作品タイトル不明
第1166話 課外活動参加への許可(中編)
「な、ヒ、ヒンデルマン先生。た、確かに厳重注意に触れると思われる行いだったかもしれませんが、4年生の主任に解雇の権限はない!」
ルン髭が怒りを露わにするところを初めてみた。
「確かに4年生の主任だけであるなら権限はありませんが、オマリー先生には正式に挨拶するのは初めてですね。教鞭をとる関係でラルフ・ヒンデルマンと名乗っておりますが、私がピーター・ラルフ・クリューガーです」
ルン髭の顔から赤みが消える。
「く、クリューガー理事長……?」
理事長? 理事長って言った?
ヒンデルマン先生って理事長なの?
アダムに目をかけてくれてるっていう? それに理事長は公爵さまで、王族と親しいって聞いたこともあるような……。
ルン髭が直立不動になると、今度は威張っていたスギョ公爵に目を向ける。
「スギョ公爵、残念です。定例会での決定をこんな簡単に破られるとは」
え? と思っていばりんぼうの顔を見てみればどこか青ざめていた。
いばりんぼうはヒンデルマン先生の公爵としての姿の時の知り合いのようだ。
定例会で約束事を破ったようだ。ということはその決定はウチかわたしに関係することなんだろう。
「わ、私はこの者にどうしてもと頼まれてだな……」
「そ、そんな公爵さまがドラゴンをどうしても見たいと、おっしゃったんじゃありませんか! そして創作活動の後援者になってもいいと」
「その話は後日ゆっくり聞かせていただきます。今は、シュタイン家にご迷惑をかけたことを詫びてください」
いばりんぼうはこちらを憎々しげに見て、ふんっと鼻を鳴らし、踵を返す。
その後をルン髭が、情けない声を出しながら追いかけて行った。
ヒンデルマン先生はその姿を見送ってから、私たちに向かって胸に手をやり謝罪の意を表した。
「申し訳ありませんでした。シュタイン伯さまには、後日正式に謝罪をしに参ります」
「その必要はありません」
中から父さまが現れた。
「父さま!」
「いらっしゃったのですね。この度は大変申し訳ありませんでした。学園の教師にあるまじき行為です」
「顔をあげてください。どうぞ、中へ」
父さまは家の中にヒンデルマン先生を誘った。
父さまはいつから来ていたんだろう? どこから聞いていたの?
先生は父さまの後についていく。
「リディアも来なさい。でもその前に着替えておいで」
あ。
わたしはそそくさと部屋に戻り、ヘリとキュアに手伝ってもらってドレスに着替えた。
父さまのテンションがわからない。それがちょっと怖い。
客間の前で深呼吸してからノックする。
「入りなさい」と声がして、中からアルノルトがドアを開けてくれた。
「ヒンデルマン先生、ようこそおいでくださいました」
わたしは〝令嬢〟のよそ行き顔でご挨拶。
「ご令嬢、いつもに増して可愛らしいですね。あたたかく迎えてくれてありがとう」
ヒンデルマン先生が笑った。
笑った!
みんな、ヒンデルマン先生ってかっこいいって言ってたけど、納得した。
学園にいるときは前髪で顔を隠しているような感じなんだよね。でも今日はしっかりと半分前髪を後ろに流しているので、きれいな切長の目がよく見える。
目を和ませればイケメン度がさらに上がる。
「顧問の先生が家まで来て怖かったようだね、アルノルトから知らせがきた」
アルノルトが学園に知らせを送ったのかと思ったけど、そっか、父さま経由だったのかもしれない。
「アルノルトが怪我をしました。それが一番怖かったです」
アルノルトの傷はすでに手当済みのようだ。
「気持ちはわかるけれど、ああいうときはリディアは出てはいけないよ」
「アルノルトは強いけど、身分を出されたら何もできないわ」
「それでも、だ。それにお遣いさまもいない時に、家から連れて出られたらどうするつもりなんだい?」
黙って連れて行かれるつもりはない。心の中で反抗する。
「ちょうどクリューガーさまがいらしてことなきを得ただけだ。自重しなさい」
「……はい」
「そういえば、お遣いさまも、君の護衛をしているはずの《《アダム》》の姿も見えないようだけど?」
ギクっ。
ヒンデルマン先生は察しがいいから、気をつけないと。
みんながダンジョンに行っているのは秘密なのだ。
「用事がありましたか? 頼み事をしているのです」
わたしはニコッと笑って見せる。話の方向を変えるために口元に手をやって驚いた表情を作る。
「先生が理事長先生だなんて驚きました」
「生徒には特に内緒にしておきたいんだ。みんなには黙っておいてくれるかい?」
わたしは神妙にうなずく。
「わかりました。誰にも言いません」
でも思い返してみれば、不思議なことはあったんだよね。
魔力感知があった時、魔法兵とやってきたのはヒンデルマン先生だった。
もっと格式高い服を着た先生を見たことがあるというのも聞いたことがあるし。
極め付けは。わたしが学園に入れたわけ。
ヒンデルマン先生が再試験への道を作ってくれたんだ。
「先生が、わたしを学園に入れてくださったんですね?」
わたしを面接したのが先生だったから、先生が掛け合ってくれたんだとは思っていたけど……。公正さを欠く行動は取らないだろうけど、先生の意思があっただろうことは推測できた。
「いや、君の実力だ。私は妨害により学ぶ道を閉ざされた君に、機会を与えられる立場にいた。でもその機会もとても細い道だった。それを見事勝ち取ったのは君の実力。いくつもの君を助けようとする意思が働いたからでもある」
「最初に手紙をいただいたときは、娘の不正疑惑を払うだけに、再試験のことを持ち出されたと思いましたが、それが全て考えられていたことだと思い直しました。
娘は学園で多くのことを学び、縁を結び、楽しくて仕方ないようです。
先生と一度しっかり話をしてみたかった。今日、こうしてお話ができて嬉しく思います」
父さまがそう話せば、ヒンデルマン先生も答える。
「私もです。令嬢は私に言いました。勉強はどこでもできるけれど、学園でしか学べないことがあると。同年代と肩を並べ、専門職の教師から教えを受ける。勉強以外にも人との付き合い方、考え方、〝思い〟を学び体験するところだと。そうお父上から教わったと。とても心揺れ動かされる動機、そしてそう仰ったお父上と私も話をしてみたいとずっと思っていたのです」