軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第776話 いいこと悪いこと⑨神獣の力

『何があったのですか、フレデリカ姉さま?』

『あの者が我を愚弄した。我からの言葉を利用してリディアに言いがかりをつけた!』

『姉さまを愚弄した?』

止めにきたはずのノックスさまの纏っている火が、激しく燃え盛る。

神属性だからか、頭に血がのぼると攻撃をしそうな感じ。

人族の振る舞いに嫌気がさし滅ぼそうとして、聖霊王がそれを止めたって創世記が頭をよぎる。

それ、まずい。大問題でしょ。

『ノックスよ、気を鎮めろ』

『聖なる守護者、あなたはリディアに言いがかりをつけられて、黙っているのか?』

あ、目が違う。いつものノックスさま、フレデリカさまと目がまったく違う!

「フレデリカさま、ノックスさま、ご気分を害するようなことを言って申し訳ありませんでした。人族が、本当に、ごめんなさい」

『リディアが謝ることではないわ』

「お怒りを鎮めていただけませんか? 不愉快なことを言っていましたが、神獣さまを不快にさせるつもりは、本当になかったんだと思います」

わたしを不快にさせたかったんだと思う。不快にというか、追い詰めたかったのだと。それが思わぬところで神獣たちを怒らせた。

『我も、我が友に降りかかるものは防ぎたいが、リディアを信じてもいる。リディアは自分でなんとかできるところは自分でする。我はその邪魔はしない』

もふさまの言葉を、神官長さまは通訳しなかった。

あ、神官長さまは神獣の声は聞けても、聖なる属性の声は聞こえないのか。

フレデリカさまのブルーがすーっと下がって、元の純白の鳥へと。

ノックスさまの纏う火も落ち着いてきた。

フレデリカさまがミッナイト殿下を見据える。

『リディアの意を汲んで、お前へ直接の制裁は止めるが、お前の国の教会は潰しておく』

え?

『空の守護者、神獣・フレデリカが、神を冒涜する、第3の大陸、セインの教会に制裁を下す』

ええっ?

神官長さまが跪いた。地にひれ伏している。

わたしたちがいるのは屋内だ。そして廊下などがあるから、窓はあるけれど、直接外に繋がる窓はない。それでも、外(世界)が光った気がした。その少し後に、微かにゴゴーっと響く音がした。

ま、まさか。

わたしは何が起こったの?と、もふさまに視線を送った。

神官長さまが耳を押さえてから、陛下の元へ走った。

そして陛下へ耳打ちする。

陛下が咳払いをした。

「ミッナイト殿下」

青白い顔の殿下がビクッとする。

「セイン王国、王都、全ての教会が跡形もなく消えたそうです。……人は無事のようだが……それから、先ほどからの様子が、全教会に映し出されていたようです」

え。

え。ええ。

ふと視線を戻すと、手乗りサイズとなったフレデリカさま、ノックスさまが、テーブルの上にちょこんと座り、仲良くお茶で喉を潤していた。

水色の鳥がミッナイト殿下の肩や手に、どんどん飛んでくる。放心状態の殿下はドナイ侯が連れ出した。

おふたりは何事もなかったように、お茶菓子を食べている。

神獣ってわからない!

っていうか、わたしもどうしていいものか、わからない!

とりあえず、お尋ねする。

「フレデリカさま、わたしに用事というのは?」

フレデリカさまはキュルンとした、まん丸の真っ黒な瞳をわたしに向けた。

『リディアの家に行ったのよ。そしたらとても素敵な布が干されていたわ』

早耳、じゃなくて、早目? 恐らく上掛けのことだなと思う。

一応確かめると、端のところを桃色の糸で模様織りしてある上掛けのことだった。

わたしは数日前までいたある村で織ってもらった布なんだと話した。

他にはどんな織物があるのだと聞かれて、わたしは試しに織ってもらったものをフレデリカさまに見せる。

『とても可愛らしいわ。リディア、糸を用意したらそれでこんなふうに織ってもらうことはできるかしら?』

「うちの店と契約して織ってもらうことになっているので、多分できると思います。糸を染めるのもなかなか楽しくて……」

ふと、用意する糸って普通のだよね?と疑問が浮かぶ。

「フレデリカさま、その糸って……」

『空雲職人から分けてもらうわ。それで虹を纏わせようかしら』

フレデリカさまはうっとりした表情だ。

「フレデリカさま、その糸は人族が触れられるものでしょうか? 見えたり触れられたりしないと織れないと思います」

フレデリカさまは、まあるい目をもっとまん丸にした。

『人族に渡したことがないから、それはわからないわ』

「もし見えたり触れたりできなかった時は、人族の糸で勘弁してください」

『ええ、そうね、わかったわ』

ノックスさまには、もふさまの夢に入った時のことを改めてお礼をいうと、照れている。あの時も遊びに来てくれたみたいなんだけど、今度ゆっくりご飯を食べに来てくれというと、喜んだ。フレデリカさまは気が済んだみたいで、ふたりは帰るという。

フレデリカさまは最後に神官長さまに、神の言葉の窓口であるはずの教会なのに、腐したところが多すぎる。腐るなら神の名とは別のところで腐れとすごい迫力で言った。

ふたりが帰っていき、わたしは陛下に御前で勝手に話をしてすみませんと、一応謝った。でもカッとなりやすそうな神獣さまが話を聞いていて、何に反応するかわからないので、用事を終わらせた方がいいと思ったのだ。

止めにも入られなかったので、みんなその方がいいと思ったのだろう。

とりあえず、済んでしまった事はどうしようもないけれど、あれ以上に問題が起こらなくてよかった。

宰相さまと父さまが入ってきた。陛下が呼んだのだ。

宰相さまはご存知みたいだったけど、たった今起こったことを陛下は告げた。

ノックスさまがいらしたところあたりからの映像が、そのまま各教会に流れていたらしい。

ただラッキーなことに映像はあまり鮮明でないそうだし、神力のある神官にしか見えたり聞こえたりはしてないそうだ。

ただ声は鮮明だったという。

神官にはそれが神の遣いの方たちだとわかった。

ユオブリアの国王と数人、神獣と聖獣がいる。そしてセインの王族に連なるものが、神獣を怒らせるようなことをした、と。

それを一介の少女が謝って許しを請うている。

その名前と神獣、聖獣といることから、両加護のある少女で間違いないだろうと見通しが立ち。

そしてセイン国の王族、その者への制裁は免れたが、セイン国の教会が腐敗していると跡形もなく教会だけがなくなった。教会の中に〝人〟はいた。でもその〝人〟は消えたり傷を負うこともなかった。

それは神獣は大陸違い、つまり離れた場所でも、跡形もなく建物を消すことができる証明だった。

しかも人を避けた。ということは逆に言えば、人だけを消すこともできるのだろう。そしてその威力。その上、その時の映像を各教会へと同時に届けることもできる。

神獣の加護というものがどういうものかはわからないが、神獣の力の一部を世の人は知ることになった。