軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1063話 放課後の影絵㉑問いかけ

集会はいつものように始まった。

白い布をかぶった人たちが、入り口で配られたグレーン酒片手に入ってきて。

真ん中にポッカリあいたスペースで告白が始まる。

今日の一番手は中年の女性だった。

「私はこの通りいい年ですし、次の世界へ行きたいなどと思っている訳ではありません。けれど、あの悪魔のような一家がどんなに悪どいのか知らしめたくてこの会に参加しました。ここで告白すれば憎む気持ちが癒されると言われましたが、そうはなりませんでしたし、それを望みません。

なぜならあの一家は未だに周りを騙しいい顔をしながら、のうのうと暮らしているからです。

私には息子がおりました。主人を亡くしてから、ひとりで育ててきた息子です。母思いの優しい子でした。けれど3年前亡くなりました。

私の息子はクレソン商会で働いていました。そこにあのシュタイン伯とその息子とたちと娘が乗り込んできたそうです。

息子たちに毒を飲ませ、やってもいないことをやったと証言しろと言ったそうです。証言しなければ解毒薬はやらないと」

会場から「そんな」とか「酷い」とか同情的な声が集まる。

「息子はやってもないことをやったとは言えないと言いました。

解毒薬はもらえず……最初はなんでもありませんでした。けれど、2日、3日と経つうちに皮膚が爛れてきて痛みが出てきて、そして呼吸が少しずつしにくくなり、一月後には息子は亡くなったのです」

中年女性は派手に泣き声をあげた。その周りで啜り泣く音が。

うっそぉ。今ので信じたの?

若い男性が寄り添い、彼女の肩に手を置いた時、柱の横にいた人が手を挙げる。

バンプー殿下だ。

な、なにを?

中年女性に寄り添う男性が、手を挙げたバンプー殿下になんでしょうと声をかける。

「その息子はクレソン商会に勤めていたのか?」

女性は涙をハンカチで拭きながら頷く。

「クレソン商会とシュタイン家の裁判記録を読んだ。その記録では亡くなった人はいなかったと思うが?」

「な、なにをおっしゃるんですか?」

「だってあの毒そのものが、商会の嘘を暴くためにでっちあげられたものだったではないか」

バンプー殿下ってばなにを考えているの?

敵集団の中に一人でいるようなものなのに、そんなことを言ったら。

周りの人たちがざわざわしだした。

「あなたの勘違いではないでしょうか?」

寄り添った若い男性が柔らかい声音で穏やかに意見する。

「あ、あの裁判がインチキなんです! シュタイン家が裁判長を買収したの! ウチの息子は殺されたのよ!」

女性は金切り声だ。

「あの裁判? あ、失礼しました。僕の勘違いだったようです。クレソンじゃなく、ペネロペ裁判だ。クレソン裁判は聞いたことがない」

バンプー殿下は引き下がる。わざとだ。

クレソン商会は裁判するまもなく潰れた。その商会のトップがペネロペ裁判の時に証人として出てきたけどね。

バンプー殿下はカマをかけたんだ。

裁判記録を読んだといっても、告白者を信じるか、それに反論した人を信じるか五分五分だ。いや、反論した人に、イチャモンを付けようとしている?と思う人の方が多いだろう。けれど、告白者に矛盾点を感じたら? 信じられなくなる……。

バンプー殿下は裁判話を誘導し、彼女もその裁判を知っていて、相手が貴族だからお金でいいように話がもっていかれたと導いた。

そして最後に、その裁判自体が違うものだったと引き下がる。

ざわざわ。ざわざわ。

中年女性の顔は蒼白。

物腰の柔らかい男性が一瞬だけ眉根を寄せるのを見た。

バンプー殿下危険だよ。まだ帰ってきてないことからもドギマギが強まる。

「彼女の息子さんの魂に、安らかであれと祈りましょう」

誰かが言ってグラスを掲げる。皆、それに習った。

次はクラリベルたちだ。

ますます演技に磨きがかかっている。

より真摯に、気高く、彼女たちは何かを信じる強さを説いた。

けれど、彼女たちはそれゆえに悩む。

彼女たちをどん底に突き落とした貴族の存在を。そんな汚い心は手放したいのにどうしても捉えられてしまう。許せないと思ってしまう。

イライザの恐らく涙が、床にぽたっぽたっと落ちる。

聴衆はより引き込まれる。彼女たちをこれほどまでに悩ませ、許せないのは誰なのかと。

みんなの知りたい欲が最高潮に高まったところで、イライザは口にした。

囁くように、けれど通る声と発生練習の賜物で、小さな声なのに、それは部屋の端にいたものにも届いたはずだ。

「どうしても忘れられない家名は……シュタイン」

聴衆は沸き立つ。

この少女たちを辛い目に合わせていたのもシュタインなのかと。

あるものは涙を流し、あるものは怒りに打ち震えている。

なんかすごい空間だわ。

「彼女たちの悲願が報われることを祈って」

また乾杯。

けど、え? 悲願ってなに?さっきのイザベラの話でそんなことは言ってなかったのに。

けれどグラスを掲げた人たちは、打倒シュタインみたいな言葉を呟き、各で盛り上がっている。

異様な光景だ。

そうして3組目が。

今度はまだ年若い男性だった。