軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マーギン、少女を拾う

「さすがに夜中は寒いな」

マーギンがリッカの食堂を出たのは深夜1時頃。冬本番はまだだが、夜中の王都は人気もなく冷たくシンっと静まり帰っていた。

「おー、さむさむっ。帰って風呂に入って温まろう」

両手で腕をさすりながら家に帰るマーギンは食堂で大将が言っていたことを思い返していた。

「リッカはそのうちボン・キュッ・ボンになるのか…」

リッカが女らしく成長した姿を想像してみる。

うーむ、確かに好みのタイプになるかもしれん。全く興味がないと言ったのは早まったか?

いや…

マーギンはその先も想像してみる。

「あんたらなにやってんだいっ」

その時に女将さんが両手を腰にやり、怒鳴っている姿が浮かんできた。ボン・キュッ・ボンの次はあれに変身するのだ。

「やっぱ無しだな」

マーギンはそう呟いたのであった。

ん?

くだらない想像は止めて早く帰ろうとすると…

こんな時間に軒先で蹲ってるやつがいる。しかも結構上等な服を着た少女のようだ。ここは色街にも近いし、遊女が逃げて来たのだろうか?いや、遊女だとこんな服を着ているはずがない。

「勇者パーティーの一員であるお前が市井の者にあまり優しくしたり構うな」

ミスティに毎回も言われていた事が頭に過る。少女に構わずに帰ろうか迷った末に、今は勇者パーティーじゃないしなと自分に言い訳をした。

「おい」

しかし、返事はない。まさか死んでるんじゃなかろうな?

「おいっ、死んでんのかっ」

マーギンは蹲っている少女の肩を激しく揺らした。その時少女は泣きはらんだ顔をあげた。

あっ、こいつ… 旅を舐めてた馬鹿者じゃないか。

蹲っている少女はライオネルからの帰り道に街道で野営していた少女だった。

「お前、こんな所でなにやってんだっ。このままここにいたら凍死すんぞ」

少女はマーギンを見上げたまま返事をせず、虚ろな目をしていた。

ちっ… 様子がおかしい。服装の乱れもないから男に襲われたわけではなさそうだが。

「こんな所で寝るな。どこか宿に…」

王都内とはいえ防犯上の事もあり、こんな時間から泊まれる宿はない。

あーっ、もうっ。

「俺に付いてこいっ」

声を掛けてしまった以上、このまま放置する訳にもいかずそう言ってしまったマーギン。しかし、少女は動こうとしない。

マーギンは冷たくなった少女の手を引いて無理矢理立ち上がらせる。

「付いて来いと言っただろうが」

立つには立ったが動かない少女の手を引っ張って家に連れて帰ったのだった。

「おい、どうした?何があった?」

そう問いかけても反応がない。

「何があったか聞いてんだよ。どこか怪我とかしてんのか?」

ここまで反応がないとさすがにまずい気がするマーギンはゆさゆさと肩を持って揺らした。

「あっ…」

その時少女はマーギンを認識した。

「おい、大丈夫か?」

「うっ、うっ、うわぁぁぁぁぁんっ」

マーギンを認識した少女はマーギンに抱き着いて大きな声で泣き出したのだった。

ー星の導きと別れた後の少女ー

少女は貴族街に入り、夕方まで掛かってようやく探しだしたボルティア家の屋敷を訪ねていた。

「どちら様でしょうか」

屋敷を尋ねると中には入れてもらえず執事と思われる人に冷たい声でそう聞かれた。

「あの…、私はアイリス… アイリスフローネと言います。お父… ボルティア子爵に会いに来ました」

「旦那様とお約束されていましたでしょうか?」

「きょ、今日来るとは言ってませんけど…」

「残念ながらお約束の無い方とはお取次ぎ出来かねます。お引き取りを」

「そっ、そんなっ。ではアイリスが、アイリスフローネが会いに来たとお伝え下さいっ」

「お引き取りを…」

「こ、これを見て下さいっ」

アイリスは胸から下げていたボルティア家の紋章の入ったペンダントを執事に見せた。

「…… このままこちらで少々お待ち下さい」

ペンダントを見た執事はそう言い残して暫く姿を消したのであった。

「お待たせ致しました」

「お父… ボルティア様はお会いになって…」

「こちらをお持ち頂き、お帰り下さいとの事です」

執事からジャラッと音がする袋を渡された。

「こ、これは…」

「領地までお帰りになるための費用だそうです。小金貨100枚入っておりますので港までの馬車代と船賃には十分かと思われます」

「そ、そんな…」

「お引き取りを」

何を言っても取り合ってもらえなかった少女は失意の元にボルティア邸を後にしたのであった。

ボルティア邸から追い払われた後、頭の中が真っ白になった少女はマーギンが声を掛けるまで貧民街近くの軒先で蹲ったのであった。

ーマーギンの家ー

「ヒック、ヒック」

大声で泣き続けた後、ようやく落ち着いて来た少女。

「落ち着いてきたならそこに座れ」

自分にしがみついていた少女を引き剥がし、取り敢えず椅子に座らせるマーギンはインスタントスープを作ってテーブルに置いた。

「で、お前は王都に来たらなんとかなるんじゃなかったのか?何があった?」

「………… 会って貰えませんでした…」

「誰に?」

「お父さんにです…」

「お前、王都に親がいたのか。会って貰えなかったとはどういう事だ?」

「わ、わかりません… うっ、うっ、うわぁぁぁぁっ」

会ってもらえなかった理由がわからないと言った後にテーブルに突っ伏してまた大きく泣き出した。

これはもしかして貴族絡みだろうか?

詳しく話を聞けないマーギンは勝手に少女を鑑定した。

名前:アイリスフローネ・ボルティア

年齢:14歳

魔力値:314

ほぅ、14歳で魔力値が300超えてんのか。なかなか優秀だな。魔力値の増え方が掛け算タイプなら最終的に800…いや、下手したら1000超えるかもな。それに火の適性がAだ。体力値もB、他はCとDか。この能力だとハンターのパーティーで攻撃魔法使いとして活躍出来そうだな。

魔力値の増え方は足し算タイプと掛け算タイプに別れる。足し算タイプは一定数伸びて行くので、子供の頃は魔力値が比較的高くて周りから期待されるが伸びは悪くて平凡になる。それに対して掛け算タイプは子供の頃は魔力の伸びが悪いが、伸び出すと一気に増えて行くのだ。

それと名前からするとこいつはやはり貴族筋みたいだな。会って貰えなかった父が貴族。って事は本妻の子供ではない訳アリの子供ってところか。これは深く追求しないほうが良さそうだ。

マーギンは詳しく話を聞くのを止めた。聞いてもどうしてもやれないし、貴族絡みの案件は面倒なのだ。

「ほら、身体が冷えてんだろ?冷めないうちにこれを飲め」

「何も食べたくありません…」

そうとうショックを受けたのだろう。食欲が全くなさそうだ。

「なら、湯を溜めてやるから風呂に入れ」

「お風呂なんてあるんですか… でも今は入りたくありません…」

ちっ、このまま冷えた身体のままだと風邪引くだろうが。

「お前が汗臭いから風呂に入れって言ったんだ」

いらぬ言い方をするマーギン。

「くっ、臭くなんてありませんっ」

「いーや、お前が臭かったから父親も会いたくなかったんじゃねーのか?」

「なっ…」

少女が怒った顔から泣き顔になりかけたのでしまったと思うマーギン。そそくさと逃げ出すように風呂場に行き、取り敢えずお湯を溜めた。

「ほら、こっちに来い。使い方わからんだろうから説明する」

「臭くなんてありませんっ」

「いいから来いっ」

自分は臭くないと言い続ける少女。確かに臭いとは思わないがそこそこ汚れている感じは否めない。

「湯船に入る前に身体を洗え。これが身体を洗う用の洗剤、こっちが頭を洗う用の洗剤。頭を洗った後はこいつを頭に付けて、最後に洗い流せ。湯はここをひねれば出る」

少女は無理矢理風呂場に連れて来られて驚く。湯船があるのも珍しいのに、見たこともない設備があるのだ。

「なんですかここ…」

「なんですかって、風呂場に決まってんだろ?お前、着替持ってるのか?」

「ありますよっ」

「あのデカいリュックはどこにやった?テントとかも持ってただろうが」

マーギンが少女を見付けた時からすでに荷物がなかったのは確認済みだ。今持ってるのは水筒と小さ目の肩掛けカバンだけ。その小さなカバンに着替えが入っているとは思えない。

「あ…」

「どこか宿屋に預けてあるのか?」

「宿屋には寄ってません…」

サーーッと青ざめる少女。

「なら盗まれたんだろうな。あんな所で蹲って動かなくなってりゃ格好の的だ。もう諦めろ、二度と出て来ない。てことは着替えもなしか…。ちっ、しょうがねぇから風呂に入っている間に服は洗っておいてやるからそこに脱いどけ」

「いっ、嫌です」

「なんでだよ?」

「しっ、下着とかもあるんですよっ」

「そんなことは解ってる」

「見られたくありせんっ」

「見るか馬鹿。魔法で洗って乾かしておいてやるって言ってんだよ。ウ◯チ付いてても問題なく綺麗になるから心配すんな」

またいらぬことを言うマーギン。

「そんなの付いてませんっ」

バンッ

真っ赤になって怒った少女は風呂場の扉を力任せに閉めたのであった。

風呂入った後に汚れた服着るの嫌だろうが… マーギンはブツブツ言いながら風呂場を後にした。

あの様子だと飯食ってなさそうだなと、何か食べる物を作っておいてやることに。

アイテムボックスからボアの肉とオーキャンの肉を取り出しミンチにしていく。作るのはハンバーグだ。いらないと言ったら自分で食べればいいかと思ったのだ。

玉ねぎを炒めて冷ましてからミンチと混ぜてこねこね。塩コショウと少しハーブを混ぜ込み成形。両手でポンポンと空気を抜いて、真ん中を少しへこませたら焼き上げるだけだ。ハンバーグはミスティの好物でよく作らされていたのでお手の物。

フライパンを温めて、ハンバーグのタネを乗せた所で少女が風呂から出てきた。

「た、タオルはあそこにあったの使ってよかったんですよね」

「あぁ… ってお前まだ髪の毛ビショビショじゃねーかよ」

マーギンは小さなタオルしか置いてなかった事に気が付いた。いつも魔法で乾かしていたから大きなタオルは必要なかったのだ。

マーギンは少女に近寄る。

「な、なんですか?」

スンスン

「やっぱり服が臭いな」

「臭くなんてないですっ」

マーギンはデリカシーの無いことを言った後に服に洗浄魔法を掛けて髪の毛も乾燥させた。

「ほら、これでスッキリしたろ。風呂から出た後に汚い服着るなってんだよ」

「きっ、汚くなんて… 今のどうやったんですか?」

蹲って埃だらけになっていた服が新品の様に綺麗になっていることに気が付いた少女。

「衣服洗浄魔法ってやつだ。うちの魔法書店で300万Gで販売しているから欲しかったら魔法書を買え」

「さっ、300万っ!?」

「そうだ。おっといけねぇ。ハンバーグが焦げる」

マーギンは少し焦げた臭いがしてきたキッチンに慌てて戻り、ひっくり返して蒸し焼きにしていくのであった。