作品タイトル不明
第606話 聖なる闇夜の祝い唄⑤満悦
少しすると、父さまと母さまが連れ立って、食事を持ってきてくれた。
お客さまがきたと言ったので、父さまも様子を見に来たのだろう。
「り、リディア、こちらはどちらさまだい?」
父さまに尋ねられる。
「あのね」
『リディアの父君であるか? お初にお目にかかる。我は神獣・ノックス。リディアの友になりたいと申し込んでいる者だ』
もふさまに話せる魔具を借り、意気揚々と父さまに挨拶した。
「し、神獣さまでございましたか。はじめまして。リディアの父の、ジュレミー・シュタインと申します」
「リディアの母の、レギーナ・シュタインでございます」
父さまと母さまは小さくなったシカの神獣に、順番に挨拶をした。
『人族の食事というものに興味があり、馳走して欲しいと頼んだのだ』
「お口に合うかわかりませんが、召し上がってくださいませ」
母さまがくるくると動いて、テーブルをセッティングしてくれる。
わたしも手伝う。
「リディー、そんなに動いて大丈夫?」
「あ、もふさまが聖酒を取ってきてくれて、それを飲んだら、魔力が満タンになったの!」
「まぁ!」
母さまが抱きしめてくれる。
わたしも胸に顔を埋めた。
「母さま、だから後でお風呂入っていい?」
「もちろんいいわ。主人さま、ありがとうございます! リディーがこんなに元気になって」
『大したことはしていない』
もふさまはクールに言ったけど、尻尾がブンブン揺れている。
「主人さま、感謝します」
父さまも、胸に手をあてて首を垂れ、もふさまに感謝を示した。
「にゃーーーご」
空気を読まず、ソックスが朝ごはんを本気でねだり始める。
「ああ、ごめんね、ソックス」
野菜の盛り合わせとお魚を焼いてほぐしたもの。アクセントに鰹節を振りかけている。うちの野菜ならどれも好きみたいだ。特に大根にハマっている。鰹節は大好物!
おじやを冷ました物も好きみたいだ。グルメレポーターさながらに、ニャゴニャゴいいながら食べている。ただ炭水化物はあまり取っちゃいけない気がするので、おじやは時々だ。
今日のわたしたちの朝食のメニューは洋食だった。
パンに、目玉焼きとソーセージを熱々に焼いたもの。温野菜のサラダにマヨディップ。モロコシスープ。もふさまとノックスさまには角煮をつけている。それからフルーツの盛り合わせ。
わたしは贅沢して、パンにバターとジャムをダブルで塗りつけアムっといただく。
体が軽いと、食事ももっとおいしく感じる!
父さまが後で説明してもらうぞという目をしている。勝手に来たんだよ。わたしが呼んだわけじゃないよ。
ノックスさまはモリモリ食べた。美味と連発した。もふさまが食べるのと同じぐらいの量を最初出したけど、途中で足りなくなりそうに見え、母さまがメインハウスに戻って追加を持ってきてくれた。それをどんどん足していく。
もふさまは呆れたように見ていた。
『とても美味であった。人族とは、本当に計り知れないものがある。馳走してくれて感謝する!』
ノックスさまは満足したようだ。よかった。
父さまと母さまも引き上げて行った。
お腹もいっぱいになったので、久しぶりのお風呂を満喫したい。
わたしはノックスさまに、さっぱりしたいからお風呂に入りたいんだけどと話を持ちかけた。申し訳ないが、ご飯も食べたし帰るよねという追いたてる気持ちもあった。
『そうか、良いぞ』
相槌だけ。帰る気は、まだないみたいだ。
珍しそうに部屋を見てるから、それも楽しいのかも。
お風呂の用意をする。聖水も入れちゃう。ノックスさまにはソックスと待っているなり、してもらおう。
一度居間に戻り、じゃあ、お風呂に行ってきますと言って部屋を出ると、ついてくる。
お風呂も入ってみたいと言う。
いや、聖水いれちゃったし、と言おうとしたときは遅かった。服を脱いだりする手間がない神獣さまは、浴槽に向かって一直線、ダイブをし、お湯の中に落ちた。
と思ったら顔をだす。
『水ではなく、あったかい! これは不思議と気持ちいい』
「だ、大丈夫ですか? 聖水入りなんですけど?」
『なんと!』
驚いたようだけど、首から上を出して泳ぎながら答えてくれる。
『聖なる者に聖なるチカラをこめ攻撃されなければ、聖水ぐらいなんでもない。だが、ピリッともしなかったぞ? 本当に入っているのか?』
「ええ」
『お前、風呂の入り方を知らん奴だな。飛び込むのは禁止だ』
『そうなのか? 初めてのことゆえ、知らなかった。悪かった』
謝りつつ、にっこにこだ。
わからないけど、大丈夫そうだね。
ほっとしながら服を脱いだ。
洗い場でもふさまを洗ってあげる。
ふるっと身体を震わせれば、汚れなんかなくなるんだけどね、もふさまは。
『何をしているのだ?』
「湯船に入る前に身体をきれいに洗っています」
ノックスさまは淵まで泳いできて、浴槽から出てきた。
そして泡だらけのもふさまの隣にちょんと座る。
鹿のお座り、初めて見た。犬みたいに後ろ足だけ器用に座ることもできるんだね。シカじゃなくて神獣だからかもしれないけど。
洗って欲しいのかな?
「洗いますか?」
『やってくれ』
石鹸を手で泡だてて、毛のところを揉み込むようにして洗う。次は地肌だ。強弱をつけて、汚れを落とすというよりマッサージ寄り。
もふさまと同じで、きっと身体を震わせれば、きれいになるんだろうけどね。
顔の周りも泡だらけにしているのに、大人しくしていて、目を瞑っている。
角は洗うものなのかわからなかったので、何もしなかった。
「流しますね」
声をかけて、泡を流す。
『洗うのも、気持ちの良いものだな』
『そうだろう? でも、もっとすごいぞ。リディアよ、あれをやってくれ』
はいはい、リンスですね。
わたしはふたりに、リンスを溶いたお湯をかけた。
湯船に入るだろうから、馴染ませて、軽くゆすぐ。
『な、なんだこれは、毛が!』
『わかるか?』
『この香りもいいな!』
聖獣と神獣が意気投合した。
あなたたち、身体を震わせれば、あっという間に艶やかな毛並みになるでしょうに。そんなふたりが気持ちいいと思うリンス、すごいかも!
ふたりは湯船に浸かりに行った。
会話が弾んでいる。
その間に、わたしも丁寧に身体を洗った。本当は垢すりもしたいところだ。でもお客さまがいるので、さすがにそれはあきらめた。
あとは頭を洗って。
髪の毛が長くなりすぎてしまった。切ってもらいたいな。
あー、やっとさっぱりした。温風で髪を乾かし、上にまとめ、湯船に!
あーーーーーーー、たまらんねーーーーー。
このお湯いっぱいの贅沢。
全てが解けていくようだ。