軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

乗り遅れる

賊を始末した後は何事もなく進み、領主邸に寄る。

「マーギン様、旦那様はライオネルへの最終便でお戻りになられました」

「え? 最終便がもう出たの?」

「はい。11月末に最終便が出ますので。マーギン様はこのまま春までタイベにご滞在なさるのであれば、この屋敷をご自由にお使い頂いて構いません。旦那様よりそう申し付けられておりますので」

「え、あぁ、うん。ありがとう。多分大丈夫かな……」

執事によるとすでに12月になっているらしい。どこで数え間違えたんだ?

とりあえず領主邸から港に向かう。エドモンドが乗ったのは客船のはず。貨物船は12月頭から半ばが最終便だと言っていたから間に合うかもしれない。

一縷の望みをかけて港に行ってみる。

「あっ、マーギンさん。船長は待ちたかったみたいですけど、荷主から予定通りに出てくれないと困るとクレームが出て、昨日出港してしまいました」

と、貨物船の受付の人が教えてくれた。なんというタイミングの悪さよ……

「マーギン、もしかして今年中に王都に戻る手段がなくなったのか?」

と、オルターネンが聞いてくる。

「みたいだね。どうしようか」

「戻れなかったら成人の儀のやり直しパーティーはどうするの?」

そうなんだよなぁ。カタリーナの言う通り、ハンナリーは戻してやらないとダメだな。最悪転移魔法を使うしかないか。カタリーナの隠密は置いてけぼりにすることになるが仕方がない。

いや、あの気持ち悪さはもう二度と味わいたくないから、転移魔法を使うとしても皆を送って俺だけ残るか。しかし、魔物がまだ活発化していない間にアリストリア跡地に調査にも行きたい。マーギンは頭の中でぐるぐると考えを巡らせる。

「とりあえず宿を探そうか」

どっちにしろ、もう客船も貨物船も今年は出ないのだ。今のうちに豚肉とか仕入れておこう。転移魔法を使うかどうかは後で考えよう。

とりあえず宿をとってから飯を食う。ええーい、飲んじゃえ。

「俺は煮豚とビール」

「酒を飲むのか?」

「もう考えても仕方がないしね。この焦った気持ちも酒で流してしまえば良い考えが出るかもしれないし」

とマーギンが言うと皆も酒を注文したのだった。

翌日は肉屋巡り。あちこちの肉屋で豚肉と鶏の希少部位を買っていく。そして前におまけの鶏の足先をくれた店に。

「おー、お前か。久しぶりだな」

「しばらくぶり。豚肉と鶏のホルモンとか売ってくれるだけもらえるかな」

「そんなら全部出すぞ」

「そっちが困らないならいいよ」

と、冗談かと思ったら在庫を全部出してきた。

「出しといてなんだがよ、こんなに食い切れるのか?」

「タイベの豚肉とか鶏肉って、王都のより旨いんだよ。ソーセージを作ってる人がタイベに行くなら大量に仕入れて来てくれと頼まれててな」

「なるほどな」

「もし、定期的に豚肉を仕入れたいと言ったら取引してくれるかな?」

「事前に必要な量を言っといてくれりゃ揃えとくぞ」

「もしかして生産もしてる?」

「あぁ、弟達が養豚と養鶏をしてるぞ。だから結構融通が利くんだ」

なるほど。

「こいつはハンナリーっていうんだけどね、商会を立ち上げたんだよ。タイベと王都の流通業をするから、準備が整ったらお願いするかもしれない」

「冷蔵設備はどうするんだ?」

「それはなんとかする」

「そうか。なら本当に仕入れるようになったら言ってくれ。そんときゃ仕入れ価格にしてやるからよ」

と、言いながら、今回も仕入れ価格にしてくれたのでめっちゃ安い。店頭価格の4割引きだ。ついでに鶏の足先も大量にもらった。

その夜、オルターネンだけに転移魔法を使うかどうか相談する。

「お前、本当に使えたのか」

「そうなんだけど、俺は酷い転移酔いをするから嫌なんだよね。最悪みんなを転移させて、俺だけ残る事も考えているんだ」

「どこに転移をさせるつもりだ?」

「俺の家になるね。もし皆が転移酔いして気を失っても問題ないし、それを見られてもカザフ達だけだから問題にはならないと思う」

「俺達も気を失う可能性があるのか」

「昔の仲間は皆なんともなかったんだけどね。だから誰が転移酔いをするか分かんないんだよ」

「誰がそうなるか不明か。まぁ、それより転移魔法を使ったことがバレる可能性がある。緊急って程のことでもないから止めておけ。バレた方が厄介だぞ」

「バレたら厄介かな?」

「なんやかんや理由を付けて、どこどこにどうしてもいかないとダメだとか言われるようになるぞ」

自分がピンクのドア扱いされるのか。それは嫌だな。

「了解。もう春までタイベにいると思った方がいいね」

もう王都に戻るのは諦めて、ここで特務隊の訓練をするしかないな。

帰れない事が決定したので翌日から、領都で醤油の宣伝をしてみることに。昨日食べた煮豚は塩味。それはそれで美味かったけど、やっぱり角煮の方が旨いと思うんだよな。

マーギンは昨晩から角煮を大量に仕込んでおいたのを肉屋の店に許可を取り、その横で角煮の試食をしてみることに。その間、特務隊には組合に行って依頼を受けてもらうことにした。

「えー、角煮ぃ、角煮はいかがぁ。めっちゃ美味しいでぇ」

「醤油を使った煮豚の試食だよーっ。気になる人は食べてって」

ハンナリーのみならず、姫にスーパーで試食販売をするような役割をさせるマーギン。

「嬢ちゃん、醤油ってなんだ?」

「王都で新しく売り出される予定の調味料やねん。タイベでも人気あるならうちが仕入れてくんで」

無料で試食できるシステムが珍しいのか人が寄ってくる。しかし、この無料というのが怪しいようで、なかなか食べようとしない人々。

「ほら、1個食べてみぃな。めっちゃ美味しいで」

ハンナリーが話しかけてきた人に串に刺して渡そうとするが受け取らない。

「それ食ったら無理矢理なんか買わされるんじゃないのか?」

「そんな事をするかいな。今回は売るほど醤油持ってきてへんねんから」

「だけどよぉ」

渋る男。

「ねっ、食べてみて。本当に美味しいからっ」

カタリーナの食ハラ発動。串に刺した角煮を話しかけてきた男の口にグイグイと押し付ける。さすがだ。

「うっ、た、食べるだけで買わねぇからな」

グイグイっ

カタリーナは男の口を無理矢理開けるような感じで角煮を突っ込んだ。この男、姫様にあーんしてもらった事を知ったらどうするだろうか?

「ずいぶんと濃い味付け…… ムグムグ。旨いじゃねーかっ」

「でしょっ。この醤油は魚にもお肉にも合うのよっ」

「も、もうひとつもらっていいか」

「1人1つよっ」

「えーっ、ケチ臭い事を言うなよ」

「試食というのは1つだけって決まってるの」

これはマーギンに初めに言われていた事だ。味を知ってもらうためのものだから、2つめを欲しがっても断れと。

「それ、旨かったのか?」

「おう、魚醤に似た感じだが、魚の臭いはしねぇ。めちゃくちゃ旨かったぞ」

「なら俺にも1つくれ」

1人が試食して旨いと言ったことで次々に人が並び始めた。ここから角煮がなくなるのはあっという間だった。

「ごめんねー。もうなくなっちゃった」

食べられなかった人からブーイングが上がり、収拾がつかなくなりそうな気配だ。

「待てるなら他のを作るよ」

マーギンがそう皆に言うと、待つから早くしやがれっと怒られる。理不尽なやつらだ。

豚バラをスライスにして、甘醤油とすりおろし生姜を加えて炒める。簡易のポークジンジャーだ。

「ほらよ」

待ち切れない人々に1切れずつ箸で摘んで口に入れていく。おっさんおばはんにあーんするのも嫌なのだがいちいち串に刺すのが面倒なのだ。誰も人が口を付けた箸を嫌がらないし。

「あれ、親分。こんな事もしてやんすか?」

並んでいた中に元海賊がいた。人前で親分とか呼ぶな。

「王都に戻るのに客船も貨物船も今年の最終便が出ちゃったから、春まで帰れなくなったんだよ」

「そりゃ大変でやんすね。 頭(かしら) になんとかならないか聞いてきやす」

元海賊はポークジンジャーをモグモグしながら走っていった。

追加で何度かポークジンジャーを作り試食は終了。なぜか並んでいたカタリーナとハンナリーには後でちゃんとしたのを作ってやるからと言ってきかせたのだった。

「マーギンの親分、帰れなくなったんだって?」

マーロックがゾロゾロと元海賊達を引き連れてやって来た。俺が元締めみたいに見えるからやめろ。

「そうなんだよ」

「なら俺が送ってってやる」

「は?」

「ライオネルまでならなんとかなる」

「小さな船でライオネルまで行くのは危ないだろうが。冬は海が荒れるから客船も貨物船も終わったんだろ」

「大型船は外洋まで出るからな。陸地近くなら小型船でも問題ねぇ。その代わり揺れるぞ」

「何日掛かるんだ?」

「2日ってとこか。風が良ければもう少し早く着くと思うぞ」

「マジで?」

「あぁ。まだ空も荒れてねぇから、夜も大丈夫だ。まぁ、俺達は夜でも問題ねぇがな」

そう言って笑うマーロック。確かに海賊は夜の海をスイスイと岩場も船を動かしていたからな。

マーギンはマーロックの腕を信用して小型船で王都に戻る事を決めたのだった。