軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第392話 コンサートとメッセージ(前編)

なんでこんなことになったんだろう、わたしはガクンと首を落とした。

「リディアお嬢さま、その姿勢はよくありませんわ。はい、姿勢を正して」

キートン夫人に注意をされる。

母さまが笑顔で、ちゃんとやりなさいと圧力をかけてくる。

エリン他、おばさまたちは、本当に興味があるかのようにキラキラした瞳でわたしを見ている。

『どうした、リディア。出だしを忘れてしまったのか? 遠いところに……』

きゃーーー、やめてーーーーーっ。

わたしは咳払いをしてもふさまからの攻撃を躱した。人からフレーズを言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいやつだから、それ。

仕方なく姿勢を正し、ハープを奏で出す。そして静かに息を吸い込んだ。

クジャク公爵さまたちが、転移で我が領地にいらしたのは、2日前のこと。

町外れの家に泊まってもらって、楽しい時を持った。次の日はもう少しだけ広い町の家に。こっちならメイドさんたちもいるしね。

で、今日は女性陣でキートン夫人の家にお邪魔して、帽子を作る予定だった。もちろん作っていたんだけど、おしゃべりの流れで、わたしがキートン夫人にハープを習っていたことをバラされた。食事会の時にハープをかき鳴らしたわけだけど、あれはキートン夫人に習ったのですのねと盛り上がる。キートン夫人は控え目に、自分は基本的なことを教え、そしてハープを貸しているだけで、ほとんどわたしひとりで習得したようなものだし、わたしの演奏する曲が好きだとおっしゃってくれた。

お金持ちは音楽好き、楽器好きなことを忘れていた。皆さまは、また是非聴きたいとおっしゃられ。わたしが練習をしていないからお耳汚しになると免罪符を掲げたのだが、エリンが「あれ歌って!」とわたしに飛びついてきた。

「歌われるんですの?」

母さまのお母さまであるグリフィス侯爵夫人、おばあさまがおっとりとわたしを見る。あ、母さまは歌がうまいから、わたしも引き継いだと思われてる?

「あ、母さまのように歌えるわけではないんです」

「姉さまはハープを弾きながらお歌を歌うの。新作の作られたお歌もすっごく素敵なのよ」

「エリン!」

エリンの口を塞いだが、もう遅かった。

「まぁまぁ、弾き語りですの?」

「リディアお嬢さまは物語を書かれて朗読もされているから、そういったこともお得意なのね」

「まぁ、事業に関することやお料理だけではなく、歌も!」

ヤバイ。〝ウチの親戚は天才なんじゃない?〟ムードになってるっ。

「エリンはわたしが作るものを、なんでも大喜びしてくれますの」

わたしは大きな声で言っておく。

「うん、姉さまの作るものはなんでも大好きになっちゃうけど、あのお歌はいいよ! おばあさまたちも絶対気にいる」

ああああああああ。

『リディア、観念したらどうだ?』

もふさま、簡単に言ってくれる。

「前からよく歌ってたのもいいけど、新作がいい! 切ないけど、素敵なの!」

「あっちは楽器と合わせたことないから無理よ」

「ハープは希少ですものね、練習できないのは残念なことですわ」

おばあさまのお兄さまのお嫁さんにあたる、ライラック公爵夫人がため息を落とす。

「リディアお嬢さま、いつでも弾きに来てくださっていいのよ?」

キートン夫人が優しくおっしゃった。そして気がついたように手をパチンと合わせる。

「それよりも、お休みの間、ハープをお貸ししましょうか?」

わたしは慌てた。

「それはダメです!」

皆さまの視線が集まる。

「……だってお借りしたら、キートン夫人に会いに来る口実が、減ってしまいますから」

確かにそれも理由のひとつではあるけれど、家にあったら強制的に練習をすることになり、それを避けたいためだという気持ちが大きいため、声が小さくなる。

「リディアお嬢さま。なんてかわいらしい方なのかしら。本当にいつでもいらしてくださいね」

はいと頷くが、顔が引きつっていないといいのだけれど。ヒジョーに罪悪感が。

「リディー、せっかくだから、その歌を聞かせてちょうだい」

母さままで!

「ハープは難しいけれど、他の楽器なら用意できると思うわ」

母さまたちは何度も、希少ではない楽器なら用意すると言ってくれている。さらに話は続きそうで、間違って相槌でもうってしまったら、楽器を買ってくれそうだ。楽器が家にやってきたら、練習地獄が待ってると思うと恐ろしすぎる! わたしはハープに手をかけた。

「ハープの音色が好きなんです。ハープだから思いつくの。お耳汚しになると思いますが、聞いてください」

ハープで弾けるかな? 弦を弾く。始まりはこの音。多分、スキル・路地裏の歌姫が発動している。主音に合わせ音を編みこむ音が想像できる、なんとなく弾けるような気がした。

皆さまの期待に満ちた視線。

ああ、なんだってこんなことに。弾ける気はするけれど、浸った歌詞なので、すっごく恥ずかしい。あれをエリンに聞かれたのは不覚だった。

姿勢を正すよう注意され、師匠の言葉に背をピンと張る。

もふさまが忘れてしまったのかと、歌詞を口にしたので、咳払いで遮る。

ヤメてー。なんでこんな歌詞にしてしまったのだろう。……、うん、なんとなくゴロがよかったのよ。

ハープをかき鳴らすと、次の音や、どうすると情感が籠るのかも〝理解〟する。

わたしは息を吸い込んだ。

歌い終われば、拍手の嵐だ。

「切ない心情が胸を打ちますわ」

「リディアはとても甘い、優しい声で歌うのね」

「心に響きますわ」

「お嬢さま、とても素敵な曲と歌でしたわ!」

「ほら、ね、とっても素敵なお歌でしょう?」

褒めはやしてくださる皆さまと、ドヤ顔のエリン。

母さまがわたしの前で膝をついた。

え?

絨毯にだよ。そしてわたしの両頬を手で挟む。

「リディー、あなたもしかして、フランの他に好きな人が?」

ええ?

「なんでそうなる!?」

「だって、この歌詞ではとても切ない〝会えない〟だなんて。2度と会えないっていう歌でしょう?」

「いや、これは物語の挿入歌的に作ったから……」

「ソウニュウカ?」

「うーうん、ええと。ある物語の主人公の気持ちになって作った歌だから」

母さまがほっとした目になった。