作品タイトル不明
第347話 パジャマパーティー
消灯後に集まったわたしの部屋で、コップを掲げる。
「では明日から休みを満喫しましょう。前夜に、乾杯」
「乾杯!」
オレンジか桃かブドウのジュースで乾杯だ。
みんなこくんと飲んではおいしーと言い合っている。
寮母のローマンおばあちゃんにはバレているだろうけれど、目溢ししてくれている。みんながお風呂に早くに入り、浮き足立って、コップとか用意してたからバレバレだろう。
多分他の学年の先輩方も好きに集まっているんじゃないかな。
夜だけど、お菓子は解禁だ。ポテトチップスが瞬く間になくなった。パウンドケーキを一口大に切っておいたものを真ん中に置くと、こちらもすぐに手を出している。
今日の話題は担任であるヒンデルマン先生が、実はめちゃくちゃかっこよかった件についてだ。
ロレッタが転んでしまった時に、先生が立ち上がらせてくれて、それで先生の顔を覗き込むことになり、あまりのカッコよさに気を失うかと思ったそうだ。
「なんで、わざわざ目を隠すのかなー? 絶対前髪もっと短くするかあげるほうがかっこいいよね?」
「知ってる! そういうのって女避けっていうんでしょ?」
ラエリンが手を挙げて言った。
「えー、子供しかいないところで〝女避け〟する?」
もっともな意見を言ったのはメラン。ボーイッシュな見かけを払拭するフリフリの夜着をきている。かわいいもの好きなのかも。
「そういえば先生が高位官吏の制服みたいなすごいの着て、偉そうな人たちと一緒に歩いているの見た!」
クラリベルがパウンドケーキを口に入れながら言った。
「1年生の担任だけではなく、何か役職があるのかしら?」
ジョセフィンが不思議顔だ。
そういえば高い魔力を感知したと、先生がやってきたな。持ち回りの警備担当の日とかだったのかもしれないけど。
「もっと早く教えてよ。かっこいいか確かめるの明日しかないじゃん」
アンナが頬を膨らませた。
「どうやって見る? 屈んでもらわないと、前髪をあげられないわ」
「隠しているってことは、見せないようにしているんだから、前髪をあげられそうになったら嫌がるんじゃない?」
ダリアが呟けば
「だから、わからないように前髪をあげてしっかり見たいんじゃない」
と意見が出る。
「でも、かっこいいのを見て、それがなんなの?」
ダリアは心底不思議そうに首を傾げた。
「もう、この子ったら、かっこいい人が近くにいたら、日常が潤うじゃない」
ケイトが言えば、ダリアはそういうもの?とさらに首を傾げた。
「私はイシュメルが一番かっこいいと思う。みんな好きにならないでね」
アイデラが驚くようなことをいう。
「えー、かっこいいのはエンターさまでしょ」
「それなら、わかる」
「おきれいな顔だよね」
「ただ何考えてるかわからない」
「言えてる!」
「何を考えているかわからないはボビーさまもだよ」
「ボビーさまも顔はいいね」
「うん。貴族って感じ」
「貴族って何考えてるかわからないのが普通なのかね」
そう言ったジニーがハッとしたようにわたしを見た。
「あ、リディアは別よ」
「リディアの感情はそのまま表情に出るから」
「うん、わかりやすい」
えー、素直に喜べない何かがあるんだけど。
「私はリキが優しいから結構好き」
みんなの注目が集まるとチェルシーは頬を赤らめた。
「リキを?」
「体が大きいからちょっと怖かったんだけど、誰かが困っているとよく助けてあげたりしていて。かっこいいと思った」
「私は好きとかじゃないけど、ドムが努力家ですごいなーって思った」
ライラのいうことには、隣の席になったドムは最初は四則計算が苦手だった。それから先生によく質問に行っては、練習問題のようなものをもらってきて、休み時間を利用して繰り返しやるようにしてついには克服したという。
へー、そうだったんだ。
前寮母の件でドーン男子寮に助けてもらってから、よりわたしたちのクラスは一体感が増したと思う。それで仲良くなれば、また違った面も見えてきて、同い年の男の子を尊敬したり、逆にバカじゃないの?と思ったり、いろいろな感情が現れ始めた。みんななかなか観察眼があると尊敬していると……。
「で、婚約者は置いておいて、リディアはエンターさまとボビーさま、どっちが好みなの?」
はい? 飛び火してきた。
「な。こ、好みって、婚約者いるもの、そんなこと思ってないよ」
「好きではなくても好みはあるでしょ?」
「イシュメル、ニコラスとも仲良いよね?」
「イシュメルとリディアは仲良くないわよ」
それに関してはアイデラに同意だ。
「あ、わかったケイズさまとか?」
「そうそう、告白されたんでしょう? どうするの?」
みんな目が爛々と輝いている。
「婚約者がいるから、ケイズさまにはちゃんと話すよ。でも、好きって言ってもらえて嬉しかったことは伝えるつもり」
「嬉しかった?」
わたしは頷いた。
「わたしなんかを見初めてくれたわけだから、やっぱり、嬉しかったよ」
場がシーンとしたので慌てる。
「好みっていうか、みんないい奴だなーと思ってる。エンターさまも訳わからないところもあるけど、いつも助けてくれるし。ボビーさまは素っ気ないし、あまり話さないけど、苦手にしていることがわかるみたいでカバーしてくれるし」
女性を窮地に立たせないよう教育が行き届いているのか、あんまりよくなく思っているわたしもさりげなく庇ってくれる。
「イシュメルも、ニコラスも、クラス全員みんなそれぞれいいところも悪いところもあって、全部含めていい奴らだなって思ってる」
「……リディアのいう通りだね。うちのクラスの男子たち、みんないい奴」
レニータが賛同してくれると、みんなも口々にそうだと言った。
だからわたしは付け加えた。
「もちろん、このクラスの女子もね」
みんなに上掛けをかけて回る。寝落ちする子続出で、そのまま雑魚寝をすることになった。ラグを敷いているから、一晩くらいなら問題ないだろう。
窓から差し込む月明かりを見ながら一息つく。
『眠らないのか?』
わたしは声を潜める。
「眠るよ。もふさま、うるさくしてごめんね。みんなもごめん、今日だけ!」
みんなはぬいぐるみを解けないから、余計に申し訳ない。
『元気がないな。昼間の刺客が気になっているのか?』
「刺客?」
慌てて口を押さえる。アイデラが寝返りを打ったけど、誰も起こさなかったみたいだ、よかった。
「あの人たち刺客だったの?」
小さい声で尋ねれば、もふさまはばつが悪そうな顔をしている。
『狙いはリディアではなかった』
確かに。タボさんからのアナウンスは入らなかった。
ってことは、メロディー嬢は本当に狙われているんだ。