作品タイトル不明
冷たい街
「結構進んだはずだが……後どれくらい進んだら北の連中と出会えるんだ?」
『レーボー大河』を北上して10分は経過したはずだ。
こんな大きな水場を、ヌルハート率いる北の連中が押さえないとは考え付かないが――――
「……ねぇ、赤月」
「何か見つけたか?」
「あそこ、誰か向かって来てる!」
バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ
バンダナが示した方向を深く見つめると、遠くから何者かが 泳(・) い(・) で(・) 来ていた。
気温も水温も寒いはずだが……風邪ひかないのだろうか。
――――いや、それよりも明らかにプレイヤーがこちらに向かって来ている。
間違いなく北の連中に違いない。
プレイヤーネームは“スパッツ”。
まるで水泳選手のようなゴーグルとキャップを付けており、クロールの泳ぎ方で水流を遡っていた。
そして――――
「トウッ!」
俺達の前まで泳いだかと思えば、グルグルと身体を丸めて跳躍する。
華麗に小舟の船縁へと着地した。
「やぁ君達、見ない顔だね!」
「初めましてと言うべきか。俺は赤月で、こっちがバンダナだ」
「初めまして!」
「うむ、丁寧な 客(・) 人(・) だね! 私はスパッツという者だ。突然だが、君達の来意を聞こうか」
その口ぶり、俺達が別会社のプレイヤーという事は知られているな。
であるなら、下手な隠し事は悪手だろう。
「俺達は北に商売を持ち掛けに来たんだ」
「ほう、何かを売りに来た……という事かな?」
「そうだ。例えば、こういうのとかな」
俺は『割れやすい腐食ポーション』を見せる。
流石に遺物で作ったポーションは隠しておくべきだろう。
あれはヌルハートに直接見せるものだ。
「これは……なる程、面白い物を持っているんだね」
「俺達の知り合いに特殊なポーションを作れる奴が居るんだ。これ程の物なら売り物になるだろ?」
作れるのは俺だがな。
スカーフには悪いが、北に居る間は彼が調薬してる体で話させて貰おう。
でないと、製造者として北に拘束されればたまったものじゃない……。
「確かに、これは価値のあるアイテムだ。だけど、客人が『ボレアス社』の者に売るのは例が無い。ここは執政官の判断に委ねよう」
「執政官?」
「――――私に付いて来るといい」
そう言ったスパッツは水に飛び込み、少し遠くの岸まで泳いでいった。
「ひとまずは、従うしかないな」
『ゴールド林』
俺とバンダナは小舟をスパッツが居る岸辺まで進め、陸に降りる。
そこは黄金色に染まった静かな場所だった。
空を覆うように枝を広げたイチョウの大樹が何本も立ち並び、ぱらぱらと葉っぱが舞い落ちる。
地面には幾重にも葉っぱが積もっており、踏みしめる度に乾いた音が小さく聞こえる。
「さて、君達には『コールド街』まで来て貰う」
「そこが……あ~『ボレアス社』が新大陸に降り立った所か」
「そう、新大陸での我々の本拠地だよ」
見た目は水泳選手みたいな姿だが、堅苦しいオーラが伝わって来るな。
ヌルハートが手掛けた部下なだけはある。
「所で、君達は何処から来たのかな」
「私が南で、赤月が東だよ」
「……なる程?」
「別会社のプレイヤーが仲良くしてはならない、なんて決まりも無いだろ」
「あぁ済まない。余りにも珍しい人達なもので……不快に思われたなら申し訳ない」
「いや大丈夫だ」
そこまで警戒に値するものでもないだろ。
ただ偶然出会って、偶然街建てて、偶然ポーションを売ろうぜってなっただけだぜ?
(何か……意外と気難しい人なのかな)
(この人だけというより、それが北の気風なんだろ)
あいつは何でも手元に置きたがる。
ヌルハート(祐介) 程、 支(・) 配(・) 者(・) という言葉が似合う奴もそう居ない。
だから自然と、その部下もガッチリとしなきゃ い(・) け(・) な(・) い(・) んだろう。
「もし北で物を売るってなったら、何か気を付けなければならない事とかあるか?」
「そうだね……君達は 階(・) 級(・) というのを知ってるかい?」
「階級? ステータスにあるやつ?」
「いや、それとは別に北では ヒ(・) エ(・) ラ(・) ル(・) キ(・) ー(・) が存在するんだ」
ヒエラルキーね、段々きな臭くなってきたぜ。
あいつ好みの 政(・) 策(・) だな。
「ヒエラルキーは6段階に分けられているんだ。一番上を総督として、次に執政官、その下に構成員、住民、客人、反乱分子と分けられてる」
「うわぁ……凄い堅苦しいやつだ」
「こうでもしないと、総督は秩序を維持出来ないと思ったんだろうね。今ではそのヒエラルキーを誰もが守って生活してるんだ」
総督――――
ヌルハートを頂点としたヒエラルキーの制度が『ボレアス社』の特徴だ。
執政官は幹部で構成員は彼に従うメンバー、住民は戦闘が得意で無い大多数。
客人は俺達の事で、かなりの下位に位置付けられている。
――――そして反乱分子。
彼らに人権を与える事はまずないだろう。
「ちなみに私は星5構成員だよ」
「星5?」
「構成員の中にも星の量で権力が違うんだ。星5は構成員の中では最上位に位置してる」
「凄いプレイヤーなんだね!」
「ははは、そうなるね」
星5構成員という事は、ちゃんと実力はあるんだな。
弱者を星5構成員にする程、あいつは甘くない。
やり手だという事を記憶に留めておこう。
「――――さて、そろそろ着く頃かな」
『コールド街』
それはまるで、寒さそのものに秩序を与えて築き上げた都市のように思えた。
まず目に入ったのは、街を囲うように築かれた分厚い防壁だった。
強固な石で構成された壁面は、これでもかと言う程に厚みがある。
それらが重々しい雰囲気を形作り、目の前の大きな門を出入りする者達も、全く雑多な賑わいを見せていない。
誰もが自分の立場を理解しているように、必要以上の私語もなく、決められた流れに従って行き交っている。
道の両脇には灰白色の石造りの建物が整然と並び、その屋根や窓枠には霜が薄く張り付いている。
どの建物も装飾は少なく、実用性だけを突き詰めたような造りをしていた。
「どうかな、我らが『コールド街』は」
「街ってより要塞じゃねぇか?」
「良く言われるよ。でも、総督はこれが最も正しい形だと定めたんだ」
見た所、この街には無駄が無い。
人も、建物も、制度も、全部が一つの目的のために歯車として噛み合っている。
だからこそ息苦しい。
つまらん街だな。
「綺麗だけど……ずっと見られてる気がするんだけど」
「気の所為じゃないよ」
さっきから、ジロジロと俺達は見られている。
別会社プレイヤーで物珍しさというのもあるだろうが、この場合だと 監(・) 視(・) の意味が強い。
「そもそも、ここまで来た客人は君達が初めてだからね」
「まぁ、突然知らんプレイヤーが来たら警戒する気持ちも分からんでもない」
それにしたって冷たい場所な事には変わらんがな。
ここでの常識は、東に居た時とはまるで違うだろう。
さて、どうやって立ち回ろうか。