軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ちい兄様とヘラルド

マーギンは夜明け前に起きて帰ることに。外に出ると工房に灯りがついてた。

「一晩中やってたの?」

「ん?マーギンどうした?寝れないのか」

声を掛けると振り向くロッカ。

「いや、もうすぐ朝だよ」

「もうそんな時間か」

どうやら親父さんとロッカは剣のメンテナンスをやりながら、今までの時間を取り戻すかのように一晩中話をしていたらしい。

「俺は約束があるから一旦帰るわ。すぐに終わるならアイリスを迎えに来るけど、夕方までに戻らなかったらアイリスを送ってきてくれる?なんならそのままロッカ達の家に連れてってくれてもいいけど」

「アイリス用の部屋はバネッサのゴミでいっぱいだからまだ使えん。今度マーギンも片付けを手伝ってくれ、私達だけでは手に負えんかもしれん」

「手伝うのはいいけど、下着とか先に片付けておけよ」

マーギンがそう言うとロッカは真っ赤になった。

「じゃ、宜しくな」

マーギンが工房を出た後に

「下着を片付けておけとはなんだ?」

と意味がわからなかった親父さん。

「うるさいっ」

ロッカは真っ赤な顔で理不尽に怒鳴ったのであった。

家に帰ったマーギンは急いでオルターネン用の温熱回路を作る。これを今日渡しておかないとまた来てもらうはめになる。

温熱回路を作り終えたマーギンは待ち合わせ場所に行くとちょうどバアム家の馬車がやってきた。

「寒い中お待たせ致しました」

先に出てきたのはメイドのアデルだ。

「今来たところとだから大丈夫。はい、これちい兄様用の温熱回路」

「ありがとうございます」

「ちい兄様って呼ぶなって言っただろうがっ」

そう言いながらオルターネンも馬車から出てきた。

「マーギン、手土産だ」

とポイッと包を投げてよこす。

「おっとと」

ドスっ

「重っ これなに入ってんの… 入っているのでしょうか?」

ついタメ口を使ってしまったので慌てて敬語にする。

「チーズだ。特別に取り寄せたいい奴だぞ」

開けてみろという仕草をするので中身を見る。

「わ、ホール丸ごとじゃないですか。いいんですかもらっちゃって?」

チーズは結構高い。しかもこれはかなり上等なやつだろう。ラクレットチーズだろうか?

「構わん。ローズに色々としてくれている礼だ。あいつは剣技会に向けて気合入ってるからな」

「それでは遠慮なく頂きます」

やった、これ夜に炙って食べよう。何にチーズ掛けて食べようかなぁ。オーソドックスにパンか。ならハードパンを買わないとな。後は野菜にウインナーか。ライオネルでエビとか買っときゃよかったな。

マーギンはチーズを眺めて、何を食べようかと思案していた。

その間にオルターネンは馬車を帰らせ、マーギンがチーズを見てぶつぶつ言い終わるのを待っていた。

「もういいか?」

「あ、あぁ、すいません。つい、何をして食べようかと妄想してしまいました」

「チーズはそのまま食うもんだろ?」

「それもいいんですけど、炙って溶かして肉や野菜に掛けたり、溶かして様々な具材に付けて食べたりと色々出来ますよ」

「ほう、そう聞くとなんか美味そうだな。後で試すとしよう」

え?土産にくれておいて自分も食べるつもりかよ?

マーギンはえーっという気持ちが顔に出ていたようで

「嫌そうな顔をするな」

「あははは、嫌そうだなんてそんな…」

バレてる…

ふと気が付くと馬車がない。ということはまだなんか用事があるんだな。多分、刀の使い方のことだろう。

「この後の予定はあるか?」

「一応空けてありますけど」

そう返事をした時に

「マーギンっ」

ぎゅむっ

いきなり抱き締められるマーギン。ローズの抱擁なら大歓迎だが、ガチムチのおっさんに抱き締められても嬉しくはない。そう、抱きついてきたのは医者のヘラルドだ。

「ど、どうしたんだよ?」

「助かるっ 助かるぞっ」

「子供の熱が下ったのか?」

「そうじゃっ、あのお守りが効いたとしか思えんっ。両親が藁にもすがる思いで祈りながらあのペンダントを子供に着けたら熱が下がっていってな。今日まで様子を見ていたんじゃが、もうすっかり元気になったんじゃっ」

「そりゃ、良かったね。まだ安心は出来ないけど大丈夫そう?」

「寝たきりが長かったからしばらくリハビリが必要じゃが、もう少しずつ歩けるようになっとる」

「なら大丈夫そうだね。良かったよ助かって」

「両親がな、雪の華やあのペンダントの礼をしたいと言うておるんじや。今から行くぞっ」

と、ヘラルドがマーギンの手を引っ張っていく。

「そこの者、誰だか知らんが、今日は俺が先約だ。マーギンを連れて行くな」

「誰じゃお前はっ」

「人に名前を聞く時は先に名乗るのが礼儀だろうが」

明らかに苛ついたオルターネン。

「そんなもんはどうでもええわい。さ、マーギン行くぞっ」

それを無視するヘラルド。

「ちょっ、ちょっ。待ってくれよ」

慌てるマーギン。

「貴様、不敬罪で斬られたいのかっ」

ヤバいヤバいヤバいっ

「ヘラルドっ、ヘラルドっ、この人はバウム家の次男のオルターネン様だよ。まずいって」

「は?何でこんな所に貴族がおるんじゃ」

「俺と約束してたんだよっ。だからオルターネン様が先約っ。失礼な事をしたら本当に斬られても知らんぞっ」

「けっ、貴族の威光を履き違えたボンボンか」

だからいらぬ挑発をすんなって。

こらこらこら、オルターネン。剣に手をやるんじゃないっ。

「オルターネン様、この人は医者のヘラルド。ちょっと慌てているみたいで許してやって下さい」

「ヘラルド?」

「そう、西門近くで医者をやってるヘラルド」

「貴様、貴族街でも医者をやっていたヘラルドか?」

「そんな昔の事はどうでもええ。ぼっちゃんの用事が急ぎでないならマーギンを連れて行くぞ」

「ヘラルド、だから待ってって。俺はお礼もいらないから行く必要もないんだよ。気持ちだけもらっておくって伝えといて。今からオルターネン様と話があるんだよ」

「むぅ… そちらのぼっちゃんはバウム家の次男と言ったな?」

「そうだ」

「マーギンを呼んでいるのは子爵家の当主じゃ。どちらが優先か貴族なら理解できるじゃろ」

「子爵家当主だと?そんな証拠はどこにある」

「疑うなら構わんが、後で揉めてもワシは知らんぞ」

「ぐぬぬぬっ」

「ヘラルド、その貴族に俺の名前は出した?」

「いや、あのお守りの効果がなく、万一の事があればお守りのせいだとなってもいかんから名前は伏せてある」

「ならそのまま伏せておいて。本当にお礼とか不要だから」

「しかし、あのお守りに使われている石は宝石の一種じゃろ?かなり高価な物に違いないと言うておったぞ」

「あれは宝石じゃないからいいんだって」

「しかし…」

「本当にいいってば。助かったのは今までヘラルドが懸命に処置してからかもしんないし、両親の願いが神様に届いたのかもしれないし、それよりその子供が頑張って生きるのを諦めなかったお陰だよ。俺が渡したペンダントはたまたま治るタイミングだっただけだってば」

「お前は黙っていて欲しいんじゃな?」

「そう。両親にはお気持ちだけもらっておくと伝えておいて」

マーギンが頑なに礼はいらないと言い続けたのをヘラルドはようやく受け入れた。

「お前、今晩は家におるか?」

「多分ね」

「では夜にまた来る」

「あ、うん…」

一応引き下がったヘラルドは帰っていったのだった。

「お待たせ致したました」

「今の話に出ていた貴族はどの貴族だ?」

「いや、俺も知らない。お家事情もあるから聞いてない」

タメ口に戻っていることに気付かないマーギン。

「ならば貴族案件なのは間違いないんだな?」

「多分ね… 多分そうです」

「いちいち敬語を使わなくていいぞ。俺も堅苦しいのは苦手なたちだからな」

「そ、そう?本当に?」

「構わんと言っただろう」

「じゃ、遠慮なくそうさせて貰うよちい兄様」

「ちい兄様はやめろっ」

その後オルターネンの話を聞くとやはり、刀の扱い方が本題だったので、森の開けた場所に向かう事にした。

ーいつもの森ー

「ローズは剣技会であの剣を使うんだね」

「あぁ、だから俺もこいつを使うから使い方を教えろ」

マーギンはロングソードと刀の違いを説明する。

「なるほど、この反りは斬れ味を活かす為のものか」

「ロングソードだと、イメージ的に叩き斬るような使い方もするだろ?」

「相手が鎧を着ていればそうなるな」

「刀はそこまで丈夫じゃないけど、渡した刀と腕があれば鎧も斬れるかもしれない。ただ、本来は斬れ味優先の剣だから、そういう使い方ではなくて、鎧の隙間とかを狙って腕や首を斬り落とすとかになるよ。剣の攻撃を刀で受けるのもオススメは出来ないかな」

「なるほどな」

「ちい兄様が剣技会で勝ちを優先するなら使い慣れたロングソードの方がいいと思う」

「勝ちも優先するし、ローズだけに業を背負わすこともしない。俺は欲張りなんだよ」

ソウデスカ…

「剣技会って、1対1の勝負だよね?開始線で対峙して合図で試合が始まるイメージで大丈夫?」

「そうだ」

「なら、一瞬で勝負を決める方法がいいかな。一度見せると次に対応されるかもしれないけど」

「一瞬で決める?」

「うん、一度やってみようか。ちい兄様はロングソード、俺はその刀で対峙してみよう。口で説明するより、見た方が早いでしょ?」

「わかった。寸止めでやるが、止まらんかったら鎧を着ていないから危ないぞ」

「そこは気にしないで、魔法で鎧の代わりをするから」

「は?」

となるオルターネンをよそにマーギンは開始線の間隔をこれぐらい?と聞きながら引いて行くのであった。