軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隠しきれない熱ならば(コミカライズ開始記念)

「ノエル様、おはようございます。大好きです!」

「おはよう。今日も君は元気そうで良かったです」

「ノエル様のお顔を見れただけで、何でもできてしまいそうな気がします」

「それはすごいですね」

ノエル様と同じクラスになり、1ヶ月が経ったある日。

毎日世界の全てに感謝をしながら過ごしているわたしは、今日も朝一番に彼の元へ挨拶に行き、自席へと向かう。

そんなわたしを、斜め後ろに座るクラリスは頬杖をつき、呆れたような目で見つめている。

「本当、よく飽きないわね」

「当たり前でしょう。それにしてもノエル様、本当にお優しいわよね。わたしなんかにも毎日、お返事をしてくださるんだもの。わたしも彼のような優しい人を目指そうと思う!」

「……そうかしら?」

「えっ?」

「誰にでも優しいようには見えないけど」

どういう意味? と尋ねようとするのと同時に教室へ担任が入ってきたことで、わたしは慌てて口を噤んだ。

後で尋ねようと思っていたものの、すべての授業が終わる頃には、すっかり忘れてしまっていた。

「……冊子作り、ですか?」

「ええ。日直のあなたにお願いしたいと思って。もう一人はお休みのようだから、誰か友人を誘ってちょうだい」

「わかりました」

そして、放課後。本日の日直であるわたしは、明日の授業で使う冊子作りを頼まれてしまって。

最初は面倒だと感じたけれど、わたしが作った冊子をノエル様が使うと思うと、俄然やる気が湧いてきたのだった。

◇◇◇

教室に一人残り、冊子を作っていく。どれがノエル様の物になるか分からない以上、気は抜けない。

そうしてひたすら丁寧に作業をしていると、不意にドアが開く音がして。鼻歌を歌いながら何気なく振り返ったわたしは、思わずばさりと紙の束を床に落としてしまった。

「ノ、ノエル様……!」

「何をしているんですか?」

爽やかな笑顔を浮かべたまま、彼はこちらへと向かってくる。それだけで泣きたくなるくらい、心臓が早鐘を打つ。

「その、先生に頼まれたものを作っていて」

「一人で?」

「はい。誰か誘うよう言われたのですが、一人でのんびりやろうかなと思いまして」

他の誰かと作業することで、わたしが作ったもの以外がノエル様の手に渡ることを危惧しているだなんて、口が裂けても言えるはずがない。

優しいノエル様でも、流石に引くだろう。

「シェリーは本当に、良い子ですね」

「えっ?」

そんな中、ノエル様は何故かわたしの隣に腰掛けた。

予想もしていなかった信じられない展開に、夢ではないかと思わず頬を抓ってしまったくらいだ。

「ど、どうされたんですか!?」

「手伝います。二人でやった方が早いでしょうし」

「えっ」

ノエル様、やはり優しすぎる。彼にこんな雑用をさせてしまう申し訳なさと、一緒に作業出来る嬉しさを天秤にかけたところ、一瞬で後者が勝った。

「ありがとうございます、助かります……!」

「いえ」

「好きすぎて死にそうです」

「生きてください」

それからは他愛無い話をしながら、作業を進めていった。今のわたしは、数年分の幸せを使っているに違いない。

そしてわたしばかり話してしまっていたことに気が付き、慌てて謝ったところ「質問をしても?」と尋ねられて。わたしはもちろんです、とすぐに頷いた。

「僕のどこが好きなんですか?」

「す、すべてです!」

「そうですか。では、一番好きな所は?」

予想もしていなかった質問に戸惑いつつも、真剣に答えていく。ノエル様はそんな私を、いつもと変わらない穏やかな笑顔を浮かべて見つめている。顔から火が出そうだ。

そして一番好きな所、という難し過ぎる質問にわたしは内心頭を抱えた。ありすぎて選びきれないのだ。けれど彼を待たせるわけにはいかず、必死に選び抜いた。

「優しい所です」

「僕は、優しくなんてありませんよ」

そんな言葉に、わたしは首を傾げた。ノエル様はこんなにも優しいというのに。謙虚すぎるにも程がある。

「今だって、こんな雑用を自ら手伝ってくれているじゃないですか。ノエル様はとてもお優しい方です」

「普段なら絶対に、こんなことはしません」

「それなら、どうして……?」

そう尋ねたところ、ノエル様もまた不思議だとでも言いたげな表情を浮かべ「何故でしょうね」と呟いた。

やはり根が優しいのだろうと思いながら、整いすぎた横顔を見つめる。もしも神様がいるのなら、彼のような見た目をしているのかもしれないと本気で思った。

「……ああ、そういうことか」

やがてノエル様は何かに気が付いたようにそう呟くと、何故か困ったような、泣きそうな顔で微笑んだ。

「たった今、わかった気がします」

「…………?」

「こんなつもりじゃ無かったのに、困りました」

常に柔らかな笑顔を浮かべている彼が、こんな表情を浮かべるのは珍しい。何かあったのかと不安になってしまう。

もしかすると、こんな手伝いをして貴重なお時間を無駄にしたことを悔やんでいるのかもしれない。

「わたしに出来ることがあれば、何でも言ってください」

いつも彼からたくさんの幸せをいただいているわたしは、何かお返しをしたいと思い、そう声を掛ける。するとノエル様は泣きたくなるくらい、ひどく優しく微笑んだ。

「それではどうか、変わらないでいてくれますか」

「そんなことで良いんですか……?」

「はい。僕にとっては、何よりも嬉しいことですから」

どうしてノエル様がそんなことを望むのか、そして変わらないでいる、という言葉の意味も分からなかったけれど。

そっと頭を撫でていただいたことで、そんな疑問も頭から一瞬で吹っ飛んでしまった。この後帰り道にうっかり死んでしまっても、わたしは間違いなく一瞬で成仏できるだろう。

──この日、彼が生まれて初めての恋心を自覚したなんてこと、浮かれ切ったわたしは勿論、知る由もないのだ。