軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第948話 わたしたちの王さま⑦調書<後編>

「今日は登城されていないのですね?」

「はい」

「デルコーレ嬢とは面識はありませんか?」

「はい」

失礼と言って、ふたりで小声で話している。

なんで今日のことを重点的に聞かれるのかしら?

ふたり揃ってこちらを見る。

「わたしは聞かれたことに答えましたわ。そろそろお聞かせ願いませんか? 何があったのか。わたしにどんな嫌疑がかかっているのか」

「実に大した14歳ですね。普通の子女なら詰所に連れてこられただけで縮み上がり満足に話せなくなるのに」

父さまが座ったままの姿勢だけど、足に力を入れたのがわかる。

わたしはこの女性騎士に初めて会うと思うけど、これ喧嘩売られているのよね?

だったら受けて立たないと。パメラ・ロンゴは敵と認識を変えよう。

「そういう令嬢をお望みでしたら、そういたしますけれど。どうなさいます?」

一歩も引かずにいうと、ロンゴさんの顔が赤くなった。

「ロンゴ今日はおかしいぞ? すみませんシュタイン嬢。答えていただけて大変助かります」

「セローリア令嬢をどう思っていますか?」

「リノさまですか? 大切なお友達です。お祝いを直に言えなくて残念でした」

ケルバーさんが身を乗り出してくる。

「大変失礼なことをお尋ねしますが、婚約者とはいかがですか?」

「……いかがとは?」

聞かれていることは分かったけれど、あまりに失礼なので、行間なんか察してやらない。ちゃんと言葉にしやがれ。

わたしは知らん顔して首を傾げる。

「つまり。お嬢さまは記憶を失くしていると聞いております。クラウス・バイエルンさまが婚約者と聞いてどう思われました?」

どう思ったなんて、思春期の女の子になんてことを聞くんだ。でも話の流れはわかった。どういうストーリーを思い描いているのかは。

だったらやってやろうじゃないの。14歳の真髄を見せて進ぜよう。父さまの前っていうのが引っかかるけど、父さまも演技ということはわかるだろう。

わたしは両手を両頬に持っていく。

「クラウスさまをご覧になりました?」

わたしはふたりを窺う。

「あんなに見目麗しく、素敵な方がわたしの婚約者だなんて本当かって。夢なんじゃないかって思いましたわ」

「で、では。第二王子殿下ともお会いしたことありますよね? どう思われました?」

「殿下ですか? 聡明で素晴らしい方だと思います」

わたしはハキハキと優等生の答えを返す。

やっぱり思ってた通りのストーリーだ。わたしがロサに懸想して、リノさまを傷つけようとしたそんな筋書きにしようとしている。兄さまという婚約者がいるのにと思ったけど。そうか、記憶喪失がこんなところに力を発揮したわけね。

記憶が飛び、殿下に恋しちゃって、嫉妬に狂って、婚約発表の場で婚約者を傷つけようとする。自分の手を汚さず、デルコーレ嬢を脅して使って。陳腐すぎるし、穴がありすぎる。

ふたりはまた小声で何かを話す。そして頷き合った。

「本日の祝賀会で、第二王子殿下の婚約発表がありました。婚約者であるセローリア嬢に、デルコーレ嬢が刃物で襲いかかりました」

わたしは息を吸い込む。

「すぐに取り押さえられ、負傷者は出ませんでした。捕まったデルコーレ嬢は、シュタイン嬢に脅されてやったんだと。そう声高に叫んでいました。心当たりは?」

「全くありません」

「デルコーレ嬢は祝賀会の始まる前にあなたと会い指示されたと」

ああ、それで今日の行動を尋ねたのね。会って指示したって頭悪すぎだろ。会ってないって誰でも突っぱねるんじゃない?

手紙に書いてあったって捏造してくるかと思ったけど、もっと頭の悪い方法だった。

「短剣もあなたが用意したと」

「わたしは本日王宮に来ておりませんし、デルコーレ嬢に会ったことはありません。それにリノさまに何かしようだなんて思ったことはありません」

「友達だとおっしゃいますが、無事かどうかも確かめられないんですね?」

ロンゴはチロンと嬉しそうにわたしを見る。

「負傷者はいないと聞きましたが、第三部隊の情報は〝嘘〟だったということですか?」

「いいえ、嘘ではありません。ロンゴ、お前の態度はよくない。何かあるのなら、他の隊員と変われ」

ケルバーさんに言われて、ロンゴは不満そうな顔。

「ロンゴ隊員の聞き方もよくなかったですが、私もお尋ねしたい。負傷者はいないと聞いても、普通は心配するものではありませんか? あなたはデルコーレ嬢にやらせて失敗したことも知っていたのではありませんか?」

ふっと鼻で笑ってしまった。14歳らしくなかった。反省。

わたしは横を向いて、長い息を吐き出す。

「王宮の騎士は、祝賀会中に、第二王子殿下とその婚約者に怪我をさせるほどお粗末な方たちなんですか? それもたったひとりの令嬢が誰かを傷つけるのを許すほど?」

ふたりの騎士はハッとしている。

「第二王子殿下とダンジョンに行ったこともあります。殿下はお強い。その殿下がお披露目中、婚約者の近くにいて、婚約者に何かあろうはずがありません。

あなたたちの警護はそんなに隙だらけなんですか?

わたしはデルコーレ嬢が刃物を振り回したと聞き、まさかリノさまに襲い掛かったのだとは思いませんでした。会場でそんなことをして捕らえられ、負傷者も出なかったのだと。会場には多くの騎士さまも警備に当たられているはずですしね。それが何人かだったり、令嬢も剣の使い手だとかそうは思いませんでした。そうだったのなら、聞いた言葉にもう少し何かしらの含みが出たでしょうから。

ですから、リノさまたちは無事だと思いました。

重複しますが、わたしは今日お城に来ていませんし、デルコーレ嬢に会ったことはございません」

言い切った時、扉の外が騒がしくなる。

なんだと思ってそちらを見ると、扉が開いた。

現れたのはユオブリアの第二王子殿下。

「ロサ!」

思わず口から出ていて、わたしはハッとして口を押さえた。

いくら学園生で隔たりが普通よりとっぱらわれているとしても、名前呼びは親しすぎると思われる。それにロサに懸想しているんじゃないかと思われているっぽいのに……。