軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第593話 君の中のロマンチック③見た?

「見た?」

顔だけ振り返り尋ねると、兄さまはわたしから視線をそらした。

「見てない」

「嘘!」

「……見た。けっこうしっかり」

だよなぁーーーーーーー。

「忘れて!」

「……目に焼きついちゃったから、無理、かな?」

う、うわーーーーん。

泣き散らかして、失態を忘れたいところだけど、うう、寒い。

「君のことだから収納袋に服、あるよね。まず着替えようか。話はそれからだ」

収納袋、アレは魔力に関係なく出せるから……、わたしの魔力戻ったのかな? それで呪いが……? ステータスボードを呼び出す。魔力が8だ。

あ、これ、やばいやつ。

「魔力が……寒い」

「リ、リディー?」

あ、やっといつもみたいに呼んでくれた。

ガシッと抱えられる。

「魔力が低下。ダメだ、寒い」

「え?」

ん?

鳥のさえずりが聞こえる。

あれ、誰かに抱きかかえられてる。

「気がついた?」

後ろから兄さまの声がする。

わたしは兄さまのマントやら服やらにぐるぐる巻きにされていて、兄さまに抱えられ眠っていたみたいだ。

うっ。な、なんてこと!?

うっ、わたし臭くないかな。

トカゲになってから、お湯にはよく浸かっていたものの、体は洗ってないのだ。だって自分の手が届かなかったんだもん。けれど誰かに洗ってもらうのもなんなので、長くお湯に浸かるだけにしてきたのだ。絶対臭ってそう。

動こうとしたけど、頭を上げようとしただけで、頭がガンガンしてまた頭を落とす。

「どこか痛いの? 大丈夫?」

ステータスボードをみると、魔力が10になっていた。

「魔力の低下で動けないみたい。でも8から10にはアップした」

「……魔力10じゃ、起き上がれないか……」

魔力の容量がかなり多くなってから、1000を切るとあり得ないくらいのダメージを受ける。少ないときに魔力を使うと命を削ることがある。魔力を使わなければ命にかかわるような問題にはならないけれど、身体ってのは元の状態っていうか、満たされた状態に戻ろうとするからなのか、魔素を取り入れることに一生懸命になって、その他のことにはエネルギーを使わせないようにしているんじゃないかと思う。

魔力酔いも辛いけど、この枯渇状態はもっと辛かった。

「兄さまをつけてたとかじゃないの。本当に偶然で……」

姿を替えてまで、つき纏ったなんて思われたら哀しい。

頭がガンガンしている。

「言っておくと、ありったけの布でぐるぐる巻きにしたのに、君が寒いって呟くから、こうしてあたためてる。他に意はないから」

うう。ありったけの布を奪ってるのね。

「君が伏せっているって噂に聞いたけど、どこかを調べるのに不在ってことにしてるの?」

わたしの噂を気にしてくれてたのかな?

「ううん、呪いに掛かっちゃったの」

声を出すと、またそれが頭に響く。

「呪い?」

驚いた声がする。

でもこの頭痛のおかげで感情が一部麻痺していて、助かっているのかもしれない。こんな恥ずかしい状況、まともな思考では身が持たない。

「……呪いでトカゲに?」

「ちょっと違う。呪術にかかって、多分わたしのスキルが発動して、呪いをはねのけたみたいなんだけど、トカゲになっちゃってたの」

「トカゲに?」

「トカゲの尻尾切りで、死を免れたんじゃないかと推測してる」

わたしを抱きしめる力が、一瞬強くなった。

「魔力がなくなって、トカゲのままだったのかもしれない。ウチと懇意にしたい人がいっぱいいて、それで療養中ってことにして、わたしはルームに籠もっていたの」

「ルームに籠もっていたのに、どうしてこんなところに?」

「……それはもふさまたちと農場に……遊びに来て……」

声が小さくなる。

「父さまたちは知ってるの?」

マズい……。

「それより兄さまはなぜこんなところに? クイとベアはどこに偵察へ?」

体の向きを苦労して変えると、動いたから頭痛がひどくなる。

「うっ」

「動かないで。まだ、辛いだろ?」

びっくりするぐらい近くに、兄さまの顔があった。

「父さまたちには内緒で来たんだね? 主人さまたちはどこにいるの? なんではぐれたの?」

お見通し感がすごい。一緒に育ったんだもの、当たり前か。

「動けなさそうだから、伝達魔法で父さまに連絡して迎えに来てもらう?」

兄さまはニコッと笑った。

「今、君はひとりだし、自由に動けない。私を頼るしかないなら、事情を話すぐらいは当たり前じゃないかい?」

う、その通りだ。

「ごめんなさい」

「変わらず、素直だな。そんなに素直だと……わかってる? こんな無防備にひとりで。トカゲでも、今の姿でも、どうにでもされちゃうんだぞ? 父さまや主人さまたちの手の届かないところで、簡単に命を奪われるかもしれないんだぞ?」

本当にそうだった。

トカゲになっても鈍臭いと言われていたものの、なぜか人型のリディアよりは危険はない気がしていた。だから、農場まで来たし、鳥に咥えられるまで、本当にそんなことが起こり得ると理解してなかった。

気がつくと、また時間が経っていた。兄さまがご飯を食べさせてくれる。

話しては眠り、眠っては食べて、話してまた眠りと、どれくらい 繰り返しただろう。やっと魔力が50を超え、身体を起こせるまでになった。でもそれ以上は動けなくて、服を着ることも自分ではできず、わたしは兄さまの服やら何やらにくるまったままだ。

クイとベアが帰ってきた。

わたしを見つけると、ためらわずわたしに抱きついてきた。わたしもふたりを抱きしめる。そこまで長い間離れていたわけじゃないのにね。ふたりとも外で暮らしているからか、毛が硬いものになっている。自然ってのはよくできてる。自分の身を守るために、自分を作り替えていくんだから。

わたしがここにいる経緯を話し、みんなが農場にいるというと、わたしを動かせないので、みんなを連れてきてくれることになった。

わたしがいなくなってどれくらい経ったかわからないけど、すごく心配をかけたはずだ。