…」

どうやらイードンの所で知り合いが働かされている奴が多いようで契約書の話を詳しく教えてくれと寄ってきたようだった。

少し話を聞くと個人で昔ながらの職人をしていた人がはめられたような感じがする。契約とかに疎い人達なのだろう。代々続く職人とかはその分野においてはスペシャリストだが、それ以外はからっきしとかの人が多い。まぁ、子供の頃から学びの場は家の工房だからそうなるわな。

「ハルトラン、リヒト、これは1つの工房だけで済む話じゃなさそうだね。誰か中心になって話をまとめて組合に相談しなよ」

「誰がって誰がやるんだよ?」

「リヒトがやればいいんじゃない?工房も大きいし、契約の事もわかってんだろ?個人でやってる人が中心になるのは無理だと思うよ」

「リヒト、頼むっ。これ以上イードンに荒らされたら商売出来なくなっちまうぜ」

方々から頼むよ頼むよと言われたリヒト。

「おめーら貸しだからな」

「おう、今日の飯は俺等が払ってやるぜ」

「安い貸しだぜまったく」

確かにここはダッドの所並に安いな。味付けは濃い目で職人飯って感じがする。

「マーギン、手始めに何をやりゃいいと思う?」

「違約金を払えと言われた人を集めて、何が違約金の原因だったかまとめなよ。あと、契約書が残ってるならそれの確認。職人自らがサインをしていたらその人は不利だろうけど、ハルトランみたいに手掛けた仕事と関係ない所で責任を問われてたら違約金を払う必要無いとは思うけどね」

「よしっ、なら皆で手分けしてそいつをやろう。知り合い全員に声を掛けてくれ」

「よっしゃーっ、やってやんぜっ」

と、ここにいる職人達は仲間を救う為に立ち上がるのであった。

「マーギン、お前も乗り掛かった船だ。手伝え」

さもマーギンも当事者の様に扱うリヒト。

「俺が出来ることなんてないだろうが」

「いや、お前は学がありそうだ。組合員への説明を頼む」

「俺は学もないし異国人だから相手にされないって」

「大丈夫だ、お前の後ろにゃ職人達が付いてる」

なぜ俺が先頭で戦う前提になってるのだ?

「いや、あのさ…」

「おっ、そろそろガラスが出来てやがるんじゃねーか。よし、帰るぞ」

職人って本当に人の話を聞かない奴が多い。これ以上何を言っても昔の経験から無駄だと言うことをマーギンは悟った。

ーリヒト工房ー

「お、親方っ。これを見てくれっ」

ガラスを冷やしていた職人がリヒトを大声で呼ぶ。

「ダメだったか?」

「いや、透明度が段違いなんすよ」

と、見せられたガラスを見るとマーギンが過去に見慣れたガラス板になっていた。

「上手くいって良かったね。あとはハルトランが研磨すればもっと綺麗になるよ。後は何度か配合比率を試してより良い物を作ってね。じゃ!」

マーギンはガラスの目処が立ったみたいなのでさっさと帰ろうとする。

ムンズっ

「まだだ。ジーニア、お前が組んだ回路に対して意見を聞け」

あーもう…

「ジーニア、しょうがないから改良点を教えてやる。こっち来い」

ジーニアは少し不服そうな顔をするが回路を秘匿するための技術も教えてもらわねばならないので逆らわずにこちらにきた。

「いいか、自分で考えて工夫されているのは理解出来る。が、魔導回路は極力シンプルにするのが使用魔力を抑える秘訣だ」

「そんなのはわかってるぜ」

そしてマーギンはこの回路の仕組みはこうだろ?と解説していく。

「見ただけでそこまでわかるのかよ?」

「あぁ。お前のやりたい事はわかった。だが、不要な文言や回路の経由に無駄が多い、ここはこう替えて、この文言を使う、で温度調節はこれを繰り返さなくてもこういう回路で可能だ」

「こうやって温度を上げていくんじゃないのか?」

「これでも可能だが無駄が多いんだよ。お前はかけ算ってわかるか?」

「し、知ってるぜ…」

怪しいな。

「2+2+2+2はいくつだ?」

「えーっと8だ」

「正解、これを掛け算にするとどんな式になる?」

「えーっと…」

「2✕4だ」

「そ、そうだ。先に答えんなよ」

「待ってる時間が惜しい。足し算でやるのと掛け算でやるのでは答えは同じでも式は短いだろ?」

「ま、まぁな」

「回路も同じなんだよ。同じ答えになればいい。だから、回路をシンプルにするにはここをこうすればいいんだ。わざわざ同じ文言を繰り返して温度を上げていくのは足し算みたいなものだ。1700度まで温度を上げるのに17回も同じ事を繰り返している。温度調節のツマミでそれを調節出来るように組んであるのは良く出来ているが、それをこうしてやれば魔力消費はぐっと下がるぞ」

「本当かよ…」

「もしくは直接温度を回路に組み込むんだな。実はこれが一番手っ取り早い」

「は?直接温度を組み込む?どうやってだ?」

「ここに数値を書けばいい。魔法回路ってそういうもんなんだよ」

「嘘だっ。親父の作った回路にはそんなこと描かれてなかったぞ」

「親父さんの回路は昔ながらの物だ。回路ってのは1つの工夫が次の工夫を呼んでどんどん効率の良いものに変わっていく。ライトの回路とかシンプルな物でも効率が違うと全然違ったものになる」

「あんなのどう工夫するんだよ?」

「アイリス、魔導ライトを貸してくれ」

「はい、どうぞ」

「これは俺が回路を組んだ魔導ライトだ。点けてみろよ」

「そんなに変わる訳が… なっ、なんだよこれ… こんなに明るくなんのかよ…」

「これだけ明るくても、普通の魔導ライトに比べて魔力消費は1/10くらいだぞ。明るさの効率でいうと100倍くらいになってるかもしれん。こうやって工夫していけばどんどん効率の良いものが出来る」

「こ、これは何がどう違うんだっ」

「昔ながらのライトは魔力をフィラメントに通して光らせる。魔力を強めに流してフィラメントに熱を持たせ光らせる仕組みだ。そのためにフィラメントが熱を発する分魔力を消費する。つまり、10の魔力のうち、明るさに1使って、熱を出すのに9使ってるというような感じだな」

「熱は明るさに不要じゃないか…」

「そう。熱が欲しいなら別にいいけど、ライトに求めるのは明るさだ。熱を発する必要はない。こうして効率の悪い魔導回路は目的以外の事に魔力を使ってるということだな」

「し、知らなかった… マーギンの作ったライトの仕組みはどうなってんだ?」

「俺のは明かりの魔法を使うようになっている。つまり魔法使いが使うライトの魔法だな」

「魔法使いの魔法が魔導具で使える…」

「魔道具の回路も魔法も基本は同じなんだよ。魔法は適性がないと使えなかったり効率が落ちたりするけど、魔道具の回路は適性は必要ない。その分魔法より制限がかかるから何でも回路に出来るわけじゃないけどな。簡単な生活魔法なら魔道具でも代用は可能。水を出せる魔道具とかでも同じだろ?」

「た、確かに…」

「こういうことはこの国の人はまだ知らないけど、俺がいた国では常識だったんだよ」

「これが常識…」

「特許の話はしただろ?俺が居た国では回路を開発した人の権利は守られているからその回路は金払えば他の人でも見ることが出来る。それが次の発想を助けてより工夫されたものや、応用されたものが開発されていく。それでどんどんと発展していくんだよ」

「じゃあ特許というものがあれば…」

「そういう法律を作るのは貴族だから実現は難しいかもね。それに効率の良い優れた回路を開発すると貴族が絡んでくる。優れたものは利権が絡むからな」

「マーギンが開発したものはどうだったんだ?」

「権利は国が持ってたよ。だから特許料はほぼ国に納められていた。まぁ、俺は自分が欲しいものを無料で作ってもらってたようなもんだから特許料は別にどうでもよかったんだけどね」

「そんなの損じゃねーかよっ」

「商売でやってたらそうだよね。俺は魔導回路を組むのを商売にしていたわけじゃないからな。その代わり大量生産して魔導具の値段を下げて庶民でも頑張れば買えるような値段になるようにはしてもらってた。それでもなかなか買えるような値段じゃなかったけど、機能を落としたシンプルな魔導具はかなり値段が下がったよ」

「利益を放棄していたのか?」

「だから魔導回路は俺にとっては自分が欲しいものを作ってもらうためのもの。仕事じゃなかったんだよ」

「それでもそれだけの知識があればこの国で回路師としてトップに立てるじゃないか」

「回路師のトップに立ってどうする?」

「トップに立つということは誉れだ」

そうきっぱりと言うジーニア。

「誉れか、なるほどな。あいにく俺はそういう事に興味が無いんだ。そもそも回路師じゃないからな。ジーニアが誉れの為に回路を組んでいるなら後は自分で頑張れ。俺にあれやこれや教えて貰った回路でトップに立っても誉れにはならんだろ。特許制度の無い国だから秘匿のやり方だけは教えておいてやるけどな」

「わ、わかった…」

マーギンはジーニアに秘匿するための魔法陣を教えたのだった。

ジーニアとの話が一段落付いた所にリヒトが声を掛けて来る。

「マーギン、鉛を混ぜるってのは目から鱗だったぜ」

「俺が考えたわけじゃないから褒められても嬉しくないよ。で、組合に行くのはいつ頃?」

「今夜にでも皆が集まると思うからすぐだな」

「なら、成人の儀が終わるまで俺は忙しいぞ。11日以降なら空けられるけど」

「じゃあ11日に商業組合に来てくれ。時間は昼過ぎだ」

「了解。でも役に立てるかどうかわからんよ」

「へへっ、心配すんな。お前にゃ職人連中が付いてる」

だから何で俺が先頭に立って戦う事になってんだよ?

その後、ハルトランにパン焼き機を預けて帰宅する。

子供達は今度、吹きガラスを体験させて貰う約束をしたとか言ってたからまた来ることになるかもしれんな。

「マーギン、腹減ったぁ」

「昼間に散々食っただろうが」

「晩飯は別腹だぜ」

「そりゃそうだ」

マーギン達はパン屋でしこたまパンを買い、リッカの食堂に向かうのであった。