作品タイトル不明
長閑な一日
「……あ〜大丈夫か?」
「……大丈夫だけど、何」
めっちゃ拗ねてる……。
――――いや、これは事故だって事故。
まさか『ノドカ山脈』に来た瞬間に目撃するとは、思いもよらなかったんだ。
「……赤月は何しに来たの?」
「ここの探索だ。最近、ずっとクエストばっかしてたもんでな……気分転換みたいなものだ」
「赤月もコツコツ系やるタイプなんだ」
コツコツ系……確かにあれコツコツ系のコンテンツか。
地道に――――
というか、石橋を叩いて渡る感じの育成方法だな。
「……いや、『遺物強化剤』目当てだ」
「げ、面倒くさい奴じゃん。良く集めてるね……」
「45個くらい集めた時点でギブアップしたがな」
「45個?!」
「そんだけ集めても、レートが重い。攻撃力なんか1個で2しか上がらないし、自動魔力回復なんか10個集めて1だぞ? ガチで割に合わん」
「うわぁ……」
これ100個以上集めて初めて強化の実感湧く感じだな。
やる事無い時にやる感じで良いか、『遺物強化剤』集め。
[『アマテラス社』アナウンス]
[『ノドカ山脈』にて『オンセン村』を解放しました]
[解放者 蛇者、木こり、爆弾愛好家、BAN]
突然アナウンスが流れる。
それは『ノドカ山脈』にて新たな街を解放したとの知らせだった。
俺が『遺物強化剤』集めに勤しんでいた時に、彼らはせっせと攻略を進めていたようだ。
「蛇者、木こり、爆弾愛好家、BAN……やっぱトッププレイヤーは違うな」
「いや赤月に至ってはその筆頭じゃん」
「筆頭になった覚えは無いんだがな……」
おかしいな……俺は清く正しい一般プレイヤーなはずだったのにな。
別に嫌じゃ無いが、改めて言われると照れる。
「ふーん……まぁ良いけど。あ、フレンド申請しとくね」
「お、サンキュー」
[プレイヤー ぽぽたんからフレンド申請を送られました]
[承認/拒否]
俺は承認を押す。
フレンド欄も結構色んなプレイヤーが多くなってきた。
特に意味は無いが、こういうの見るとゲームを や(・) っ(・) て(・) る(・) 感(・) はあるよな。
「そうだ、赤月ってイベント出るんでしょ?」
「そのつもりだな」
「やっぱ優勝狙ってる感じ?」
「そりゃ勿論よ」
やるからには全力で取り組むのが信条よ。
目指せ優勝――――
全プレイヤー蹴散らしてやるつもりだ。
その為にあの苦行をしていると言っても過言ではない。
こういうのは、地力も大事になってくるからな。
「あれ『オンセン村』じゃない?」
ぽぽたんが指差す方向には、確かに集落があった。
その集落は、まるで秘境に隠された温泉街のように湯気立っているようだ。
『オンセン村』
ここは霧が濃く、あまり周囲が見えづらい。
その上周囲が暖かく、温泉特有の匂いまで漂っている。
「赤月さん! お久しぶりです!」
そう言って駆け寄るは木こりだった。
彼女も他のトッププレイヤーと共に街を解放するまで成長しており、心なしか立派に見える。
「久しぶり。中々雰囲気良い場所だな、ここ」
これだけ 温(・) 泉(・) を強調されると、一度入ってみたくなるな。
このゲームにそんな機能あるか分からんが。
「木こり先輩、せっかくだし一緒に入りましょうよ」
「良いですよ〜実はここ限定で温泉に入れるんです!」
本当に温泉の機能あるんかい。
そう言われると俺も入ってみたくなるな……。
「……絶対見ないでよ」
「見ねぇよ、爆弾愛好家じゃあるめぇし」
爆弾愛好家、あいつは見るタイプだろ。
絶対見に行こうとするタイプだろ。
俺には分かるし、何ならその先の展開も読める。
「流石に女性と男性別々だよな」
「はい。あの温泉旅館を入って、右手の青色の更衣室が男性用となってます」
木こりが示した方向には、確かに小屋がある。
そこに入ると趣のある風呂場の受付玄関が広がっていた。
「ようこそ、お客様ですね」
その受付はシカの獣人のようで、その頭には可愛らしい飾り付けが施されている。
……凄い邪魔そうにもしている。
[ここでは温泉に入る事が出来ます]
[温泉に入りますか? 料金300HG]
[承認/拒否]
俺は承認を押すと、お金が引き落とされた。
1回入るのに300HG程度なら、全然安い買い物だ。
[入浴の状態となりました]
青色の更衣室に入ると、俺は瞬時に格好が下をタオルで撒いた半裸へと変化する。
いちいち遺物を脱がなくても、こうしてシステムから聞いてくれるのは親切設計と言える。
「蛇者、そこを退け。その先には花園が広がっている!」
「駄目だ変態。ここを通りたくば俺を倒すといい!」
「傍から見とる分には、なかなか興味深い光景やけどなぁ」
風呂場に入ると、爆弾愛好家と蛇者が言い争いをしており、その光景をBANは湯に浸かりながら見ていた。
「……知ってた」
爆弾愛好家、お前本当行動が読みやすいよな。
俺が想像した通りの展開になってるもん。
「おや、赤月さんやないですか。こんな所でお会いするとは」
「先日か……2日前ぶりくらいか」
「つい一昨日ぶりやね。クエスト詰め込み過ぎて、時間感覚バグっとるんとちゃいます?」
「違いない。単純作業程辛いものは無いな」
そうか、あのザリガニから2日経ってるのか……。
思い出すとフツフツと不快感が湧いてくるな。
イベントでは、せめてこいつには勝ってやる。
俺も温泉に浸かると、全身から疲れが解き放つような感覚が伝わって来る。
最近のVRMMOはこういう 感(・) 覚(・) にも拘っているから、ちゃんと現実の温泉とほぼ同じような感覚になっているのは凄い所だな。
「凄い落ち着くな……まるで、少し前の三つ星ホテルに泊まった時のようだ!」
「あ? 自慢か?」
「自慢」
こいつホンマ……三つ星ホテルとかズル過ぎるだろ。
機会があれば連れて行ってくれないかな……。
……やっぱいいや、鼻高くしながら解説野郎になるの目に見えて分かってる。
「……たまには、こうしてゆっくりするのも良いな」
「赤月さんには無縁やと思うてましたわ」
「俺だって偶にはゆっくりするよ」
俺はただの刺激求め野郎なだけだ。
戦闘や死闘なんかも、その過程でしかない。
こうした穏やかな刺激というのも悪くない。
「今気付いたが……メンツが濃いな。柄悪いアウトローに、会話下手な自慢野郎に、性格悪い腹黒狸か」
「後、女好きの変態だね」
「は?」
「自分だけ棚上げして語るんは、あまり感心せぇへんなぁ」
誰が柄悪いアウトローだよ。
……確かに柄悪いアウトローか。
柄悪いアウトローだったわ……。