軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1188話 ベクリーヌ滞在④お姉さん

なんなんだろう。時々ある。急にとても淋しくなる時が。

今日の城というか大きな屋敷を見た時、なぜだか廃墟のような物悲しさが押し寄せてきた。そんな気がしたからかもしれない。

わたしはうまく言えなかったけど、思っていることを母さまに伝えた。

瘴気はやっぱり怖いから、そんな下降気味の思いに支配されそうになるのかもしれない。

ドラゴンちゃんたちの成長は嬉しいのに、離れていくことが淋しいと気づいてしまったのかもしれない。

どうしてか胸がわさわさしてしまうのだと。

「そうねぇ。リディアもお姉さんになったってことね」

「お姉さん?」

エリンとノエルが生まれた時から、わたしはお姉さんだ。

「リディー、変わることを怖がらなくていいのよ」

変わることを怖がらなくていい?

「建物は風化するし、人も老いていく。気持ちも変わることがある。

リディーは聡いからいろいろ考えてしまうのではないかしら?」

母さまは椅子に座って、わたしを膝の上に乗せた。

もふさまとアオは少し心配そうにわたしを見上げていた。

「変わっていき、後悔することもあるでしょう。でもその後悔はね、そうしてみなくてはわからなかったことなの。そうならなくちゃ、後悔にすることにも気づかなかったの。後悔も成長したことの証なのよ」

耳に優しい母さまの声が降りてくる。

「だから後悔することを怖がらないで。大丈夫よ。リディーには家族がいる。友達がいる。お遣いさま、レオ、アオ、アリ、クイ、ベアがいる。ケリーやコッコもリディーのことを大好きよ。ドラゴンちゃんたちとも仲良くなったわね。リディーのことを大好きな輪はこれからも広がっていくわ。

そんなみんなに助けられて、その後悔さえもきっと次のことを乗り越える何かに変えていける。忘れないで。みんなそんなリディーだから大好きなのよ」

「……今日の夜、母さまと一緒に寝ていい?」

「いいわよ。エリンやノエルが割り込んできそうね。自分が姉さまと一緒に寝るんだと言って」

母さまはくすくすと笑った。そしてふと目尻を和ませた。

「母さまも後悔していることがあるの」

「後悔?」

「母さまと母さまの姉さまのフローラ。従姉妹のカレン。ふたりとも若くして亡くなってしまった。幼いときはね、親戚が王宮に勤めて光魔法を惜しみなく使っているのが怖かった。光魔法の使い手は早死にするか、魔法が使えなくなる人が多かった。

リディーのおばあさまも、ひいおばあさまも小さい頃から王宮に召し抱えられて光魔法を使ってきたの。それで成人する頃には魔法が使えなくなってしまったの」

そうか、そうだったんだ。母さまより上の代は王族に奉仕してきたんだ……。

幸い早死にではなかったけど、若いうちに魔法自体が使えなくなった。それで婚姻を結んで、光魔法を得た子供を王宮に……。

母さまたちには自分のお母さんやおばあさんを酷使させられ、魔法を使えなくされたところが王宮ぐらいに思えたんじゃないかな。

そんなところに自分も呼ばれたら恐怖しかない。

早死にか、若くして魔法が使えなくなるかのどちらがいいかを、突きつけられているみたいな気がするもの。

「だから怖かった。知らない人から光魔法が使えるって優遇されていいって意地悪もされたし、嫌な目でもみられた。

今思えば視野が狭かったとわかるわ。王宮は確かに光魔法を欲していたけれど、光魔法の使い手を護る意味もあったのね。

でも差し伸べられた手も何もかも。あの時はとても恐ろしく思えた。

それで3人で逃げてばかりいた」

母さまは小さくため息をつく。

「自分たちの暮らす国のことなんだもの、少しぐらい貢献すればよかった。ずっと務めるのは嫌だけどもうちょっと毛嫌いしないでいればよかった。そうしたら何が私たちに悪さをしていたのかもわかったかもしれない。それに魔法は使えなくなっていたかもしれないけれど、姉さまも、カレン姉さまも、今も生きていらして可愛い子供たちの成長をみられたかもしれないわ」

フローラ叔母さま、アラ兄、ロビ兄の大きくなったところ、見たかっただろうな。

カレン叔母さまも、かっこよくなった兄さまを見たかっただろう。

「王宮はリディアにとてもよくしてくれている。それをみて、私はいろいろ見えてなかったって、悪かったとそう思うようになったのよ。

リディーはいつも自分以外のために一生懸命ね。今だってドラゴンちゃんたちと人族の調和を願って、苦手な瘴気のある第一大陸にも行って逃げ出そうとも思ってない。

そんなリディーが母さまの子供に生まれてくれたことが、とても誇りだし嬉しいわ」

半身を捩るようにして、母さまにしがみつく。

「わたしも母さまの子でよかった。母さまが母さまで嬉しい!」

ふたりでぎゅぎゅっとしあった。

母さまの胸の中はとても安心する。言葉がなくても、だ。

こんなに大きくなったのに、甘えてしまった。

恥ずかしくなったので、自分の部屋で少し眠る。

ハウスさんにもし仮部屋で何かが動きがあって、それを感じることがあったら起こしてとお願いして。

アオに引っ張られて起きた。

気分が少し良くなっていた。瘴気はなんとなくメンタルにもくる気がする。

アオがホコリ虫1号が騒いでいるのをキャッチしたので、夜にまたくると言って、仮部屋に戻る。

おお、やはり瘴気ある。こればかりは慣れるものではないらしい。

隣の部屋から音がする。みんな帰ってきたみたいだ。

わたしからもホコリ虫1号にお礼を言って、また筒の中に入ってもらった。そして今度はクモ1号に同じお願いをしておく。

夜忘れたら嫌なので、今から仕込んでおくのだ。

ドアを開けて隣の部屋に行くと、一斉にみんなこっちを見た。

な、なんか怒ってる?

「お疲れさま、どうだった?」

「リディア嬢は行かなくて正解」

アダムが疲れた声を出す。

ドラゴンちゃんたちがわたしの元に飛んできた。

みんなして撫でてと手に体を擦り付けてくる。

「そんなひどかったの?」

「ドラゴンより、ドラゴンを操れる少女を連れて来い、これだよ?」

兄さまが無表情だ。めっちゃ怒ってる!

「フランツが手を出さないでくれてよかったよ」

ルシオが深ーいため息。苦労人だな。

「悪いけど、ほんと行かなくてよかった。何言われたかわかったもんじゃないものね。で、他には何かわかった?」

「もう神殿とは別物になってた。あれは一発で神官から除籍。そして神殿から出ていってもらうよ。私の権限では除籍を伝えるのみになるから、明日、神官長クラスの人が来てくれることになった」

「そこで捕らえることになりそうだ」

なるほど。

諜報部隊は忍び込んでいるらしい。明日には報告が聞けるだろう。