軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1059話 放課後の影絵⑰ウワバミ

「リディー、起きたんだね」

「兄さま!」

もうお昼を過ぎているから、午前中も見舞ってくれたんだろう。

兄さまはわたしの背に手を置き、居間へと誘う。

「わたし、昨日は頭がまわらなくて……」

兄さまが寮の花のことを聞いたときに、思い出せよって感じだ。

「大丈夫」

兄さまはわたしを落ち着かせてから、自分も隣のソファーに座る。

もふさまはわたしの膝に飛び乗ってきた。

「あの後、すぐにロサたちに連絡をとった、緊急事態だとね」

ロマッティー女史に花を持ってくるようにいい、花のことを尋ねた。花は女史が市場へ買い物に行ったときに配られていたもので、もらった花を女史は自分の部屋と花瓶のおけるスペースのある食堂前と5階の飾り棚に飾った。

花からの何かしらの影響がないかと調べたところ、彼女は〝シュタイン家嫌い〟に罹患していた。当たり障りのない話からと思って生徒の話を聞き出したところ、わたしの素行がよろしくないと言ったそうだ。

妙なのは少し前に王宮からの秘密の呼び出し、あれは寮母には伝えたはずで、わたしもロマッティー女史に馬車まで連れて行ってもらったのだが、そのことも外に出るのを手伝わされたとか、寮の中で浮いていて異性関係でもめているようだと思いこんでいるとのことだ。

ドーン女子寮寮生の中にも影響を受けた人はいて、急に昨日からわたしを毛嫌いしている子がでたらしい。

そしてそれはドーン寮だけではなかった。

A組男子寮、B組男子寮、C組女子寮に、臭い消しの小物、しおり、香水が市場に遊びに行った生徒がバラマキでもらったものを持ち帰り、仲の良い子に配ったようだ。それでアンチシュタインが増えたらしい。

そしてセレクタ商会をしょっ引いたそうだ。

物をただで配ったかという質問にはいと答え、素直についてきたけれど、先日市場でというと、先日? いえふたつきほど前王都にきて、初めて市場に仮店舗を出したときにグレーン酒を配りましたけど、その後は配ったりしていませんと意見が食い違ったそうだ。

彼らは王都だとただで物を配ることはしちゃいけなかったのかとおとなしくついてきたらしい。

けれど、最初の一回で、後はしていないと。そんな資金は続きませんと言ったそうだ。

「っていうことは、またそこで途切れてしまうということ?」

「ばらまきはまたやるだろうから、そこで根こそぎいきたいね。

それからそんなうまい話はないかもしれないけど、やりたいことがあるんだ」

やりたいこと?

わたしは兄さまの言葉を待った。

「昨日はリディーが眠そうだから、先に父さまに話した。その前にイザークとルシオには話している」

兄さまはにこっと笑った。

「リディーが聞いただろう? 媒体を利用して、シナリオを本当にあったことだと思い込ませるようなスキルや魔法はあるかって」

「何か知ってるの?」

思わず前のめりになる。

「最初にグレーン酒を飲むということを聞きやすくなる、信じやすくなる。そんな何かが混ざっているんじゃないかって、みんな思ったよね?」

わたしは大きく頷く。

「私もそう思った。だからグレーン酒を調べたいとロサに言っておいたんだ」

そうだったんだ。

「私は学園の外で動ける、それが強みだからグレーン酒の班にはいれたっていうのもあるけどね」

それはあるだろうな。他のメンバー、イザークとルシオも仕事で学園の外で出ることが多いから、そこに抜擢されたわけだし。

「グレーン酒で人が惑わせられると聞いたときに、昔のことを思い出してね」

「昔?」

ノックがあって、ヘリがお茶を運んできてくれた。

蜜入りの紅茶だ。

ヘリが出て行ってから、兄さまは続きを話した。

「おとぎ話のような、寓話のような。バイエルン家に伝わるそういうたぐいのものだと思ってたんだ」

「バイエルン家に伝わる?」

「父上はグレーン酒、私はグレーンジュースを飲みながら、お前は酔えるといいなとおっしゃられた。それを思い出した」

いい思い出のようで、目元が和んでいる。

「バイエルン家はグレーン農園を管理することを仕事にしていたらしい。

そのグレーンで作った酒を、神や王に献上していた。

神はこれからも上手い酒を作り続けたいかと問われた。

当主はもちろんと答える。

すると神は当主は絶対に酔わないようにしてやろうと、祝福を授けた」

酔わないようにが、祝福??

「当主は慌てた。農園の当主が作った酒に酔えないなんてあんまりですと。祝福でもなんでもないと」

その通りって気がする。

「すると神は昔話を始めた。昔は酒を司る神がいた。けれど禁忌を犯したため、罰を受け時の河を流されている。元々酒の神だからか、名を剥奪された禁忌の神に祈ると酒に禁忌の神の力が宿ることがある、と。それは酔うととても似ていて非なるもの。禁忌の神に目をつけられたら大変。ゆえに、酒に踊らされることのないよう、酔わない祝福を与えたのだと。

当主はそうだったのかと喜んでその神の祝福を受けたそうだ。それがウワバミというんだって」

兄さまはクスッと笑った。

「家宝まであるんだ。芸が細かいというか……」

兄さまは息をつく。

「そんな昔話を思い出した。けどおとぎ話のようなもの。

現実ではグレーン酒から何か出てくると思ったけれど、成分はグレーン酒のみ。

そのときにふと思ったんだ。グレーン酒に祈りが入り、禁忌の神が力を貸したんじゃないかって」

兄さまはカップを手に取って紅茶を飲んだ。

「リー、農場でバルドさんから聞いた話を覚えてる?」

「酒を司る神さまのことね。享楽神・バッカスさま。名を剥奪されたところも同じ……」

「農場で聞いたときは、〝バッカス〟という名に気をとられて、このことと結びつかなかったけれど、酒に酔うということではなく、禁忌となった享楽神・バッカスに祈り、それに応えた神の力の入った酒に酔わないスキルが〝ウワバミ〟。バイエルン家に授けられた力じゃないかと思うんだ。

そして推測の域を出ないけど、グレーン酒だけじゃなく、他のものでも禁忌の神の力が入ったものを配ったんじゃないかと思った」

ごくんとわたしの喉が鳴った。