軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マーロックの操船技術

飯屋で晩飯を食いながら、マーロックがライオネルまで送ってくれることを皆に報告する。

「マーギン、小型の船で危なくはないのか?」

オルターネンが大丈夫なのか? と心配する。

「大型船と比べると危ないよ。外洋には出ずに岸近くを通るらしいけど、揺れるだろうね」

「船酔いは仕方がないとしても、難破したらどうするんだ。確実に溺れ死ぬぞ」

「本当にヤバそうなら魔法でなんとかする」

マーギンがそう答えるとオルターネンはピンときたようで、それ以上反対はしなかった。最悪の場合、転移魔法を使えばなんとかなるのだ。

「分かった。姫様は年明けからの社交会にも出ないとダメだろうから、戻るのを優先しないとまずいしな。マーギン、船酔いがマシになる良い方法はないか?」

「んー、あんまり酷いようなら魔法で眠ってもらうよ。ロッカ達もタイベに来る時に船酔いが酷くてそうしたから」

「強制的に眠らされるのか。それで大丈夫なのか?」

「多分ね」

船酔いに効く魔法はないからな。眠らせる以外に方法はない。

これで、マーロック達の船で戻る事が決定した。水は魔法でなんとかなるから、食べ物を作り置きしておかねばならない。揺れる船の中で調理は無理だからな。

「俺からも報告がある」

「なんかあったの?」

「ナムの村で聞いた見知らぬ魔物の事だ」

「組合にも情報が上がってたの?」

「パンジャの組合経由で見知らぬ魔物が出たらしいぐらいの情報だがな。パンジャには先住民のハンターもいるらしくてな、組合が動くかどうか確認されたらしい」

「で、組合は動くの?」

「いや、王国民のハンターが先住民達の所まで行く事はないらしい。行くとなれば先住民のハンターだけになるから難しいだろうという判断だ」

ハンター組合は国に属してはいないが、ハンターの大半が王国民だろうからな。パンジャに1番近いナムの村でも王国民が訪れる事はほとんどないのだ。王国民を憎悪する太陽神ラーを祀るミャウ族の所まで行くのは無理だろう。

「ならどうしようもないね。向こうから協力依頼が出ない限り、余計なお世話になると思うよ」

「そうだな。気にはなるがマーギンの言う通りだ」

確かに気にはなるが、今のところ動きようがない。

飯を食い終わった後、マーギンは部屋でサンドイッチやおにぎりといった軽食をせっせと作ってから寝たのであった。

ー翌朝ー

「マーロック、宜しくな」

「おう、任せてくれ親分」

だから親分はやめろ。

船は前に戦利品としてタイベに置いてあった船だ。こちら7人とマーロック、船員2人の10人が乗る。乗員ギリギリだろうな。

予定では明日の朝か昼には到着するらしい。何事もなく到着することを祈る。

まだ穏やかな海を船が滑るように進み始めた。

「マーギンっ、釣りしたいっ」

「あのなぁ。これは釣り船じゃないんだぞ」

「嬢ちゃん。釣りがしたいのか?」

マーロックはカタリーナが嬉しそうに釣りがしたいと言ったのを聞き入れてやるようだ。操船を他の人に任せて長い竿を船の後方の両側から角のようにセットする。

「これで釣るの?」

「そうだ。これは疑似餌といってな、魚が餌と間違えて食ってくるんだ」

「こんな大きな板を魚が食べるの?」

「これは疑似餌じゃない。水しぶきを上げるためのものだ。もう片側はコイツを付けてやって疑似餌を潜らせる。表層と中層を狙うんだ」

マーロックがカタリーナに釣具の事を説明する。いかつい顔の割に優しいなこいつ。

カタリーナは今の説明がよく分かってないようだが、早くやろうと喜んでいた。

バチャバチャバチャバチャ

表層を狙うための方は取り付けた板が水しぶきを上げている。

「あんなに水しぶきを上げてて魚が逃げないの?」

「大きな魚は小さな魚を海面まで追い詰めて食うんだ。その時に小魚は逃げようとして水面でバチャバチャする。あの水しぶきはそれを再現してるんだ」

「へぇー。こっちは竿がすっごく動いてるけど、何か釣れてるの?」

「こっちは下に潜らせるのと、こうやって疑似餌が動くことで本物の餌に見えるようになってる。ま、魚がいりゃ釣れるだろ」

そのまましばらく何も釣れずに船は進み、少し陸から離れたところに来た時にバシャンと大きな水しぶきが上がった。

ゴンゴンゴンっ

「おっ、来たぞ。この手袋をはめて糸をたぐり寄せろ」

竿にリールは付いていないので、カタリーナが糸をたぐり寄せる。

「きゃーーっ」

糸に引っ張られるカタリーナ。ローズがカタリーナの身体を持って支える。

「姫様っ、気を付けて」

「こんなの引っ張れないーーっ!」

かなり大きそうだな。カタリーナの力では無理かもしれん。

「おい、そっちのやつ、ボサッと見てねぇで手伝ってやれ」

サリドンがマーロックに手伝えと言われて手袋をはめて加勢に入る。カタリーナとの共同作業だ。

「せーのっ、よいしょっ。せーのっ、よいしょっ」

綱引きの要領で魚をたぐり寄せて来たところをマーロックがギャフを打って引き上げた。

「おっ、いいやつが釣れたな」

「わーーっ、大っきいっ。これなんて魚?」

「ブリだ。この時期のは脂がのってて旨いぞ」

「やったーっ! マーギン。なんか作って」

「船の上じゃ無理だ。冷やしておいてやるからライオネルに着いてから食え」

「えーーっ」

と、言っているうちに反対側の竿にも当たりが出た。

「そっちのあんちゃん。釣り上げてくれ」

今度はホープが1人で釣り上げる。同じくブリだ。

それからも仕掛けを入れる度にブリが釣れ、計6匹になった。

「もう、くったくたになっちゃった」

「青物はよく引くからな。満足したか?」

「うんっ♪」

ハンナリーは釣り上げられて血抜きと内臓処理だけをしたブリを見て味見をしたいと言う。

「火を使う調理は無理だぞ」

「ほなら生で食べようや」

ハンナリーも食べたいらしい。

マーギンは一匹魔法でさばいて軽く熟成魔法をかけてから刺身にする。

スリスリスリ。

ホースラディッシュをすりおろして、醤油と共に食す。

「旨っ」

「釣りたてなのに少し寝かせたような感じになってるな。さっき魔法でさばいたと言ってたがそのせいか?」

マーロックは今食べてもそんなに旨くないぞと言ってたのが、ハンナリーが旨いと言った事で味見をしたのだ。

「そうだよ。釣りたての歯ごたえと旨味が少し出たぐらいにしてある」

「このタレは魚醤かと思ったら違うな」

「これは醤油。大豆から作られてんだよ。タイベでも生産するつもりだけど、しばらくは王都から持ってきて販売するよ」

「塩で食うより旨いな」

「だろ? 辛いのはタイベでも育つのか分からないけど、帰る時に根を分けてやるから、気に入ったら育ててみたら?」

「ちょいと風味が違うが似たようなやつがあるから大丈夫だ」

へぇ、そんなのがあるのか。次にタイベに来た時に見せてもらおう。

釣りをしていた時は揺れも気にならなかった皆も、ドンブラコドンブラコとし始めてから気持ち悪くなってきたようだ。

船室はあるが、全員が寝られる程の広さがないので、船の後方に毛布を敷いて寝かせていく。ローズは船室に寝かせて、オルターネン、ホープ、サリドンは外だ。

「マーギン、陸地はずっと森かと思ってたけど、山もあるのね」

カタリーナが陸地を指差してそう言う。山というより大きな岩というか、てっぺんが三角の丘だ。

「ありゃ、遺跡だ」

えっ?

マーロックが見えている丘を遺跡だと説明する。

「何の遺跡だ?」

「先住民の遺跡らしいぞ。一度探索をしようとしたんだが魔物が多くて近づけなかったわ」

「陸地から行けるのか?」

「いや、陸地からだと森の中を抜けなきゃならねぇ。かなり鬱蒼としているからあそこに行くまでに迷うんだ。海から崖を登っていくほうがまだマシでな、なんとか登りきったら上は魔物だらけでよ、そのまま海に飛び込んで逃げたってわけだ」

本当に遺跡だとすると、多分、ムーを祀る遺跡だ。今は秘境みたいになってんのか。ナムの長老の話では破壊されたとか言ってたけど、あんなにデカい物を破壊出来るのだろうか? よく見ると裾野は木々に覆われているけど、あそこ全体が遺跡なのかもしれん。そう思うとピラミッドみたいに見えてくるな。ピラミッドって墓だったはずだけど、あそこにもミイラとかあるのかな?

色々と考えているうちに日が暮れて夜になる。操船を船員からマーロックに代わる。

「親分、寝てていいぞ」

「ちゃんと見えてんのか?」

「あぁ、俺は夜目が利くんだ」

もしかしたら自然に 暗視魔法(ナイトスコープ) を使ってるのかもしれんな。普通の人だとこの暗さの中で岩礁とか見えんからな。

マーロックは水面に隠れているであろう岩礁を水の動きで判断しているようで、時折舵を切って船の方向を変えていく。風はそこまで強くないがずっと追い風なのと、海流にのっているのか結構スピードが出ている。

ブルッ

なんか急に冷えてきたな。

「さすがにここまで来ると冷えてきやがったな」

「そうだな。ライオネルはもう冬だからな」

冷えてきた途端に波も荒くなってきた。ザップンザップンと船首が波しぶきを上げる。

アイテムボックスから追加で毛布を出して、それぞれに掛けていく。みんな薄着だから、丸まって寝ているのだ。

「ちょいと陸地から離れるぞ」

波が荒くなったことで、水面に沈む岩礁を見つけにくくなったと判断したマーロックは陸地から離れた。そのことにより、さらに波が荒くなる。

「大丈夫か?」

「あぁ、岩に当たるよりマシだ」

風の方向も変わったようで、船がジグザグに進む。船員達も帆を調整するのに忙しい。本来は船員をもっと乗せるのだそうだが、俺達が乗っているぶんギリギリの人数でやらなければならない。結構無茶な船旅だなこれ。

外に寝かせていたオルターネン達を船室に突っ込み、ロープでくくりつけておこう。外に寝かせてたら落っこちそうだ。船室にギチギチに詰め込んで縛っておくと罪人を運んでいるのかのようだ。

マーロックは大声で船員達に指示を出しながら頻繁に舵を切って操船する。この荒れ海の中を見事なもんだ。

こうして夜の荒れた海を乗り切ったマーロックは昼前にライオネルに無事マーギン達を送り届けたのだった。