軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第825話 無意識

3人がいなくなっただけなのに、お屋敷はどこかガランとした気がする。

「トスカ客人が来たぞ」

シモーネが教えてくれた。

客間に入ると、ソファーに座っていた青年が立ち上がった。

紺色の髪を少し伸ばして、後ろでひとつに束ねている。

もふもふに目を止め、それからわたしをじっと見た。

「イザークだ」

「トスカです。あなたは魔力がオーラとして見えるって。みんながわたしの魔力を見てもらえって……」

「ああ、聞いているよ。だから来たんだ。特に何をしなくても見えるけど、よく見るために隣に来てもらっていいかな?」

わたしは彼の隣まで近づく。

「緊張しないで、座って大丈夫だよ」

わたしは彼と一緒にソファーに座る。

「……といっても、……初対面相手に緊張するのは無理ないな。話しながら見させてもらおうかな」

愛想のある人ではないけれど、優しい人というのはわかる。わたしを気遣ってくれている。

「ロサたちから聞いたけど、バッカスに捕らえられていたのに、バッカスに挑むのは怖くないの?」

「ロサたちには言わないでくれる?」

イザークは目をパチっと 瞬(またた) いてから頷く。

「怖くないっていうと嘘になる。最初は、同じ檻にいた子たちがみんな拐われてきて、魔力がないってわかった途端、ひどい扱いされてて。拐うのも酷いし。そんな組織はなくなるべきだと思った。潰そうとしている人たちがいて、そのことを知れた今、参加できるチャンスを逃してその事実から顔を背ける方がわたしには怖いことだったの」

もふもふが膝の上に乗ってきたので、背中を撫でる。

「だから潰したいんだと思ったんだけど、もしかしたら違うのかもしれない」

「違う?」

「わたしは今までの記憶がない。わたしバッカスで悪いことをしてたのかもしれない。それも叩かれて仕方なくやっているんじゃなくて、わたしが企てたことがあるかもしれない。みんなそんなはずないって言ってくれたけど。

無意識にわたしは、わたしのした悪いことを隠したくて……」

「証拠隠滅のために組織を潰そうとしたのかも?って思ったの?」

わたしは右隣のイザークを見上げて頷いた。

「……本来の君はとても繊細なんだね。でも幾重にも守ってもらっているから、その不安を見せないようにしているだけ。その裏返しがふてぶてしさになるわけだ」

まだ会って、数分しか経ってないと思うんだけど、そのイザークに思われるほど、わたしはふてぶてしいの?

眉根を寄せていると、慌てたようにイザークが言った。

「ごめん、今のは独り言」

独り言?

「瘴気のことが知りたいなら、まずルシオに見せるはずなのに、俺が先だったわけがわかったよ。君は悪いことに加担なんかしてないよ」

ええ?

「なんでわかるの?」

「悪いことをすると魂がすり減るのか、オーラの色がくすむんだ。君のオーラはとても澄んだ色。悪いことはしていない。断言する」

「……その悪いことの定義って何? 魂のすり減り具合での見定めるんだったら……わたしが何を悪いと思うかが基準だよね? わたしが悪い人間で、悪いことを悪いことって思わずにやっていたかもしれない。それで魂がすり減ってないのかもしれないじゃん」

「君、人を拐ってくることをいいことだと思う? 悪いことだと思う?」

「悪いこと」

「行き場のない子供たちを集めて、それに魔法を込めさせる。最低限の生きていける食べ物を与えるだけで。これはいいことだと思う? 悪いことだと思う?」

「食べる術がそれしかなくて、子供が自分でその道を選んだのなら、悪いこととは言い切れないと思う」

イザークは口元を 綻(ほころ) ばせる。

「犯罪に手を貸して報酬をもらうのはいいことだと思う? 悪いことだと思う?」

「良くないことだと思う」

「無意識っていうのは心の根本にあるもので、そうそう変わるものではないんだ。たとえ記憶がなくなろうとね。君のいいことと悪いことの判定は一般的だ。君は無意識に悪いことは悪いことと認識している。ゆえに、記憶をなくす前も、魂をすり減らすような悪いことは絶対していない。オーラがそれを証明している」

「本当? わたし、悪いことしていない?」

「絶対してない」

ボロボロと熱いものが目からこぼれた。

「君のオーラはとても綺麗だ。澄んだ色で、光が入ったように所々輝いている」

もふもふに顔を舐められたのも手伝って、わたしは泣きながら笑い声をあげた。

「それはおかしいわ。わたし、魔法が使えないぐらい魔力がないんだもの。そんなふうに見えないでしょ?」

「魔力は封じられているようだから、魔法は使えないだろうけど、しっかりオーラには現れているよ?」

「魔力が封じられてる?」

イザークは目を大きくした。

「それぐらいみんなわかってそうなものだけど。そうか、みんな君に慎重になりすぎて言えなかったってことか。全く頭のいい奴らが……。

君、組織から肌身離さずように持っているように言われたもの、ない?」

え?

わたしは服の上から鎖骨あたりにぶつかるネックレスを押さえた。

「両親が残したっていうネックレスなら持ってる」

「見せてくれる?」

わたしは首からネックレスを取り、イザークに渡した。