軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第938話 グレーンの王さま③酔う

バルドさんは目を押さえた。

「アレクシスさまに飲んでいただきたかった。出来上がったのを飲んでいただきたかった。それは叶いませんでしたが、ご子息さまに飲んでいただけた。享楽の神さまに感謝いたします」

バルドさんは虚空を見つめて手を組んで祈る。

「享楽の神さま、ですか?」

ルシオが首を傾げている。

これはアレクシスさまが亡くなった15年前に作られたお酒だという。

これならきっと酔うことができるだろうと、アレクシスさまが来るのを楽しみにしていたけれど、農場にやってきたのは衛兵たちだった。アレクシスさまが亡くなったと聞かされオーナーが変わる。農園の責任者はカルビという人に変わったけれど、製造酒の責任者はバルドさんが務めてきた。

そして1年半前またオーナーが変わり、農園の責任者が変わった。

兄さまは何度か農園に来て手続きやらをしたけれど、都合が合わなくてバルドさんとやっと会えたそうだ。

少し酔った感じで兄さまはとても嬉しそうにバルドさんと話している。

「私がマルシェで最後に販売するはずだった酒の味をみて、農園に誘ってくださったんです。収穫したグレーンで酒を作ってくれないかと。

私が勤めていた酒造は閉めることになってしまって、途方にくれながら手持ちのグレーン酒を売って凌いでいるところでした。

味がいいとおっしゃって。自分はウワバミで全然酔えないから、世間には出せないぐらい強い、自分の酔える酒を作って欲しいと言って。

それを聞いた奥さまが普通の売れるお酒も作ってもらわないとでしょうと注意なさって。とても仲睦まじい様子でした。

それでもなかなか酔えるお酒には至らず。やっと探していたグレーンを見つけ出せたんです。グレーンの王さまと呼ばれるものです。これがやっと収穫できて、出来立てをすぐに飲んでみたいとおっしゃったのに、私がお引き留めしたのです。1年成熟させれば、必ずもっと美味しくなると。

けれど、その間に……。ご恩に報いることができなくて心苦しかったですが、こうしてご子息に飲んでいただけて、本当に嬉しいです」

目を赤くしながら、バルドさんは嬉しそうだった。

そして兄さまも嬉しそうだ。

バルドさんからお父さんとお母さんの話を聞いて、嬉しそうにしている。

頬や目の周りが赤くなっている兄さまを初めてみた。

「兄さま、大丈夫?」

コップにお水を入れて前に置く。

「大丈夫だよ。お酒ってこんなふわふわした気持ちになるんだね。酔ったのは初めてだ」

とわたしに抱きついてきた。

え。

「に、兄さま?」

「リディーはいつもこんな気持ちになるの? ふわふわ、足が地についていない感じで」

と、兄さまがわたしの頬にキスをした。

酔うと、き、キス魔か。

わたしは焦る。

「兄さま、酔ったんだね。寝た方がよさそうだね」

「うん、リディーと一緒に」

なにスカポンタンなこと言ってるんだ。

「ちょっと、誰か手伝って。兄さまをベッドに」

「やだ。リディーと一緒がいい」

やだって、駄々っ子じゃないんだか……ら……。

潤んだ瞳。赤くした目と頬。ちょっと舌ったらずな感じで可愛い。

アダムとブライが兄さまの脇に肩を入れて運んでくれる。

兄さまとアダムの部屋のベッドに兄さまを運ぶ。

「大丈夫ですかねー、坊ちゃんは?」

バルドさんが酔ってしまった兄さまの様子にアセアセしている。

「バルドさんとお話ができ、ご両親のお話が聞けて嬉しかったようです。とても幸せそうに寝ました」

みんなもいい具合に酔っていたし、そこでお開きにした。

グレーン酒はとても美味しかったらしく、家族のお土産に買っていきたいそうだ。また明日お礼に伺うと言って、バルドさんと別れた。

夕方だったけど、みんなお腹はいっぱいなので食事はいらないし、お酒を飲んでしまったので風呂は使わないと言った。

わたしはもふもふ軍団たちに、食事とお酒を出す。

アオとアリはジュースが好きで、レオとクイはすっきりタイプのお酒、ベアは強い酒が好みだといったけど、ぺちゃぺちゃ舐めて、幸せそうな顔をしてすぐに眠ってしまった。高位魔物も酔わす酒! すごいな。

わたしもお腹はいっぱいだったので、シャワーだけのお風呂をいただく。湯船はなかった。残念。

早めにベッドに潜る。

兄さま、可愛かったな。

強いお酒ってこともあるんだろうけど、絶対にご両親の話を聞けて嬉しかったんだ。気晴らしのためだったけど、ここに来て本当によかったと思った。

朝ごはんの用意をしていると兄さまとアダムが起きてきた。

ちなみにブライは農園の周りを走ってくると鍛錬に出かけた。レオとアリとクイが嬉しそうについていった。人のいないところで〝鍛錬〟するだろうからブライの健闘を祈る。

続いてイザークとルシオがやってきて、ダニエルは朝ごはんすれすれに居間へとやってきた。ダニエルは朝は苦手なようだ。

兄さまの機嫌はすこぶるいい。

酔えたことも嬉しかったなら、とても気分がいいという。

ブライたちが帰ってきた。

息を弾ませている。レオたちもやっぱり暴れたようで、楽しかったらしい。

朝から元気だこと。

昨日差し入れてもらった、農園の野菜で作ったサラダとスープ。ソーセージもどきとゆで卵。それからふわふわパンをつけて。昨日いただいたグレーンジュース。

これは雪の中凍ったグレーンの実(冬に実をつける)を収穫してジュースにしたものなんだって。

寒さに負けないために糖分を蓄えている。それを自然に任せて解凍しながらゆっくり圧縮させるシステムで作っているそうで、すっきりした中に甘さがあるもの。わたしはすっごく気に入ってしまった。

そこまで雪の降らないこの地では、育てるのが難しいそうだ。希少なものだけど、お土産にも買いたい。そしてできたら種か苗をいただいて、ミラーダンジョンの寒いところで育てたい。

というわけで、お酒を買うのと、グレーンを買うのに、バルドさんを訪ねた。

バルドさんは快く、お土産選びにつきあってくれた。アドバイスが的確だ。

わたしが欲しかったグレーンはスノーグレーンというんだって。特別に木を剪定してくれて、それをくれた。挿し技の仕方を教えてもらう。

兄さまは最初に昨日酔ってしまい、挨拶もしなかったことを謝った。それから初めて酔えたことの嬉しさを余すことなく伝えた。

「あの強い酒はなんという名前ですか?」

「酔える酒ができたら名前をつけたいとおっしゃってました。〝アレク〟という自分用の酒をと。あの酒の名前はアレクです」

兄さまは嬉しそうにしている。

「アレクを作った、グレーンの王さまと呼ばれるグレーンの名は?」

「グレーンの王さまは〝バッカス〟と言います」

バッカス!?