軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230 筆頭聖女選定会 一次審査20

「フィーア、本当にやるの?」

選定会の審査会場である病院の廊下で、往生際悪くプリシラが尋ねてきたため、私は笑顔で頷いた。

「もちろんよ!」

私の言葉を聞いたプリシラは一瞬顔をしかめたけれど、すぐに諦めた様子で聖女たちに向き直る。

そこには私たちを含め11名の聖女が集まっており、プリシラは彼女たちに向かって重症者を治癒する心構えを説き始めた。

聖女たちは熱心にプリシラの言葉を聴いている。

自分には人望がないから、聖女たちが話を聞くことはないと言っていたのは、どうやらプリシラの謙遜だったようだ。

この様子なら、『聖女全員で患者を治してしまおう大作戦』は上手くいくんじゃないかしら、と嬉しくなったけれど、残念ながら一人だけ例外がいた。ローズだ。

今日は全員で重症者の患者を治癒しましょう、と聖女たちを誘った際、ローズだけは「その手には乗らないわ! 私を陥れようとしているのでしょう!!」と言って、中等症の患者がいる病室に行ってしまったのだ。

昨日、プリシラがモーリスを治癒したことは知っているはずなのに、ローズはまだ何かを疑っているようだ。

そのため、ローズを除いた聖女全員が、重症患者の病室前に集合した形になっていた。

「ローズ聖女は王太后の子飼いで、教会に属しているわけではないから、他の聖女とは考え方が異なるのかしら?」

首を傾げながら、集まった聖女たちに聖石を渡していく。

すると、すかさずプリシラが聖石の説明を始めた。

「フィーアが渡した石は、魔法の威力を高めてくれるわ。重症者の治癒を行うのに一番大事なのは勢いだから、魔法発動と同時にこの石を使ってちょうだい。いい、ずどんよ!」

プリシラの言葉に、聖女たちが真剣な表情で頷く。

うーん、意外とプリシラは教師に向いているかもしれないわね。

そう思っていると、プリシラが私を指差した。

「ここにいるフィーアが、今からお手本を示してくれるわ」

「えっ、そこはプリシラがやるところじゃないの?」

まあ、プリシラったら大事な部分を私に押し付けようとしているわよ。

呆れてプリシラを見ると、彼女は真剣な表情で口を開いた。

「聖女たちはベストの方法を学ぶべきよ! 今後ずっと皆の指針になるのだから、最高のお手本を示すべきだわ」

プリシラは勢い込んで言った後、突然、脱力した様子で項垂れる。

「とは言っても、フィーアのやり方は誰も真似できないだろうから、参考になるかと言われたら絶対にならないけど」

「まあ、失礼ね。私のやり方はすごくシンプルで分かりやすいのに」

結局のところ、色々なものをそぎ落として、できるだけシンプルにした方が分かりやすいし、効果が高くなることに気付いたのだ。

そんな私が編み出したベストな方法を、参考にならないと言い切るなんて。

頬を膨らませていると、プリシラはちっとも反省していない様子で首を横に振った。

「シンプルにするほど、実力差が出るのよ。そして、あまりに差があると、全く別のものに見えるの」

回復魔法は回復魔法だから、別のものに見えるわけがないじゃない。

そう思いながらもプリシラの言葉の一部に納得するものを感じ、頷きながら聖女たちに向き直る。

「回復魔法のベストなかけ方は人によって異なる、ってプリシラは言いたかったのだと思うわ。私のやり方はとってもシンプルだから、独自の方法を編み出すためのベースにするのに向いているんじゃないかしら」

私は皆の前まで歩いていくと、聖女たちを見回しながら語りかけた。

「これからやってみるから、見て覚えてちょうだいね」

それから、10人の聖女たちとともに重症者の病室にぞろぞろと入っていく。

私は患者の前に進み出ると、笑顔で話しかけた。

「こんにちは、今から治癒しますね」

その際、念のためとアナに隣に並んでもらう。

いくら選定会の途中で抜けるつもりだと言っても、あまりに好成績を残すと後々面倒なことになりそうだから、アナと協力して治癒することにしたのだ。

プリシラには私の用意周到な計画が読まれたようで、顔をしかめて苦情を言われる。

「フィーアったら往生際が悪いわね! そんな小手先の誤魔化しをしたって、誰も騙されないわよ」

私が反論する前に、いつの間に仲良くなったのか、アナがプリシラに同意する。

「プリシラ聖女の言う通りね。フィーアはものすごい聖女なのに、抜けているところがあるのよね」

むう、私はちっとも抜けていないけど、あまりに優秀な聖女だと思われると後々面倒なことになりそうだから、誤解されているくらいがいいのかしら。

どうしたものかとアナを見つめると、緊張した表情を浮かべていたので、もしかしたらアナは軽口を叩くことで緊張をほぐそうとしているのかもしれないと思う。

そうよね、これまでアナはこれほどの重症者を治したことはないはずよね。

アナは真面目だから、担当する患者を絶対に治さなければいけないという責任感と、本当に治すことができるのかしらという心配で、ガチガチになっているのだわ。

私はアナの手をぎゅっと握ると、大丈夫よと頷いてみせた。

「アナ、あなたなら大丈夫よ」

アナの目を見つめてそう言うと、力強く頷かれる。

「ええ、私は昨日、寝る前に何度も魔法の練習をしたし、魔力回復薬も飲んだし、たくさん眠ったから万全よ! できないはずがないわ」

「その通りよ」

私はにこりと微笑むと、患者に向き直った。

それから、片手を上げると呪文を唱える。

「じゃあ、いくわよ。回復!」

アナも少し遅れて呪文を唱えた。

「慈悲深き天の光よ、我が魔力を癒しの力に変えたまえ―――『回復』」

私はアナが呪文を唱えるのに合わせて、患部がぴかぴかと光るようにエフェクトのタイミングを調整する。

昨日、サヴィス総長と話をした際、事務官たちはしっかり聖女たちを見ていることが分かったため、小手先だとしても誤魔化すことにしたのだ。

けれど、エフェクトのタイミングを合わせることに集中し過ぎたようで、魔力と速度を抑えることが疎かになってしまい、ぴかぴかと患部が光る前に患者の歪に曲がっていた腕が元に戻ってしまう。

「あっ、しまった!」

思わず声を上げたけれど、時すでに遅く、ぴかぴかと輝く患者の腕は既にまっすぐになっていた。