軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1180話  レクリエーション③なりたい自分

ひとり、またひとりと質問に答えていく。みんな1年生を満足させる答えを出して、拍手をもらっていた。

レズリーは選択授業の質問だった。何を基準に決めましたか、と。

2年生からは、選択授業がある。といっても、すっごい工夫すれば全ての教科の授業を受けることも可能だ。わたしは高度数学や芸術系の専科になるものはすべて受けなかった。あと体育系もだ。基本だけで十分。

レズリーはクラブ活動の先輩に相談したと言った。

先輩はなりたい自分を想像するといいと言ったそうだ。

そのなりたい自分に必要なものを学んでいけばいいんじゃないかと。

へー、いいこという先輩だね。

なりたい自分か……。

アラ兄、ロビ兄、なりたい自分が見えているんだろうな。

だから就活にもブレがないんだ。何をしたいってわかってるんだ。

わたしは1年後そうなれているかな?

わたしは何になりたいんだろう? どんな自分になりたいんだろう?

兄さまのお嫁さん? そ、それはもちろんなりたい自分のひとつではあるけれど。

学園を卒業したら兄さまと結婚する。それは嬉しい。嫌なわけじゃないんだけど。

もしそうなったら、わたしは何者にもなれないまま、兄さまの隣におさまるってことになるんだ……。

やりたいことはいっぱいあるし、けっこうやっていると思う。

だけど、それが職業っていえるかというと別な気がして……なかなか難しいな。

ローリンは学園祭のアドバイスを聞かれて答えている。

ローリンは経済的な点、それから人との絆、達成感の点からこんな方法があるんじゃないかと語っていく。

ローリンは要点をかいつまんでわかりやすく解説。4年生みんなも拍手した。ローリンはちょっと照れている。

ライラが引いた質問は「家が恋しくなった時はどうしてる?」というものだった。

これには胸を突かれる。

わたしは家に帰れたので、週末はみんなに会えた。それに途中からはもふさまともふもふ軍団と一緒にいられた。だから乗り切れていたけれど。

「私たちはパジャマパーティーをしてました」

と笑った。

「私たちが1年生の時は、とても意地悪な人が寮母でした。わけがあって当番制で掃除もしていました。食事より30分早く起き、各部屋以外を掃除してまわりました。食事が少なくていつもお腹が空いていて。汚くてひもじくて平民ってことで馬鹿にされて辛い時もありました。でもみんなと一緒だから乗り越えられた。

お腹はぺこぺこだし、朝は早いのに。だからこそ団結力が生まれたってのもあるかもしれない。寮母に見つからないように集まって、お水で乾杯をして貴族ごっこして悪口を言ったりしながら、淋しさを紛らわしました。

淋しいのは当たり前です。だから淋しいって言っていいと思います。それで同じように淋しい友達と分かち合えば、もう少しだけ耐えられる淋しさになると思います」

拍手が起こり、ライラは照れ笑いを浮かべた。

最後の一人はキャシーだ。キャシーはずいぶん積極的になってきたと思うけど、人前で発表するのは苦手だと自分でも言っていて、今も顔を青くしている。

みんながキャシーをリラックスさせるように声をかけ、そっと触れて頑張れをチャージしている。オレンジ色のふわふわした髪はまるで綿菓子で、とても儚げに見える。

キャシーは悲壮感を漂わせて箱の中から最後の紙を取って開いた。

キャシーは一瞬躊躇した。

「先生の意見と違うとき、どうしますか?と書いてあります」

キャシーの声はちょっと震えている。

「私はとても怖がりで臆病者です。そしてこういう発表の場が苦手です。

学園に入ってからこれでもよくなってきた方です。

先生と意見が違ったら、そうですね。その時に思いついていたら質問もできますよね? みんなの前でいう勇気が出なかったら、後で先生のところに言って尋ねるのもいいと思います。

私なら。私は臆病者で怒られることがすごく怖いです。だから一人の時に聞く方が怖いです。みんながいる時に、みんなの意見ももらえる時に、みんながいるから出せる勇気を出してその場で尋ねると思います。私がうまく聞けなくても、みんながいればそれを助けてくれるからです。ずるいけれど、私はそうやってみんなの力をいつも借りています」

スッと手が上がる。藍色の髪を長く伸ばした女の子だ。

「どうぞ」

キャシーがうながす。

「い、今の質問は私が書きました。答えてくれてありがとう存じます」

「い、いえ、答えになっているかわかりませんが……」

「私も4年生やみんなの力を借りて尋ねたいと思います」

その子は体の方向を先生に向けた。

「先生は私たちに、質問には〝平民〟の先輩に聞きたいことを考えるように言いました。でも学園は身分を超えて仲良くする場所だと理念に書いてあります。

みんなも〝平民〟がってつけるとバカにしているみたいだからやめたいけど、成績が落ちるのや嫌だから平民って言葉を使うって言ってました。

先輩たちはバカにされたような質問にもちゃんと答えてくれたし、学園生で平民だから、とか、貴族だからとか、分けるのはおかしいと思えました」

先生の顔色が悪くなっていく。

そっか、平民って枕詞がついた質問が多かったけど、先生がそうなるように示唆していたのね。

「な、何を言うのです!」

先生が立ち上がると、質問していた子はビクッとした。

「先生」

いい声でオスカーが先生を呼ぶ。先生の視線が動いてオスカーに向くと、彼はニコッと笑う。

「派閥問題がより深刻化しているみたいですね。

でもそれを生徒に押しつけるようなことをしたら、〝お仲間〟からも排除されてしまいますよ?」

先生は蒼白を通り過ぎて顔が真っ白になった。

「ご、合同授業は終わりです。4年生はご苦労さまでした」

そう一方的に言って、靴音をカツンカツンと響かせ、ドアからでてしまった。

藍色の髪の子が泣き出してしまった。周りの子が集まってきて、その子を慰めている。

「大丈夫だ」

イシュメルが唐突に言った。

「これは合同授業。俺たちも当事者。ちゃんと報告をしておくから、君たちに落ち度はない。何も心配しなくていいよ」

後をオスカーが続ける。

「平民をつけてもつけなくても、だからって成績に何か加味されることはないよ。大丈夫」

「すごい勇気だったと思うわ」

とマリンが滅多にしない褒め言葉を言った。

みんなに大丈夫と言ってもらって、やっと笑いが戻ってくる。

先生たちの派閥問題は根が深いって話は聞いていたけど、それが平民貴族論争となり、生徒にまで撒き散らすなんて。オスカーはさすが貴族。その一環で起こったことだとピンときたみたい。

わたしはそう思いながらも、これ以上生徒にまで被害が及ぶような争いは起きまいとたかをくくっていた。教師の矜持を信じていた。