軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私の値段は3万G

ガツガツガツガツ

風呂に入る前は何も食べたくありませんと言った少女はどこへ行った?

焼き上がったハンバーグを貪るようにして食う少女を見てマーギンは追加を焼き出した。

「もうお肉が口から出そうです…」

そりゃ、デカめのハンバーグを4つも食べたならそうなるだろ。

お腹をさすさすしている少女。虚ろな目も元に戻ったしもう大丈夫そうだな。

「なら今日はもう寝ろ」

「… 重ね重ねありがとうございました」

お腹をさするのを止めてマーギンの顔を見てお礼を言う少女。

「別に礼はいらん」

「わ、私はアイリスと言います」

少女はアイリスと名乗り、マーギンをちらっと覗き込むように見た。前に助けて貰った時に名前も知りたくないと言われたからだ。

「俺はマーギンだ」

てっきり名乗らなくていいと言われるかと思ったがあっさりと名前も教えてくれた。

「風呂入って飯食ったら落ち着いただろ?本当は飯食ってから風呂に入った方が身体にいいんだけどな。寝室はこっちだ。ベッドは俺のだけど嫌だとか言うなよ」

「あ、あの…」

「いいから今日はもう寝ろ」

マーギンはそう言って寝室の扉を開けてアイリスにベッドを譲った。

アイリスはどうしようと思いながらもベッドに入ると今まで経験したことがないふかふかで柔らかい布団に包まれてあっと言う間に眠りに落ちたのであった。

ーマーギンがアイリスを拾った頃のリッカの食堂ー

リッカは自分の部屋で泣いていた。父親達の話をこそっと盗み聞きしていて、マーギンが自分の事を女として興味がないとはっきり口にしたのを聞いてしまったのだ。でもどうしてこんなに悲しいのかがわからない。

そっか、私はマーギンの事が好きだったのか…

女として興味がないと言われて悲しいのはマーギンの事が好きだったからだと皮肉にも気付いたリッカ。

見てなさいよマーギンっ。絶対に興味がないと言ったことを後悔させてやるんだからっ。

さすがミリーの娘。ズズッと鼻をすすったあとに、悲しい気持ちから戦闘モードに切り替えていくのであった。

ー翌朝ー

「オハヨウゴザイマス…」

前にさんざんイジワルだ何だのと悪態を付いていた男にまた救けられたアイリスは気まずかった。しかも、その人が使っているベッドを占領して朝までガッツリ寝てしまったのだ。

掛け布団を掛けずにソファで寝ていたマーギン。きっと布団は一組しかないのだとアイリスは悟った。

「ん?もう朝か… ふぁぁあ、昨日遅かったからまだ眠いわ」

「ご、ごめんなさい…」

「いや、別にお前のせいだけじゃない。眠いから今日は店も休みだな」

「なんの店ですか?」

「前に魔法の事を話しただろ?ここは魔法書店だ」

「眠いからって店を開けなくていいんですか?」

「どうせ誰も来ないからいいんだよ。さて、朝飯にすっか」

朝飯は焼いたソーセージと目玉焼きとパンだ。インスタントスープも付いている。

「朝から豪勢ですね。昨日のハンバーグもそうですけど凄く美味しいです。このパンもすっごく柔らかいですし」

パンは普通の食パンだ。この世界のパンはハードタイプばかりなのでアイリスにとって食パンのトーストは初めてだった。

「ハンバーグはともかく、ソーセージと目玉焼きなんか焼くだけだろ?誰が作っても同じ味だ」

「いえ、パンはもっと硬いです」

「あれはあれで旨いけどな。朝から食うとアゴが疲れるんだよ」

「王都だとこんなパンを売ってるんですか?」

「いや、これは自分で焼いてるんだ。この辺で食パンを売ってるのは見たことはないな」

「自分で朝からパンを焼いたんですか?」

自分より後から起きたマーギンがパンを焼いていたとは思えない。

「これは材料を入れてタイマーをセットしといたら勝手に焼けるんだよ」

「え?」

「魔道具だよ魔道具」

「そんな魔道具売ってるんですか?」

「売ってないぞ。俺は魔法書販売の許可しか受けてないからな」

???となるアイリス。自分の質問とマーギンの話が噛み合ってないのだ。

「売ってないって… これはどこで購入を…」

「ああ、そっちの意味か。これは購入した物じゃなくて自分で作ったんだよ。うちにある魔道具は全部自作だ。部屋も暖かいだろ?」

部屋が温かいと言われて気が付く。そう言えば暖炉もないのに温かい。

「部屋も魔道具で温めているんですか?」

「そう。暖炉だと薪集め面倒じゃん。火事にも気を付けないとダメだからな」

「魔道具だと魔石が高くつく…」

魔石と言ってアイリスは魔導ライトの事を思い出した。バネッサからライトの中に入ってるのは高価な魔結晶と聞かされて返さなければと思っていたのだ。

「あ、あのこれもありがとうございました」

マーギンに会えたら返そうと魔導ライトは小さなカバンに入れていたのは幸いだった。

「あぁ、それか。お前ライトの魔法使えないだろ?やるよそれ。一つ持っときゃ便利だろ?」

「でっ、でも中に貴重な魔結晶が入っているって聞いて」

「いいよ別に。魔結晶ならまだあるから。使わなかったら金に困った時に売ればいい。そこそこの金になるらしいぞ」

「そ、そうなんですっ。3ヶ月分くらいのお金になるって聞いて」

「いいんだよ。俺が持ってても売りに行く所がないからな」

「え?」

「俺は異国人なんだ。魔結晶を売りに行ったらどこで手に入れたとか盗んできたんじゃないのかとか疑われたりややこしい事になるんだよ。お前はこの国の人間だろ?どこで手に入れたとか聞かれたら家にあったものだとか言えば済む話だ」

「で、でも…」

「いいから持っとけ。それにお前金持ってないだろ?」

「もっ、持ってますよっ」

アイリスは帰りの旅費として渡された金貨の袋をマーギンに見せようとした。

「あっ…」

哀れ、金貨の入った袋はリュックの中に入れてあったのだ。

「わかってはいると思うけど、リュックはもう出て来ねぇぞ」

「はい…」

「お前、これからどうすんだ?あてが外れたんだろ?」

「は、はい…」

「着替も必要だろうし… 俺の服は男ものだしサイズも合わないからなぁ」

マーギンは少し考えた。餞別に着替ぐらいは買ってやってもいいが、女物の服を売っている店を知らない。

しょうがない。娼館のババァに頼むか。あそこなら女物の服があるだろ。

「それ食ったら出掛けるぞ」

マーギンは朝食を終えて娼館に向った。

「こ、ここもしかして色街とかいうところじゃないですか?」

「そうだ」

連れて来られたのが色街と知ってサーッと青ざめるアイリス。

「ババァ、ちょっと頼みがある」

娼館に売られると思ったアイリスがあわあわしている間につかつかと慣れた様子でアイリスを連れて娼館に入っていくマーギン。

「おやマーギン。また売りに来てくれたのかい?今度は随分と貧相な娘だね」

青ざめている様子のアイリスを見て一瞬で状況を把握したやり手ババァ。

「は?なに言ってんだ?」

ババァに言われた事がなんのこっちゃわからないマーギン。

「ひっ、酷いですっ。優しくしておいて娼館に売るつもりだったなんてっ」

顔を真っ赤にして怒るアイリス。

「売るとか何言ってんだ?お前金を持ってないからババァに頼んで…」

服を譲ってもらおうと言おうとした時に、

「マーギン、その娘はまだ成人してないだろ?見習いなら3万って所だね。成人してるなら30万だね」

ババァがアイリスに値段を付けた。

「わっ、私は娼館で働きたいなんて言った覚えはありませんっ」

「あーはっはっは。だってさマーギン。で、なんの用で来たんだい?」

「え?」

「ババァ、俺が女をいつも売りに来てるとか冗談が過ぎるぞ。こいつは荷物と金を盗まれて着替もないんだよ。余ってる服とかないか?」

今までのやり取りが冗談だったと気付くアイリス。

「はっ、初めからちゃんと説明してくださいっ」

「アホかお前。俺が女を売りに来るような奴に見えんのかよ?」

見えるとは言えないアイリスはゴモゴモと口をつぐむ。

「着替ねぇ… 無いことはないけど、まぁ、気に入った奴があれば持っていきな」

「あ、あの…」

「だってよ。中古服だけどここのはちゃんと洗浄してあるから好きなの選べ」

「わ、わかりました」

マーギンとアイリスは中に通され、ババァに服を持ってきなと指示された遊女見習いが服を持ってきた後、マーギンにペコリと頭を下げてから部屋を出て行った。

「欲しいのがあったら持っていきな」

ババァが服を指さして好きに選べと言った。

「は、はい。ありがとうございます…」

今服を持ってきてくれた女の子は明らかに自分より歳下だ。アイリスはあんな娘が娼館にいた事に驚く。

「早く選べ」

戸惑うアイリスをマーギンが急かす。

「は、はいっ」

急かされたアイリスは慌てて服を選び出した。

生地はどの服も手触りがよく上等だ。買うとなればかなりの値段になるはずだ。しかし…

「どうした?」

「いえ、あのサイズが…」

背丈のサイズはどれも合ってはいるが、どの服も胸がガバガバなのだ。

それを見てクックックと笑うババァ。

「マーギン、その娘にはここの服は無理なんだよ」

「アイリス、入らないのか?」

「入り過ぎて余るんですっ」

「という事だよ。ケチだと思われたらしゃくだから見せてやっただけだ。お前が拾った娘なんだろ。服ぐらい買ってやる甲斐性見せな」

「どうして俺がこいつに甲斐性見せなきゃなんないんだよっ。ちっ、まぁいい。女物の服ってどこに買いに行きゃいいんだよ?」

「お前、3年もここにいてそれも知らないのかい?まったく… ちょっとは出歩いて人と接することを覚えな。おい、シシリー、コイツらを服屋に連れててってやんな。ついでに飯でも食わしてもらっておいで」

シシリーとは現役を早くに引退した元遊女だ。

「ハイ、マーギン。女の子連れてるなんて珍しいわね」

「別に連れたくて連れてる訳じゃないよ。でも悪いね付合わせて」

「たまには昼間の街をぶらつくのも悪く無いわよ。美味しいお店知ってるからそこでお昼ご飯食べましょう」

シシリーが美味しいというような店は高いに決まっている。

「マーギン、魔結晶を3つほど置いていきな」

ババァもシシリーが選ぶなら高い所で飯を食うだろうと算段し、魔結晶を買い取ってくれるようだ。

「3つも必要か?」

「あんたの作ったエアコンってやつは魔力をめちゃくちゃ食うんだ。魔石がいくらあっても足りゃしないんだよ」

苦心して作った省エネエアコンだからそんなはずは無いのだが…

取り敢えず魔結晶3つを50万Gで買い取ってもらって娼館を後にしたのだった。