軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第823話 大好き<前編>

山をおり数時間馬を走らせると、街を覆う塀が見えた。

フォルガードの街に入るための審査を待つ列は長く、なかなか進まないのをひたすら耐えるしかない。

その間、フランツがナイフを使って木を削っていた。

何を作っているのかなと思っていると、親指ほどの板に花が浮き上がっている彫刻をしていた。板には丸みを帯びさせているので、そこを彫っていくのも難しいはず。フランツ器用だな。その板の両端近くに穴を開けた。

別に細い棒を削って作って、その2つの穴へと棒を通した。

できたと言ってから、手のひらの上にそれをのせ。

え? なんか表面がツルツルになっていく。

「風魔法ですべすべにしているんだ」

わたしが不思議に思っていたことを解説してくれた。

魔法か!

「トスカにあげる」

「え」

でも、これはなんだろう……?

「……髪留め?」

フランツはにこりと笑った。

「前髪が長くなって邪魔そうにしているから」

フランツがわたしの前髪を後ろに流すようにして、その髪を板で押さえ、棒を穴に通せば、前髪が落ちてこなくなった。

おおおおお。

大きなため息が聞こえる。

「フランツ、やるなら可愛くやってあげなよ。僕が直すよ、いい?」

フランツは頷いた。

アダムはどこからかクシを出して、わたしの髪を梳く。

そして前髪と横髪の少しを後ろに流すようにして、髪留めをつけてくれたみたいだ。

「似合うよ、トスカ」

「トスカ、いい感じだ!」

ロサもガーシも太鼓判を押してくれた。

わたしは整えてくれたアダムにお礼を言ってから、可愛い髪留めを作ってくれたフランツにもお礼を言った。

その後すぐにわたしたちの番になり、ロサが身分証を見せると役人さんたちが激しく動き回った。なんかいい部屋に通された。ロサが手続きをしてくれたので、身分証のないわたしも簡単な審査で入ることができた。

お茶をいただき待っている間に、手続き完了。

ワーウィッツという国を出て、正式にフォルガードへ入国したようだ。

大陸違いの国に、これだけ拠点をいくつも持つことができる経済力がすごい。隠れ家のお屋敷はかなり立派なものだった。

わたしたちが隠れ家に到着したのが一番早く、その後に、エダ、ミミ、マトン、ジンの順で到着した。無事を喜び合う。安心したけれど、またすぐにお別れとなった。わたしは3人と何人かのフォンタナの戦士と一緒に、〝蜘蛛の巣〟に近い隠れ家へと向かうからだ。

旅立つ前日、もふもふを挟んでミミと同じベッドで寝る。

ミミは言った。

「私ね、駄々をこねようと思ったの」

駄々をこねる?

「トスカに行っちゃ嫌って大泣きして、組織を潰す方にいくのを止めようと思ってたの」

「え?」

「トスカって突っ張ってるけど、チョロいもの。泣いたら絶対に私を見捨てられないわ」

ミミは自信を持って言っている。

チョロいって……。

決して涙に絆されるぐらい、甘っちょろい性格とは思わないけど。

「だけど、トスカ、笑うようになったから。私たちにはできなかった笑わせることが、あの人たちにはできたのね。それなら、トスカのこと任せてもいいわ。だから駄々はこねない。けど、怪我しちゃダメよ。怪我したら、許さないんだから!」

わたしはミミに抱きついた。

ゆっくり離して、目を見て伝える。

「ありがとう。わたし、捨てられて記憶がなくなったって聞かされて、本当は痛かった。でも痛がったら奴らの思うツボだから、何も考えないようにしたの。感じないようにしていれば、きっと痛くないから。そんな日が続いて、もうどうでもよくなりかけてた」

ミミはわたしの瞳をじーっと見ている。

「そんな時、ミミたちの班に入れられた。

食べ方も忘れちゃったの?ってスプーンを持たせて、こうやって食べるのって世話を焼いてくれた。あの時、疲れてひねくれていたから、食べ方知ってるって思ってたけど、心の奥で嬉しかった。わたしが腐りきらず、諦めずにいられたのは、みんなといられたから。だから逃げ出せて、こうして道が開けた。

すっごく感謝している。大好き!」

「私もトスカが大好きよ! 逃げ出せたのはトスカのおかげだし、それも感謝してる。どこに行っても、私のこと忘れないでね」

そこで一気に現実に引き戻された。

そうだ。今度は別れたら、お互いどうなっていくかわからない。流動的になるだろう。だとしたら、わたしたちはもう会うことが難しいかもしれない。

「わたしお金貯める」

「え?」

ミミが声を上げる。

「いっぱいお金を貯めて、ちゃんとみんなに会いに行くから」

ミミの茶色の瞳が潤んだ。

「約束ね。絶対、また会おうね」

ミミとわたしはひしっとお互いにしがみついた。

お互いの目の端の涙を拭きあって、笑った。

気持ちが繋がっていれば、きっとまた会える。

そう強く思いながら、わたしたちは一緒にいられる最後の夜を過ごした。

わたしが出発する時、みんな玄関まで見送りに来てくれた。

みんなから無理だけはするなと言われる。

また会おうと約束して、頷き合った。

カラッとさっぱり、明るく別れた。

大丈夫、会いたいという気持ちがあれば、いつかまたきっと会うことができる……。

馬をひたすら走らせて、街から街へと渡る。

森を見かけなくなり、お洒落な佇まいになってきた。

と思ったら、フォルガードの王都だという。

王都に〝蜘蛛の巣〟があるの?

いや、なんというか、悪いことする犯罪組織だから、〝アリの巣〟みたいに鉱山という触れ込みの隠れ蓑でとか、忍んでいると思ったんだ。

それが国の最大権力のお膝元で、悪いことしてんの? 堂々と?

でもそういえばユオブリアでも王都に支部があったと言ってたっけ。

大胆不敵な奴らだ!

王都の隠れ家も立派なところだった。

余程お金持ちのスポンサーがいるみたいだ。

広いお風呂もあった。

もふもふと一緒に入ってさっぱりとする。

おいしい食事をいただき、お茶の時間になった。

作戦会議をするというから、わたしは気合を入れて赴いたのだが……。

「私たちは〝蜘蛛の巣〟の偵察に行ってくる。トスカにはその間に会って欲しい人がいるんだ」

「会ってほしい人?」

ロサは頷いた。