作品タイトル不明
第1324話 悠かなる絶望④その先に
迷っているわけではないのに、心はすぐに揺れる。
なんで思い出すのかな。
それもなんで思い出す時に、背中なのよ。せめてこちらを向け……。
「……わたしは会いたいです。どんな辛いことも一緒に受け止めるから、わたしの見えるところで傷つけって、わたしは思います」
わたしが何かを知ったからって、事実も現実も変わらない。
でも一緒に悲しんだり、辛かったねって肩を叩くことはできる。
とんだビジネスライクだ。こんなに感情込めまくりで、何がビジネスだ。
でも……。ひとりで背負い込んだ誰かさんと重なる。
「……いいかげん認めてください。辛いんですよね?
だから紛れ込んだわたしたちに助けを求めた。
夜になると凶暴な魔物となる。……破綻が始まっている。
助けにならないかもしれない。助けを求めても求めなくても結果は同じかもしれない。なら、助けを求めてみませんか? やるだけやってみませんか?
わたしはただの人族ですから知識もできることも多くありません。
でも精霊の皆さまなら、何かあるかもしれません。
なかったら仕方ありません。今と同じ状況です。悪くなることもない」
『水の姉上を……』
「もう元気になられてます」
『いや。疫病神にまた絶望の芽を……』
「それも一緒に考えてもらいましょう。時の精霊・トンさまがいらっしゃるんです。対抗できる何かがあるかもしれません。
水の精霊さまが攫われた時、小さな姿、一部だったんですよね?
でも疫病神は精霊の棲み家に行くわけではない。
一部なら捕まえやすいというのはあるかもしれませんけど。
あの触手って悠さまの一部ですよね?」
ジョギさまが重たくうなずく。やっぱり。
「その法則でいくと、疫病神は触手のもとに現れて捕捉してもいいわけですよね? でも本体の悠さまに話しかけた。棲み家には近づかなかった。
もしかしたらトンさまが苦手とかあるのかもしれませんよ?
まぁ、なかったら何か考えて。見つからなかったらその時です。
その時は絶望しない魔法の言葉を教えて差し上げます」
双子やみんなに見られる。
そんな言葉があるなら先に教えろって?
それはね万策尽きた時に効力を発揮する言葉なんだよ、うん。
推し黙る。
ここまでお膳立てした。
それでも悠を動かせないなら、それは仕方ない。
踵を返す。
できなかった。思いは届かなかった。ごめん。
みんなになんとなく笑う。
みんなも微妙な笑みを浮かべた。
後ろから重たい声がする。
『我は動けぬ。……頼めるか? もしできるなら疫病神にわからぬよう密かに繋いでほしい』
!
振り返って。嬉しい気持ちは隠す。
「……あら、気が変わったの?」
『ああ、我も希望を持ちたくなった。
人の子よ、我を助けてくれまいか……』
「任せて」
わたしは請け負った。少しでも頼もしく見えるように、ニッと笑ってみせた。
一旦、精霊たちのところに行って計画を練るからと、いくつか確認をした後、フクロウと別れる。
集落の人たちはわたしたちが奥から出てきて驚いていた。
すぐに記憶の修正がされたみたいだけど。
わたしたちはさよならをいい集落を出て、そしてテントに戻る。
テントを撤去してサブルームへ。
そしてそこで悠との最後の会話をみんなにも話した。
「さすが姉さま!」
エリンが懐いてくる。
「でも姉さまにしては大胆で強気な交渉だったね」
もふもふ軍団はノエルの意見に賛成のようだ。
最終目的は終焉を止めること。みんなと《《無事に》》生き残ること。
それには今からひとつも負けてなんていられない。
それにこのことがうまくいけば弾みにも、自信にも繋がるから。
一応ここまでのことを、みんなに報告しなくてはならない。
ただ神さまに聞こえないように気をつけないといけないから……それはちょっと難しいね。ルームの中は完全な結界になっているので、連絡は兄さまが請け負ってくれることになった。
そしてよりいい案が出たらそれを交えて、精霊との交渉となる。
「リディー」
一番後に続いた兄さまは、ドアのところで振り返る。
「なに?」
うわっ。
兄さまがわたしのおでこにおでこをコツンとする。
息のかかるその距離で
「ひとりで頑張らないで。私もいる。みんなもいる。
だかららしくない交渉はしなくていい。いつものリディーでいて。みんなで補うから」
……兄さま。
兄さまは静かにおでこを離し、わたしに笑いかけてから、多分ハズレの家へと渡っていった。
甘やかさないで。気を張ってないとすぐに負けそうになってしまうから。
『フランツの言う通りだと我も思う』
え? もふさまはおすわりをして、尻尾で床を打った。
『さっきのリディアはまるで小童のようだった』
え? もふさまがいう小童って……。
「アダムのこと?」
尋ねるともふさまはうむとうなずく。
ベアもうなずいた。
『そうですねぇ。あれがいないからって、リディアがあの小僧になる必要はないと思いますよ』
「そんな……つもりはなかったんだけど……」
わたしの決して負けないイメージはアダムなのかな?
「いつものリディアでもうまくいくでちよ!」
ヒレみたいな手でぺちっとアオが叩いてくる。
そっか、そうかな? そうなのかな?
『強気はいいが、強がるのはなし。フランツはそう言いたかったのではないか?』
『私もそう思う』
もふさまの言葉にレオもうなずいた。
強気と強がるには、確かに大きな差があるね。
そしてフクロウと話したとき、わたしが強がっているように見えたんだろう。
『それに終焉まで長期戦となるだろう。今からそんな気を張っていたら疲れてしまうぞ?』
それは、確かに。レオのいう通りだ。
ほんとだ。わたしの周りには、こうしてわたしを見ていて、気にして、助言して、一緒に悩んで、一緒に戦ってくれる仲間がいる。家族がいる。
肩の力を抜いていこうじゃない。
これからが長いんだもの。