軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第888話 忍び寄る悪意⑪なんとかしてくれる

4年生の声は小さかった。彼もまた進行方向を見ているんだと思う。

「昨日のことは本当に悪いと思っている。生徒会からも親からも注意がきたし、お前んとこに何かをする気はなかった。けど、昨日のを見たんだろう。やばいのに目をつけられた。

遊びにきてた弟が捕まってる。返して欲しければ、アランを餌にしてお前を連れてくるようにと。あんたには悪いけど弟が大事だ」

嘘をついているようには聞こえなかった。

この4年生が企てた、よくも恥かかせてくれたなという嫌がらせだったらよかったのに。そうじゃないこれは、結構まずい状況かも。

「リディアお姉さまー!」

前から走ってくる下級生の女生徒たち。2年生だ。名前は覚えてないけれど、A組の 娘(こ) たちでわたしを慕ってくれているようだった。

「お姉さま、お祭り屋台、おいしいし、楽しかったです!」

「行ってくれたのね、ありがとう」

「お姉さまは2ーAの劇、見てくれました?」

「あ、ごめんなさい。当番で予定が埋まってしまって、時間が取れなかったの」

「お姉さまはお忙しいですものね。それにしても、どこに行かれるんですか? 4年生の先輩と」

3人娘は、打って変わっての冷たい表情で4年生を見上げる。

「昨日、お姉さまと口論した方ですよね? お姉さまになんの御用ですか?」

なぜ昨日のイザコザを知ってるんだ?

それもびっくりしたけど。ど、どうしよう。

「今、謝ってもらったの。それで仲直りしたのをみんなに見せるのに、一緒に歩いているの」

ひとりの子が頬を膨らます。

「そんなことで、せっかくの学園祭にお姉さまを独り占めするなんて、よくないわ」

「あ、わたし3人にお願いがあるの。きいてくれるかしら?」

パッと嬉しそうな顔をする3人。

「お姉さまの役に立てるなら嬉しいわ」

「任せてください」

「できることはなんでもしますわ!」

わたしは4年生を見上げる。

「少し待ってください」

わたしはもふもふのリュックから出すフリで、収納ポケットから紙とペンを出す。

そして、アランお兄さまが捕らえられていること。4年生は弟を人質にされていること。お兄さまを捕らえられていると、わたしを連れ出すように指示されていることを書いた。書いた紙を折って3人娘に託す。

「わたし当番に遅れそうだからこのメモを届けて欲しいの。お祭り屋台の……」

そこから声を潜める。

「歩き出してから、一番初めに声をかけてきた人にそれを渡して」

わたしを守ってくれてる人は、わたしの様子がおかしいことに気づいているはず。

だからわたしとこの娘たちが別れたら、彼女たちに話しかけるだろう。

一番最初に話すのは、護衛のふたりか、アダムのどちらか。

3人は驚いただろうに、気を引き締めた顔で頷く。

「お姉さまは 大(・) 丈(・) 夫(・) で(・) す(・) か(・) ?」

その言葉に全てを含ませて心配してくれてる。

「わたしは、大丈夫」

だから笑ってみせる。

わたしも魔法が使える。身を守れるだろう。もふもふも強いし、守られてもいる。心配なのはアランお兄さまだ。

それからそんな状況だということを、わたししか知らない点。

状況を伝えられれば、なんとかしてくれる。

いいところに3人娘が来てくれて、伝えることができそうだ。

わたしがあとできるのは、〝なんとかしてくれる〟までの時間を稼ぐこと。

「悪いけど、頼んだよ。よろしくね」

「「「はい、お姉さま」」」

見送ってから4年生と歩き出す。

「どういうつもりだよ? 見られてるぞ、多分」

「あの娘たちに何かする方がリスクが高いでしょ? 手のこんだことをしてわたしを連れて来いと言ったのなら、秘密裏にしておきたいみたいだし」

大っぴらにわたしを連れ去ろうとしていない、そこが利点だ。

やりすぎたらアウトだけど、最大限にそこを利用しなくちゃ。

4年生は最初にわたしへあらましを告げたことからも、根っからの悪い子でもないし、頭がどこまでも悪いってこともなさそうだ。それならと尋ねてみる。

「アランお兄さまはどこにいるの?」

「別棟に連れて行ったけど、その後はわからない」

お互い進行方向だけを見て、小さな声でボソボソ話す。

「わたしをどこに連れて来いって? どんな人?」

「何考えてんだか知らねーけど、連れていくからな。弟が捕まってるんだ」

「そのことは誰が知ってる?」

「? 誰も知らない」

「捕まったところを見たの?」

「一緒にいるときに捕まえられて、俺だけあんたを連れてくるように放されたんだ」

敵さんも考えたね。

よくわからないけど、学園は聖樹さまによって守られているらしい。

生徒ひとりひとりと、聖樹さまは繋がっている。繋がっているものしか、学園には入れない。まずその強固なセキュリティーが緩くなるのが、外からの接触を許すとき。式典、それから学園祭のようなイベント。

ただし、繋がっている生徒に害がなされたとき、聖樹さまの検知に引っかかる。大きな魔力が動いた時もだ。すると警備兵が現れて対象者を捕獲する。

繋がっていない者が何かをしたら、すぐに検知される。けれどそれが繋がっている生徒のやったことなら、多少は目眩しになるという面も併せ持つ。そこを突かれたんだ。

「傭兵あがりみたいな奴だ。俺じゃ敵わないし。弟をどうされるかわからないと思って」

「みんなで助かるよ」

「え?」

「だからあなたも協力して」

「本当に弟も助けてくれるか?」

「あちらとしてはわたしが目的なら、弟さんに重きを置いてはないでしょう。あなたにいうことをきかせるためだけにだわ。弟さんよりあなたの方がいいように使われそうだと思う」

「ど、どういうことだ?」

「あ、シュタインちゃん! 喉乾いてない? ジュースあるよ?」

イベントで一緒になったことのある先輩、だそうだ。わたしはよく覚えてないけど、会うとみんな声をかけてくれる。

「入りましょう」

「おい!」

4年生はわたしの肩を持とうとしたけれど、もふもふが肩越しに威嚇した。