軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第495話 禍根⑥ラッキーカラー

「しっかり答えが出たみたいだね」

ホーキンスさんに頭を撫でられた。

わたしは心から笑うことができた。

「もう一度、この舞台を見る機会をくださって、ありがとうございました」

「どういたしまして」

コミカルに演じられたマークさんままに、ホーキンスさんは大袈裟に胸に手をやり、頭を下げた。

「なんでわたしに、こんなに良くしてくださったんですか?」

思わず尋ねてしまう。お芝居を心あらずで見た子供に、貴重な千秋楽のチケットを。それもあんないい席。

「君が見事な〝赤毛〟だったからかな」

「赤毛だったから?」

「今、ウチの劇団、ノリに乗っているんだ。それも全部、赤い宝石とかかわってからでね。〝赤〟はラッキーカラーで大切にしている。それなのに、客席の真ん中で見ていた赤毛のレディーはちっとも楽しそうでなかった。レディーの記憶に面白くなかった劇として残ってしまったら、ツキも落ちる気がしてねー。

でも、君と話してよく見てみたら、その髪色は君にはちょっとキツすぎる」

「え?」

「君にはもっと明るくて柔らかい髪色が似合う気がする。いや、君はそういうレディーなはずだ」

ホーキンスさんは含み笑いだ。

「ちょっと待ってて、中央通りまで送るから」

「あの、いいです。大丈夫です」

「今日、この街を去るんだ。思い出作りに協力してよ。団長に言ってくるから」

ホーキンスさんが廊下の先に消えたので、鞄の中のもふさまに話しかける。

「もふさま、ロサの気配してた?」

『いや。我はここまで小さくなると、気配がよく辿れぬようだ』

そうか。片手に乗るサイズは相当ちっちゃくなってるもんね。生まれたてぐらいまで時を巻き戻していて、それぐらいでは力をあまり現せられないのかもしれない。

ホーキンスさんが戻ってきた。舞台衣装の上に、青い上着を着込んでいる。

「さ、送るよ」

促されて歩きだすと、前から成人したてぐらいの若い男の子が、ヨタヨタと木の箱を運んでくるところだった。

「ホーキンスさん、お出かけですか?」

「中央通りまでレディーを送ってくるよ」

「許容範囲、広いですね」

「あんなー、冗談でも言うなよ。小さなレディーの心の傷になったらどうするんだ?」

男の子は、顎を突き出した。謝ったつもりなのかも。そして余計な動作をしたからかよろけて、箱を落としそうになった。上にかけられていた布が落ちて、中から赤い石が飛び出した。中には赤い石がぎっしりと入っている。

心臓がドクンとする。その赤さが生々しい。

「何やってるんだ!」

「す、すみません」

ホーキンスさんが怒り、少年は慌てて箱を置いて、転がった石を拾いだした。

「何をしている?」

「団長」

黒い背広の背の低い人だ。シルクハットをかぶっている。

ホーキンスさんが〝団長〟の視線からわたしを遮るように動いた。

「何もしてないですよ。言った通り、レディーを中央通りまで送ってきます」

「ホーキンス、無事、送ってこいよ。お前が帰ってきたらすぐに出立する。急いで帰ってこい」

なんか雰囲気がとげとげしかったので、送っていただかなくて大丈夫ですと言いにくかった。発言をしてその場に留まる時間を長引かせたくないというか……。

劇場から出ると、わたしが辞退申し上げるより前に、ホーキンスさんが一言。

「お嬢ちゃん、走るよ」

手を持って走り出す。

ええっ?

ホーキンスさんはすぐに足を止めて、わたしを抱き上げた。

「少し、失礼する」

そう言ってかなり早く走り出した。

鞄が揺れ動くが、わたしは上からトントンと押さえて、大丈夫だと合図を送る。

中央通りに来ると、走るのをやめてわたしを下ろした。

「さ、急いでまっすぐ家に帰るんだよ。小さなレディー」

「あの、ありがとうございました」

急に抱き上げて走り出したのには驚いたが、いろいろとお世話になったので頭を下げる。

「〝魅了〟が効いてない?」

驚いた顔でホーキンスさんが言う。

「え?」

彼は舌打ちをした。

「レディー、僕を信じて。僕だけを信じて。ぼーっとして魔法にかかったフリをして。話してもいけないよ。会話がわからないんだ、君は、いいね。絶対、家に帰すから」

取り囲まれた。

ホーキンスさんは、またわたしを抱き上げる。

「なんで走った?」

おっかなそうな人が言った。

「つけられてるのかな? って思ったからですよ」

ホーキンスさんは、何でもないことのように言う。

「団長の言いつけを守らない気か? あれを見たものは、始末しろ」

「ただの宝石じゃないですか。それに見ようと思って見たわけじゃない。コモが落とした時に、運悪く居合わせただけだ」

「団長命令だ」

なんかヤバげな会話が繰り広げられている。

「ツキを与えてくれただけじゃなくて、なんかあるんですか、あの宝石に?」

「役者は余計なこと知らなくていいんだよ、団長にだけ従っていれば!」

「おい、そいつを寄越せ」

「この子みたいに、僕に〝魅了〟されたいですか?」

「なんだと?」

掴みかかってこようとした人に、ホーキンスさんは言った。

「大好きな僕のことを傷つけていいの?」

その人はまるで恋してしまったような熱い視線でホーキンスさんを見て、もじもじしだした。仕草が恋する乙女だ。

「君たちもこうなりたい?」

みんな術にかかったような男を見て、顔を引きつらせて、一歩下がった。

用心棒のような人たちの視線が、ホーキンスさんの胸に収まっているわたしに集まる。

「捕まえては、いたんだものな」

いかつい男が愛想笑いを浮かべる。

「小さなレディー、君は体調を崩して、僕が介抱しているんだ」

ホーキンスさんがわたしの目を見て言ったので、わたしは具合が悪そうなフリをして、ホーキンスさんの胸に頭を預けた。

「団長に掛け合うよ。今日、町を去るんだ。コトを大きくすることもないだろう?」