軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1029話 演技指導とご褒美(前編)

ノックを待ち構え、そしてすぐにクラリベルを部屋に引き込んだ。

ベアとクイもスルリと部屋に入ってきて、ベッドの上にダイブしてる。

「大丈夫だった?」

午後からわたしはお城に行った。

クラリベルは演劇部に行って、先輩たちと会うことになり、台本を返したと思う。

すっごく怖かったと思うので、心配していたんだけど。

クラリベルはホワンとした顔をしている。

「クラリベル、どうしたの? なんか変よ? 熱?」

クラリベルのおでこに強制的に手をやる。

熱くはない。

と思っていると、ぎゅーっと抱きついてきた。

「リディア、聞いて! すごいことがあったの!」

「すごいこと?」

「グレーン酒を飲まずに飲んだフリをする演技指導があるって言ってたでしょ?」

「え? ええ」

そうだ、まずクラリベルにはそれを会得してもらわなくてはと、アダムたちが手配すると言っていた。

クラリベルに見張りがあったらまずいので、ちょっと凝った手順だった。

クラリベルからノートを預かってそれを生徒会に渡した。

落とし物があると、生徒会からクラリベルに連絡がいき、手続きをする。その短い時間で、演技指導があったはずだ。本来ならありえないけれど、ロサの護衛としてひとり指導者を紛れ込ませた。学園の護りである聖樹さまと親交があるからできたこと。ロサもスキルを込めた玉を賄賂で渡したそうだ。

そんな手筈になっていたそうだけど。

「指導者って、なんと、ジェインズ・ホーキンスさまだったの!」

あ。潜入者ってホーキンスさんだったんだ。そっか彼は機転がきくし、演技のスペシャリストだものね!

ホーキンスさんはクラリベルの憧れの人! だからほわわーんとなっちゃってるわけね、納得。

「教え方もピカイチよ。こう少しグラスを高くあげて、指の先まで神経をいきわたらせ、きれいに見せることを意識する。手がキレイって褒められちゃった! その手をね、手も演技して魅せて、少し横を向き、服の裾を使って」

クラリベルはグラスを持ったフリで、飲むふりをわたしの前でして見せる。

グラスを持つ手、しなやかでキレイでそれを傾けた時の顔の角度もキレイで。喉をこくって動かすと、真似しただけなのに、透明のグラスから透明の何かを飲んだように見えた。

「すごい、クラリベル! 今何か飲んだように見えた!」

「でしょ? あとは練習って言われて、戻ってきてからもちゃんと練習したんだから!」

えへんとクラリベルは胸を張る。

「えらい!」

と褒めると、クラリベルはわたしの両肩を持った。

「見抜かれるだろうから白状しとく。カドハタ先輩は、どこまでわかっているかはわからないけど、私を嵌める気満々なのは確か。ちょっとそれで嫌な気持ちになったけど、憧れのジェインズさまに会えたから、私は大丈夫! だから心配しないで」

にこっと笑った。クラリベルはわたしに心配をかけないようにしている……。だったら信じて託すのみ。

「クラリベル、大変だと思うけど、任せた!」

「! うん、任された!」

わたしたちはお互いのおでこをつけて祈りあった。

「クラリベルがお芝居させられていることは、秘密裏に陛下に話してある」

試験の参加者には話してないけど、陛下にはロサから報告がいっている。

「へ、陛下に?」

クラリベルの目がまんまるだ。

「ニーナさまとふたり、何かあったとしてもあなたたちはこちら側の人ってことで処罰の対象にはならない。あちらのいう通りに動いていれば何かされたりしないと思うけど、気をつけて! 危険だと思ったら逃げるのよ」

クラリベルは真剣に頷いてから、わたしの手を引いてベッドにポンと座る。

「あれ、ぬいぐるみ2つ足らないよ」

「え? ああ、偵察に行ってるの」

「偵察?」

クスクスとクラリベルは笑い出す。

「そっか、リディアの中でこの子たちは生きているんだね」

いや、本当に生きてるんだけど。

「演技指導の帰りに、演劇部の先輩に声をかけられた」

「カドハタ先輩?」

「うーうん、違うけど、多分カドハタ先輩に頼まれたんだと思う。いつも平民の私になんか声をかけない先輩がさ、生徒会になんの用だったの?って笑顔で言われて。落とし物が出てきてその手続きにって言ったら、そうって、それだけよ。頼まれて聞きにきたとしか思えなかった。だから私見張られているんだと思う。

寮生の中に私を見張ったり、告げ口するような人はいないと思うけど、こうして夜会うのも危険かもしれないわ。トイレにでた誰かが私を見るかもしれない。たまたま会話で夜中に私が廊下を歩いているのを見たなんて言われたら、何か疑われるかもしれないわ。だから、頻度を落とすか、何か他の方法にしよう」

「クラリベルはそれで平気?」

「え?」

「誰かに話すってさ、心の整理にもなるし。自分の中だけに籠ると辛いよ。ニーナさまと一緒だけど、ニーナさまには相談できない。一人で抱え込むの辛くない?」

「そうね、私話すの好きだから。ちょっと辛いって言えば辛いけど。リディアたちと繋がってるってバレる方が、私危なくなるっしょ?」

こんな時でもクラリベルは明るい。

「……クラリベル、バッグ持ってきた?」

上着の前を開ければ、腰に装着している。

ダンジョンに行くときにつけているクラリベルのバッグだ。

ダンジョンに行くようになって、買ったんだよね。ナイフと小銭と布を入れるぐらいの小さい物。

ベルトを外した。

「これがどうかした?」

受け取りながら尋ねる。

「クラリベルが部屋で一人になれるときってある?」

「ひとりに? お風呂にはみんなで行くから、時間ずらせばひとりになれるよ」

それは好都合。