作品タイトル不明
刺激を求めて
俺は『ケタケタ汽水域』のフィールドを駆け抜けていた。
ゆっくり景色を楽しんで、歩いて向かうというのも一種の楽しみではある。
「はっは!」
だがそれ以上に、この不安定な足場での ア(・) ス(・) レ(・) チ(・) ッ(・) ク(・) が楽しくなっていた。
木々の下には濁った湖があり、道中を通るには湖の底から這い出ている木の根っこしか無い。
勿論、普通なら落ちないように、慎重に飛び移るのが最適解なのだろう。
――――スリルが足りないな。
残念ながら、俺は刺激を追い求める男だ。
そんなつまらない道中だと、退屈してしまう。
そこで俺は考えた、どうせなら走っていこう。
一寸でも足を踏み外せば湖に落ちてしまうこのスリルを、俺は心の底から楽しんでいた。
カラカラカラカラ
ふと人魂に頭蓋骨を被ったようなモンスターが出現した。
陽気に駆け抜ける俺を撃ち落とす気だろう。
バキュン!
俺は宙に飛び出した瞬間、『魂縫双銃』の引き金を引く。
蒼白なる弾は頭蓋骨ごと貫通する。
[嘲りの亡霊を倒しました]
[200HGを入手しました]
撃ち落とされたのはお前の方だがな。
たった1体で迎え撃つとは良い度胸してるぜ。
カラカラカラカラカラ
カラカラカラカラカラ
カラカラカラカラカラ
『ケタケタ汽水域』を駆け抜けていくと、更に3体の嘲りの亡霊が出現した。
そして、その奥に更に巨大な頭蓋骨の人魂が浮かぶ。
ガタガタガタガタガタガタ
「今度は仲間まで連れてきたのか、面白い!」
バキュン!
バキュン!
バキュン!
[嘲りの亡霊×3を倒しました]
[600HGを入手しました]
俺は1発、そしてもう2発の蒼白なる弾を撃ち込んだ。
嘲りの亡霊は最初の奴と同じく頭蓋骨が砕かれ、二の舞を演じる。
ガタガタガタガタガタガタ
次の瞬間、巨大な巨大な頭蓋骨の人魂が、飛び移る間際に突撃をかましてくる。
「隙を狙うたぁやるじゃねぇか! だが――――」
バキュン! バキュン!
バキュン! バキュン!
バキュン! バキュン!
噛み付かれている最中、俺はゼロ距離で弾を連射する。
この『魂縫双銃』は前に使っていた『災極双転銃』より連射が効かなくなっている。
だがその分、1発1発が以前の倍近くの威力を誇る。
ガタガタガタガタ……。
[微笑みの亡霊を倒しました]
[500HGを入手しました]
「あ〜楽しかった」
やはりゲームには 刺(・) 激(・) という名のスパイスが必要だ。
刺激の無いゲームなんざ、退屈で仕方ない。
例えるなら、何の辛味の無いお子様カレーを延々と食べていれば、いつかは 飽(・) き(・) が来るようなもの。
単調な作業はつまらない。
だから、人は刺激を求めてゲームをするんだろ。
「……あそこか?」
『ケタケタ汽水域』を進んでいくと、丈夫な木の板で構成された港が見える。
遠目で見ても、人気が全く無い場所のように感じ取れる。
――――どうやら、ここがゴールのようだな。
『ゴースト港』
湿った風が、どこからともなく吹き抜ける。
だがその風は、生ぬるいはずの汽水域のものとは違う。
まるで墓地の奥底から吹き上がってきたような、冷たく乾いた気配を帯びていた。
ギィ……ギィ……。
朽ちかけた木製の桟橋が、波も無いのに軋んでいる。
どうやら『ゴースト港』というのは名前だけでは無かったらしい。
港に並ぶ船は、どれも異様だった。
帆は破れ、柱は傾き、今にも崩れ落ちそうな外見をしているが、不思議なことに完全に朽ち果ててはいない。
まるで壊れる瞬間で時間が止まっているかのようで、その姿を保っている。
まるで沈没船――――
いや、幽霊船のような風貌だ。
「本当に誰も居ないのか?」
住民はともかく、あの4人組はどこに消えたんだ?
まさか、神隠しに遭ったなんて言わねぇよな?
カラン。
どこからか、金属の落ちるような音が響く。
振り向くが――――
誰もいない。
カラカラカラ……。
背後で、聞き覚えのある音が鳴る。
「恨めし――――待て待て待て待て!」
瞬時に魂縫双銃の引き金に指をかけるが、寸前で止まる。
そのモンスターは何とも流暢に対話して、抑制しようとしている。
――――いや、モンスターじゃなくて、NPCか?
「あ〜あ、だから言ったのに」
ふと、声が聞こえる。
その者の身体は隠れきれていない。
何せ筋骨隆々の天使魔法少女の姿をしたオカマなんて、目立つに決まっているからだ。
「エンジェル、また会ったな」
「随分早い再会ね」
「んで……こいつ何だ?」
そのNPCの頭上には“船長 フック”と浮かんでいる。
確か『ピクシー村』で出会った”妖精の長 ティターニア”と同じカテゴリーの重要NPCか?
「いはやは済まないな、ここの 文(・) 化(・) みたいな物だ。自己紹介が遅れた、ここの船長をしているフックって言う者だ」
フックの身体は明らかに黒く半透明な姿をしており、骸骨を装飾品のように身に着けている。
その恐竜のような頭蓋骨が、フックの顔だと錯覚してしまいそうだ。
「赤月、お前もそこのエンジェルと同じく「遺物ハンター」って奴らだろ? なら、俺の 金(・) 儲(・) け(・) に付き合わないか?」
「金儲け?」
「どうやら、その船長ちゃんの船に乗ると 新(・) 大(・) 陸(・) へと行けるみたいなの」
「……マジで?!」
新大陸なんて物もあるのか……!
夢が広がるな!
「やっぱり、食い付くと思ってた。そう、この海の先――――正確には、ここから北西辺りに広い大陸があるんだ。きっと、そこでは価値の高い遺物だって取れるに違いない」
わざわざ、ここの大陸と分けているんだ。
もしかすれば、ここより格段に強い遺物が大量に取れるかもしれないな。
「それなら、早速その船で――――」
「――――と、行きたいんだが」
「え?」
「……まぁ話を持ち掛けて申し訳無いが、俺達にも準備ってものがある。それまで待ってくれないか?」
「……ちなみに、その時間は?」
[新大陸の実装をお待ち下さい]
「……………………」
つまり……実装待ち?
俺はエンジェルの方へ見やる。
すると、エンジェルの方も申し訳無いような、ぎこちない反応を取る。
「そりゃねぇだろ運営さんよぉぉぉぉぉ!!!」