軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第715話 デビュタント③車輪トラブル

誰さ?

そうは思っても、ちゃんとしおらしくしているけどね。

「こちらはドナイ侯爵さまだ。今、ある案件でご一緒させていただいている」

アラ兄の話し方で、いけ好かない人だと思っているのがわかった。

「ドナイ侯爵さま、こちらは弟のロビンと、妹のリディアです」

ロビ兄は胸に手を当て、武人の礼をする。わたしはカーテシーだ。

初めましてとだけ、挨拶する。

頭のてっぺんから足の先まで舐めるように見られて、あまり気持ちのいいものではない。

「こちらが自慢の妹さんですね。なるほど、大変かわいらしい。お兄さんはあなたのことが心配で仕方ないみたいだ。妹が婚約をするまで、ご自分は見守るとおっしゃって、ウチに縁あるものをご紹介しているのですが、頷いていただけないのですよ」

あー、シュタイン家に手紙を送りつけても、うちの子はまだ幼くて今はご縁を繋げそうもありません。お互い良いご縁がありますように。といった一種のお祈りレターが返されるだけなので、アラ兄本人に突撃したな。

アラ兄は断るのにわたしを理由にしたようだ。

「お嬢さまもとてもかわいらしい。これなら問題ありません。ああ、婚約破棄があったんでしたな。ま、相手も同じようなものですし、遠縁の者ですが、お嬢さまにピッタリの者がおります」

ん?

「離縁しておりますが、子供はおりません」

は?

「少しばかり年齢は離れていますが、お嬢さまの突飛なところも受け止められるでしょう。一度……」

「ドナイ侯爵さま、妹にまで縁談を勧めるのはやめていただけますか?」

アラ兄が不快そうな声を出した。

「これは申し訳ない。お嬢さまにぴったりだと思ったものですから。

それより、馬車が壊れてしまってはお困りでしょう。ウチの馬車で家までお送りしましょう」

「いえ、結構です。近いですし、歩いて帰れますので」

アラ兄が断る。

「そんなことをおっしゃらず。お兄さま方が歩けても、お嬢さまは馬車に乗っていただく方が絶対にいい!」

と、わたしの腕を引こうとした。

振り払っていい? でもアラ兄と一緒に仕事している方なのよね?

と、その手を払ってくれたロビ兄に抱きあげられる。

「妹は私が運びますので、お構いなく」

ロビ兄が笑顔で言った。

侯爵は振り払われた手を、異常がないか確めるように振るう。

「目上のものの親切を無碍にするとは、シュタイン伯はどういった教育をしているのか」

と、あれ、後ろから3人、私兵のような出で立ちの人がこちらに向かっている。これって、しばらくなかったやつだけど、絡まれそうな感じ?

身を強張らせた時、目の前に大きな背中が現われた。

「な、なんだ!」

侯爵がビビったような声をあげた。

「ガーシ・フォンタナ。リディアお嬢さまの護衛です」

と、鞘は抜いてない長剣を地面について威嚇した。

「フォ、フォンタナ? 男爵風情が偉そうに。そこを退け。馬車に乗せてやると言ってるだけだ」

「お嬢さまたちは断っています」

今日は双子兄と一緒だから護衛はついてないと思ったけど、ガーシは見守ってくれていたんだ。

「こ、この無礼な者を痛めつけろ!」

ええっ?

物騒な騒動に足を止めていた人たちからも声が上がる。

私兵たちはガーシに向かって、剣を抜いた。

ちょっと嘘でしょ。馬車に乗らないって言ったぐらいで、なんでこんなことに?

ガーシは強いけど、3人相手じゃ分が悪いと思ったんだろう。少し下がったロビ兄に下されて、ロビ兄もガーシの加勢に行く。

アラ兄は困った顔だ。

ガーシにひとり、ロビ兄にひとり。残りのひとりがこちらに向かってきた。

もふさまがわたしの前で吠え威嚇した。

一瞬ためらいを見せた男は、突然の横からの攻撃を受けて地面に沈む。

攻撃したのは……青髪。ガインのお付きのネズミにもなれる人。

隣のアラ兄も、ロビ兄も息をのむ。ガーシもロビ兄も私兵を倒した。

「な、なんだお前は?」

青髪はそれには答えず、やってくる主に膝をつく。

「ドナイ侯爵だっけ? おじさん」

ゆったりと歩いてきたガインは、侯爵におじさん呼びをかます。

「お、おじさんだと? なんて無礼な。お前は何者だ?」

「俺? 俺はガイン・キャンベル・ガゴチ。リディア嬢に何度も婚約を申し込んでは断られているものだ」

「ガ、ガゴチ? こ、婚約?」

眉間に盛大なシワを寄せる。

「シュタイン家はガゴチと繋がっているのか!?」

とアラ兄を睨みつけた。

「俺を前にして、よくそんなこと言えるね、おじさん。俺、直系なんだけど」

「直系でもまだ成人しておらぬではないか」

わたしもガゴチの行いは好きになれないけど、大陸違いのユオブリアでも嫌われ見下されているのは真実らしい。あからさまな態度は初めて見たけど。

だって、将軍、トップの孫だよ。いわゆる王子だよ。若君にそんな振る舞いをするなんて。

「ふん、まったく。親切心を仇で返しおって。アランくん、後悔するぞ」

と、馬車に戻って行った。私兵たちも起き上がり、慌ててついていく。

「アラ兄、大丈夫なの? お仕事に影響する?」

アラ兄はわたしに微笑んでから、ガインに礼を取る。

「助けていただき感謝します。ガゴチの 若君(わかぎみ) 」

「いいえ、未来の婚約者を守るのは当然のことですから」

アラ兄は曖昧に微笑む。

「お前はリーをつけてきたのか?」

ロビ兄がガインに指を突きつけたので、お付きの青髪と赤髪がロビ兄を睨んだ。

「先ほどの者と一緒にしないでほしいね。俺はリディア嬢に言いたいことがあっただけだ」

ガインは苦手だ。ガインは悪い子ではないと思う。何度も助けてもらっているし。でもわたしはガゴチと手を組むことは考えられないし、嫁に行く気もない。それは何度となく言っているが、一向に諦めてくれない。それどころがグイグイくるので、わたしが悪いことでもしているかのように、こそこそガインから距離をとっている。それでも居場所がバレるんだけど。

「先ほどの者ということは、ドナイ侯爵がウチの馬車をつけていたと?」

「それだけじゃないだろうね?」

とガインはアラ兄に笑いかける。

アラ兄の眉間に盛大にシワが寄った。

「そうでしたか。重ねてありがとうございます。お礼をしたいところでありますが、妹は明日デビュタントを控えておりまして、これから領地に向かい用意をせねばなりません。お礼は後日、改めてさせていただきたく思います」

「お気になさらないでください。好いている女性を守るのに勝手にやっていること。令嬢から声をかけていただければ、それで十分です」

わたしたちだけでもなんとかなったけど、大事にならずにすんだところは感謝している。だからもちろんお礼を言う気はあったが、この空気感が毎度のことながら嫌なのよね。素直に言う気にならないと言うか。わざとそういうシチュエーションに持っていかれている気がするんだ。

でも助けてもらったのは事実だ。

「ガインさま、お助けいただき、ありがとうございました。わたしに言いたいこととはなんでしょうか? 兄が申し上げましたように、今急いでおりまして」

「ええ、急いでいるのはわかっていますので、手短に申し上げます。

デビュタントおめでとうございます」

え?

「明日はパートナーに先に言われてしまうでしょうから、その前にお祝いを伝えたかったのです」

「……それはありがとうございます」

ガインからも再三デビュタントのパートナーにと言われたものの、もう決まっていると断ってきた。デビュタントのパートナーが家族ではない場合、そのまま婚約者になることが多い。実質のお披露目ともなる。

「明日、会場でお会いできるのを楽しみにしています」

直系だもんな、パーティーに招待されているのか。

「では、また明日……」

ガインはにこっと笑って、踵を返す。お付きたちもそれについて行った。

ガーシにもお礼を言うと、あと二区画で家だというのに、ガーシに運ばれる。

アルノルトにすぐに事情を話して、デルと馬車の救済に動いてもらった。

母さまが心配するだろうからという理由で、わたしともふさまともふもふ軍団は先に領地の外れの家に帰るよう言われた。

帰ってからは、デビュタントの準備で、肌を整えるところから始まってしまったので、その日にあったことはすっかり忘れていた。