軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

231 筆頭聖女選定会 一次審査21

私の焦った声は皆に聞こえたはずだけれど、見学していた聖女たちは細かいことを気にしないタイプなのか、回復魔法の発動とエフェクトのタイミングがズレたことを指摘する者はいなかった。

というよりも、それどころではないようで、聖女たちは瞬く間に治癒された患部を凝視していた。

「……は?」

「えっ?」

「う、嘘でしょう!?」

目を丸くしてぽかりと口を開ける聖女たちに続いて、アナまでもが同じ表情を浮かべる。

「はあっ、曲がっていた腕がまっすぐになった!?」

いや、アナが驚いてどうするのよ。

そこは『私が治したのよ』と、堂々と胸を張るべきじゃないかしら。

そう呆れていると、今度は患者がびっくりした様子でベッドの上で飛び上がった。

「う、腕が治った? 嘘だろう!? だって、これは3年前の怪我の名残だぞ! そのまま骨が固まっちまったから、絶対に治るはずがないのに!!」

動転した様子で滅茶苦茶に腕を動かし始めた患者を見て、信じられないとばかりの表情を浮かべる聖女たちに、プリシラが先輩風を吹かせる。

「古い傷が完全に治るなんてあり得ないと、驚く気持ちは分かるわ。残念ながら、フィーアと全く同じようにはできないだろうけれど、患者を完治させることはできるはずよ!」

アナと協力して魔法をかけたというのに、プリシラは私一人の手柄のように説明しているわよ。

そもそも私と全く同じ魔法はかけられない、と決めてかかるプリシラの態度はどうなのかしら。

納得できないものを感じながら、私は聖女たちに向き直った。

「いきなり一人で重症者を治すのは大変だから、アナと私みたいに2人一組になって治すのはどうかしら。その場合、人によって魔力量と魔力出力量に差があるから、組み合わせが大事になるのよね。よかったら私が組み合わせを考えてもいいかしら」

選定会の初日からずっと、聖女たちが魔法をかける姿を見てきたから、皆の魔力量と魔力出力量は把握しているのよね。

聖女たちに視線をやると、皆は疑うような表情をしながらも頷いた。

そうよね。教会の聖女仲間であるプリシラならともかく、ぽっと出の私の提案なんて疑われて当然よね。

こうなったらベストな組み合わせを披露して、皆に信頼してもらうしかないわ。

私は聖女たちを見回しながら、最良だと思われる組み合わせを口にする。

「じゃあ、ペアになる2人の名前を言っていくわね。メロディとルドミラでしょう。それから、ケイティと……」

名前を呼ばれた聖女たちは、文句を言うことなくペアになっていった。

この場にいる聖女の数は11名と奇数なので、最後に余ったプリシラの相手に自ら立候補する。

「……そして、最後に残ったプリシラは私と組むのはどうかしら。あっ、でも、昨日も私と組んだから、嫌ならアナと組んでもいいわよ」

アナはもう一度、重症者を治したいかもしれないと思って追加で提案すると、彼女はぎょっとした様子で後ろに飛び退った。

「は? わ、私はたった今、重症者を治したわよね? フィーアに手伝ってもらったとはいえ、今世紀最大の偉業を成し遂げたところなのよ! 向こう3年くらい休んだとしても罰は当たらないわ!!」

まあ、昨日、重症者を治したプリシラと同じようなことを言っているわよ。

教会で流行っている聖女ジョークなのかしら。

けれど、もしもジョークでなく、本気で言っているのだとしたら、私は対応策を持っているのよね、とポケットから素早く小瓶を取り出す。

「じゃじゃーん、即効性の魔力回復薬よ! あらら、びっくり、これがあれば瞬く間に魔力が戻って、何度でも患者を治癒できるわ」

アナは驚いた様子で小瓶を見つめたけれど、すぐにはっとした様子で顔を上げると、ぶんぶんと首を横に振った。

「私は遠慮深い聖女なの! お返しができないような施しを受けてはいけない、と教会で学んだから遠慮するわ!!」

「まあ、アナと私の仲なのだから、遠慮なんて必要ないわよ」

笑顔でそう返すと、横からプリシラが口を挟んでくる。

「フィーア、重症者を治癒することは、私たちにとってあり得ないことなの。その常識が覆されようとしているのだから、これ以上の衝撃は必要ないわ」

なるほど、即効性の魔力回復薬はアナにとって衝撃なのね。

確かに、一度にたくさんの情報を与えられても、頭に入らないわよね。

私は魔力回復薬の小瓶をもう一度ポケットに仕舞う。

「そうよね、遅効性の魔力回復薬があれば十分よね。一次審査は明日まであるから、今日中に患者を治す必要はないのだったわ」

私の言葉を聞いたプリシラは半眼になった。

「フィーア、……あなたの考えって、私の想像の遥か上をいくのね。すご過ぎて、もう言葉もないわ」

言葉もないと言う割には、プリシラはぺらぺらしゃべっているわよ。

そう思ったけれど、指摘したら怒られることは分かっていたため、沈黙を守る。

無言で見つめていると、プリシラは聖女たちを促して、重症者を治療し始めた。

聖女たちは聖石を握りしめ、半信半疑な様子で重症者に向き合っていたけれど、一組目が完全に患者を回復させると、見学していた聖女たちから歓声が上がる。

「えっ、本当にできたわ!」

「メロディもルドミラも、私より能力が低かったはずなのに重症者を治癒したわ! と言うことは、私にもできるのかしら?」

「すごいわ! 今日は聖女の歴史が変わる日よ!!」

嬉しそうな聖女たちをにこにこしながら眺めていると、プリシラが私の隣ではあっとわざとらしいため息をついた。

どうしたのかしらと顔を上げると、疲れたような表情でぼやかれる。

「私はずっと筆頭聖女になるのは私しかいないと思っていたわ。今思えば、どうしてそんな夢物語を本気で信じていたのかしら」

まあ、教会ナンバー1の聖女が何てことを言うのかしら。

「ちっとも夢物語じゃないわ! プリシラは素晴らしい聖女よ」

本気で言ったというのに、プリシラはじとりとした目で見つめてきた。

「どうしたの?」

きょとりとして見返すと、プリシラはしばらく私を見つめた後、ふっとおかしそうに微笑んだ。

「いいえ、あなたは規格外の聖女なのに、本気でその言葉を私にくれるのね。……ありがとう、とても嬉しいわ」

「私こそ、プリシラみたいな素敵な聖女と知り合えて嬉しいわ!」

にこりと笑みを浮かべると、プリシラからもっと大きな笑みを返された。

そんなプリシラの全面的な協力もあり、翌日の夕方、病院内にいる全ての患者の治療が完了した。

基本ルールとして、一度聖女が治癒を開始した患者は、その他の聖女は治癒できないことになっている。

けれど、患者が最後の一人になったこともあり、他の聖女たちがやっている『連携治癒』という扱いにすることで、ローズが手を出した後に放置していた重症患者を、他の聖女が治癒することが許可された。

ちなみに、その話を聞いたローズは、聖女たちと一緒に重症者を治癒するのではなく、一人だけ残っていた中等症の患者を治すことを選んだらしい。

「重症者は連携相手に任せるわ。だから、私は別の患者を治していいわよね」と一方的に事務官に告げると、中等症の患者を治してさっさと王城に戻っていったとのことだ。

ローズは昨日、一人で中等症の患者の病室に行ったものの、「重症者の担当になっているから、他の患者は治癒できない」と事務官に断られてご立腹だったようだ。

そのこともあって、中等症患者を治癒することにこだわったのかもしれないけど、なかなか一緒に魔法を使えないわねと考えていると、プリシラとアナの朗らかな声が響く。

「「完了したわ!」」

その声に促されるように一人の医師が進み出てくると、重症患者を確認して大きく頷いた。

「……か、完治しています!!」

その瞬間、集まっていた医師と事務官は信じられないとばかりに目を見開き、空っぽになったベッドを呆然と見つめる。

部屋の隅では、完治した患者たちが楽しそうに体を動かしていた。

そして、聖女たちはそんな患者を笑顔で見つめていた。

「……は、そんな馬鹿な」

「まさか、こんなことが……」

こうして、多くの医師と事務官が呆然と立ち尽くす中、前代未聞なことに、筆頭聖女選定会の第一次審査は、全ての患者を治療する形で終了したのだった。