作品タイトル不明
こいのぼり
それは巨大な青い鯉であった。
鱗は水晶のように透き通っており、まるで 飴(・) 細(・) 工(・) のような姿をしている。
身体の周囲には細かな水流のようなものが渦巻いている。
コイ=ノボリは俺達を迎撃しようと、大きな滝から飛び出していた。
「バンダナ! こいつの 身(・) 体(・) だ!」
俺は抵抗もせず、コイ=ノボリの体当たりに身を委ねる。
鱗に手をかけ、その身体にしがみついた。
バンダナも俺の意図に気が付いたのか、同じく身体にしがみつく。
「……っ! 体力が……!」
コイ=ノボリの身体に触れるだけでも、ダメージを喰らい続けている。
この細かな水流が逆鱗のように、触れる者を傷付けているのだ。
だが、このまま水面に叩き落されて即死しないだけマシだ!
ドッゴォォォォォォォン!!!
俺達はコイ=ノボリと共に大瀑布の下まで落ちていった。
水飛沫が宙を舞い、水爆が空気を轟かせる。
何とかして冷たい水中から顔を覗かせると、そこには小舟が浮かんでいた。
「乗って!」
俺は一足早く上がっていたバンダナに引き上げられた。
「小舟はもう1艘作ったのか?」
「うん、さっきのは落ちて砕けちゃったから」
俺は上級回復ポーションを飲み干しながら、周囲を見渡す。
突然現れたコイ=ノボリのお陰で一命は取り留めたとは言え、あのボスが何もしてこないとは思えない。
警戒を怠るな。
「バンダナ、あと何艘小舟作れる」
「3艘が限界」
「十分だ」
流石に水中で戦いたくは無い。
かと言って長期戦に持ち込まれれば、先に小舟が破壊され尽くしてしまう。
先に進む為、少なくとも1艘は残しておきたい。
残基は今乗ってる1艘と追加の2艘、小舟が全て潰される前にエリアボスを倒す。
肝心のコイ=ノボリは何処に潜んで――――
「バンダナ」
「分かった! 【家具製作】!」
俺達は遠くへ生成された小舟に向かって大きく飛び乗った。
次の瞬間、後方で水飛沫が飛び散る。
「グモォォォォォォォ!!!」
姿を現したコイ=ノボリは天高く飛び上がった。
そのまま水面へと自由落下する。
巨体が水面に叩き付けられ、空を切り裂く轟音と共に波が押し寄せる。
「なんて奴だ……!」
ただでさえ不安定な足場に、水中からの巨体に身を任せた攻撃。
これじゃ小舟がいくらあっても足りないぞ。
「【雷鯉】!」
バンダナは『三叉矛槍』を水面に浸し、小さな雷の鯉を放出した。
小さな雷の鯉は水中で放電し、雷光が迸る。
「グモォ?!」
その雷撃で感電したのか、コイ=ノボリは水面から顔を覗かせて悶える。
「出すのは頭で良いんだな?」
バキュン!
バキュン!
バキュン!
バキュン!
俺は『魂縫双銃』の引き金を引きまくる。
蒼白なる弾丸を連射し、その眉間へと撃ち込んだ。
「まだまだ止まらないよ! 【雷鯉】!」
「ここで押し切る」
バンダナはコイ=ノボリを逃さぬよう、追加で小さな雷の鯉を放出し続ける。
バキュン!
バキュン!
バキュン!
バキュン!
どうだエリアボス!
感電と麻痺で全く動けないだろ!
そのまま消し飛べ!
「グモォ! グモォ! グモォ!」
弾丸の雨に耐え切れず――――
バカンッ!
コイ=ノボリは破裂した。
「……何だ?」
倒したって雰囲気じゃねぇな。
まるで手応えが無い。
ログすら全く出てこない――――
つまり、戦いはまだ終わっていない。
「赤月! あそこ!」
バンダナに言われて上を見上げる。
すると、太陽に隠れて 何(・) かが宙を泳いでいた。
「グガァァァァァァァァ!!!」
その太陽に重なる影は、形容しがたい威圧感を伴ってゆっくりお降下して来た。
先程までの巨大な青い鯉とは、明らかに姿が違う。
細長く伸びた胴体に、頭部の左右からは長い2本の角。
砕け散ったはずの水晶の鱗は、今や刃のように鋭く逆立ち、日光を浴びて煌めく殺意を放っている。
そして何より――――
背中には、翼のように広がる巨大な水膜があった。
「鯉……じゃねぇな」
鯉には苦難を乗り越えた先で 龍(・) へと成る――――
そんな伝承が脳裏に浮かぶ。
滝を昇り切り、天へ至る為の姿。
まさしく、龍。
[第二形態へ移行]
ビキ、ビキビキビキッ!
空中に浮かぶ怪物の全身から、青白い亀裂が走る。
体内に秘める水圧と魔力を押し出すが如く――――
「伏せろ!」
「グガァァァァァァァァ!!!」
絶叫と共に、コイ=ノボリの全身が弾けた。
飛来するは、最初の姿を形作っていた、飴細工めいた水晶の外殻だった。
無数の破片が豪雨のように降り注ぎ、水面に突き刺さる瞬間、鋭い水柱を噴き上げる。
「掠っただけでヤバそうだな」
小舟の縁が抉れ、木片が削り飛ぶ。
先程までの体当たりとは比べ物にならない程の威力だ。
命中率はそこまでだが、その破片1つ1つが砲弾とそう変わらない。
「グルルルルル……」
コイ=ノボリはこちらを睨み付け低く唸る。
すると――――
「えっ?!」
俺達の小舟ごと、水面が浮かび上がった。
水そのものを巨大な手のように、一斉に小舟を持ち上げていく。
バキュン!
バキュン!
俺がコイ=ノボリに向けて蒼白なる弾丸を放とうとも、全く怯みもせず徐々に小舟が上昇していく。
それ所か、口の中へ周囲の水が渦を巻いて集まり始めた。
水を圧縮し、 収束し、 凝縮していく――――
「【家具製作】!」
「グガァァァァァァッ!!!」
その瞬間、極太の水砲が放たれた。
ズドォォォォォォォォンッ!!!!
空気が裂け、視界が白く染まる。
俺達がいた小舟は、跡形もなく消し飛んでいた。
「……っぶねぇぇぇぇぇ!!」
俺は空中で身を翻し、辛うじて別の小舟へと飛び移る。
バンダナも転がるように着地し、体勢を立て直す。
「このボス……強い!」
「いいぜ、ヒリヒリしてきたなぁ! おい!」
マイセラ=ファガスの時はそこまで楽しめなかったが、やはりボスは一度のミスで終わるヒリヒリ感が素晴らしい。
闘志を刺激させてくれるボスは大好きだぜ?
だが……いや、だからこそ、今回は商品となるポーションは使わない。
単純に商品を使いたくないってのもあるが、安易に楽して勝つボス戦なんてつまらんだろ。
出来る限りポーションは温存する。
「ぐぬぬ……何か弱点とか無いのかな?」
「弱点と言えば、あの 角(・) が怪しいな」
「角?」
頭に伸びている2本の角。
コイ=ノボリが攻撃する一瞬、角が発光していた。
単なる攻撃予測かと思ったが……あの角が大規模な水操作を可能としているのだとしたら――――
「確証は無いが、壊してみるしか無いだろ」
コイ=ノボリは再び天へ昇るように身をくねらせ、飴細工のような水晶外殻の破片を浮かばせる。
「グガァァァァァァッ!!!」
荒れ狂う咆哮を轟かせながら、水晶外殻の破片を一斉に発射した。
「【大津波】ッ!」
バンダナは『三叉矛槍』を飛来する水晶外殻の破片へと向けて、勢い良く水流を放出する。
水晶外殻の破片は勢いを弱めながら、次々と水面へと撃ち落とされていく。
バキュン!
バキュン!
バキュン!
バキュン!
その隙を狙うようにして蒼白なる弾丸を連射する。
向かう先は勿論コイ=ノボリの角!
「グガァッ?!?!」
角は容易に砕け散る。
コイ=ノボリは余りの衝撃に大きく怯み、水面へと自由落下していく。
「終わりだよ! 【雷鯉】!」
バキュン!
バキュン!
バキュン!
バキュン!
「グガァァァァ………!」
俺とバンダナは、動けなくなったコイ=ノボリに猛攻を仕掛ける。
雷撃と銃撃が轟音を掻き鳴らし、伝承の怪物は息を引き取った。
[エリアボスを撃破しました]
[水天昇鯉 コイ=ノボリを倒しました]
[『水天昇の龍玉』を入手しました]
[『龍成昇華の水膜衣』を入手しました]
[5000HGを入手しました]
[ランク33になりました]