軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

66 本日の予定その8 いざお出掛け!

ソフィエさんが手の中の焼き芋を持て余し、終いにはこの場で食べずに亜空間に収納するとドラゴン達があからさまにガッカリした。

そんな様子を横目に無事オヤツタイムを終える。

と、ディルナンさんから少し固かった焼き芋の皮の残りが入った袋と交換でおしぼりを渡されたので手を拭くと、今度は小さな水筒のコップが差し出された。

中身は薄茶の透明な液体。

迷いなく口にすると、麦茶のような風味が口の中に広がった。

「今から出掛けるんだろう。背負っていけ」

ごくごくと全部飲み干せば、コップを回収したディルナンさんがその手にあった水筒にコップをセットし直してくれた。予備のコップがもう二つ付いている。

そして出された指示に、前に買ってもらったリュックを亜空間から取り出す。

「ハンカチとティッシュ」

「ありましゅ!」

「水筒」

「入れまちた!」

「非常食」

「!!」

そのまま流れるように中身確認となり、リュックの口を開いて定番持ち物を確認された。

点呼の要領で渡された物も加えるんだけど…最後の小袋にディルナンさんを見上げる。

「単なるナッツとドライフルーツの一口クッキーだ。一応持って行け」

もうっ。オカン、好き!

キチンとリュックの口を閉めて背中に背負うと、ディルナンさんが良しと言わんばかりに頷いた。

「くれぐれも周りの大人の指示に従うように」

「あい」

「…オレの用はこれで終いだ。邪魔したな。後は頼む」

それだけ言い残し、軽く周囲に目礼してディルナンさんは食堂へと戻っていく。

夕飯準備で物凄く忙しい筈なのに、本当に行動がスマートというか。

その頃には子竜達が焼き芋をしっかり皮まで完食していた。

母竜達におねだりしてソフトボール大の水球を出してもらい、二頭揃ってぷはーっと飲み干すのを見守る。

可愛い。

「んじゃ、そろそろ出発に当たって編成決めますよー」

状況が完全に落ち着いた所で、シエルさんがそう声を上げた。

「まず外出の主目的の親子とソフィエ隊長に我々、それとユーリちゃんの見守りのお二人は確定。それ以外の騎獣部隊とドラゴンはどんな感じで?」

「騎獣部隊からはツェンを出す」

確定人員以外の確認に、ヤハルさんが迷いなく答えた。

それにツェンさんが頷く。

〈私達もご一緒させて下さい〉

そこへミルレスティが赤い子竜を足元に抱えて声を上げる。

〈ならば、護衛と足を兼ねてワシ等四頭が加わろう〉

〈そうじゃな。これだけ懐いとる姉妹からいきなり引き離したら子竜に精神的負荷が掛かりかねん。それは余り好ましくない〉

〈天使族の二人はドラゴンの騎乗経験があるみたいだしの〉

〈風のが護衛と補助中心でいれば良かろう。ツェンも久々に乗ってけ〉

そんなミルレスティに長老達が同意すれば、ソフィエさんが頷く。

「エスメリディアス・ソフィエ隊長組白い子竜付きに、赤の長老・セリエル様ユーリちゃん付き、青と茶の長老どちらかにオレかツェン副隊長、黄の長老とミルレスティ赤い子竜付きは単独。他の面々は各自の騎獣で移動、かな」

『了解』

《あい分かった》

シエルさんによって迷いなく組まれた編成に、大人達が即応えた。

「では、各自準備の上、竜舎横のスペースに集合。揃い次第出発とします。解散!」

キビキビと出された指示に、一斉に大人達が動き出す。

それを見送っていると、セリエルさんにちょいちょいと手招きされる。

駆け寄ってみると、セリエルさんが亜空間から何かを取り出していた。

「手を前に」

小首を傾げつつ、セリエルさんの指示通り「前へならえ」のポーズ。

何やら肩周りにハーネスみたいなのが取り付けられた。

セリエルさんも似たようなモノを身に付けるが、こちらは背中に何やら棒が繋がっている。

「あ、セリエル様、手伝います」

シエルさんがそう声を掛けると、セリエルさんが私の前に背を向けて屈んだ。

「ユーリちゃん、セリエル様の前においで。…高さ的に、まず棒に乗ろう」

シエルさんに言われるままセリエルさんの背中の服と肩を借りつつハーネスに繋がる棒によじ登ると、シエルさんが落ちないように後ろから支えつつ私のハーネスから伸びる金具をセリエルさんのハーネスの肩の所に接続した。

「セリエル様、できましたよ」

「しっかり掴まってろ」

「あい」

シエルさんの合図にセリエルさんから指示が出た。

それに返事をしてセリエルさんの肩に手をかけると、セリエルさんが立ち上がる。

急に高くなる視点。

いつもとは全く違う世界。

「ふわぁー」

おんぶに似ているが、より安定して運べるように作られた物なのだろう。

こうしないとセリエルさんの両手が空かないから、行動が制限されちゃうものねぇ。

「怪我人運搬機材を改良したおんぶ用品がまたお目見えする日がくるとは思いませんでしたね」

「……」

なるほど、セリエルさんも実は子育て経験者。

でもディルナンさんと違ってこちらは間違いなく「お父さん」って感じなのは何故だろうね?

「ソフィエ隊長、今回は手綱があればいいっスかね?」

「他の騎獣もいますし、全力飛行をする訳ではないのでそれで充分かと」

シエルさんが側に控えていたソフィエさんに確認して、

セリエルさんとシエルさんが更に亜空間から何かを取り出した。

丈夫そうだが、凄くデザインがカッコいい長くて太い真っ白な綱は会話通りドラゴン用の手綱なのだろう。

「あぁ、お二人ともやっぱり自分の手綱をお持ちでしたか」

そこに、ヤハルさんと一緒に竜舎の扉を開き終えたらしいツェンさんが近づいて来た。

その手には漆黒の手綱。基本的な構造は同じっぽいけど、色もデザインも天使族の二人とは全く違う。

気付けばソフィエさんも似たような漆黒の手綱を手にしてるから、黒が北の魔王城のスタンダードなのかな?

ドラゴン達は開いた扉をヤハルさんと共に先にくぐっている。

「一応確認ですけど、鞍は要ります?」

「ソフィエ隊長に確認したけど、不要っスねー」

「では、外に出てから手綱だけ装着しましょうか」

そんなやりとりをしつつ、四人も集合場所である外へと歩き出した。

ふわりふわりと心地よい揺れと、大きくて温かい背中。

大昔、父親におんぶされた時はきっとこんな感じだったんだろうな。

…いや、でもウチの父親、絶対にこんなマッチョじゃなかった。

「セリエルしゃん、ちょっと待ってー」

おっと、いかんいかん。感慨に浸ってる場合じゃないわ。

出て行く前にやる事を思い出してセリエルさんに少し立ち止まってもらう。

「ドラゴンしゃん達、お邪魔しましたー。また遊びにくるねー」

なんだかんだでお世話になったドラゴン達を振り返り、バイバイと手を振っておく。

すると揃いも揃って手(前足?)を振り返してくれた。

……とても器用だね。シュールだけど何故か可愛いです。

「ありがとーございましゅ」

お礼を言うと、セリエルさんが再び外へと歩き出した。

外でドラゴンに手綱を装着し終えて他の面々の到着を待っていると、セリエルさんの背中に背負われた私を子竜達がじーっと見ていた。

この子達、本当に好奇心旺盛だなぁ。

と、白い子竜が側に控えていたソフィエさんの背中を見上げる。

その熱烈な視線に気付いたソフィエさんが白い子竜と見つめ合う。

片やキラッキラな好奇心に輝く瞳。片やタジタジな狼狽える瞳。

〈ふっ…ふふふっ〉

そんな一人と一頭の間にいるエスメリディアスは楽しそうに笑い声を溢していた。

〈吾子、今日は母様の掌で我慢じゃ。父様の背に乗せて貰ってから改めてソフィエに強請るが良い。それからならばソフィエとて拒否はしまい〉

「ハイ、ヨロコンデオンブサセテイタダキマス……」

いやいや、エスメリディアスさん。それ「まさかウチの娘が背負えないなんて言わないわよね? あぁん??」って副音声ががが。

ソフィエさん、冷や汗ダラダラで片言になっちゃってるし。

一緒にいる他の大人三人も苦笑している。

対する白い子竜は「きゅ」っと良い子のお返事。

そんなやり取りが終わる頃、他の騎獣を連れた面々がヤハルさんと戻ってきた。

「じゃあ、早速出発しましょ。うーん……ドラゴン組で固まって先行するから、殿は場所知ってるルゥ君頼んだ」

「はい。いつもの休憩の小島ですよね?」

「そうだ」

それぞれが騎獣に騎乗すると、黄の長老ドラゴンが短く咆哮した。

〈飛行中でも防風しつつ会話ができるようにしておいたからの〉

「黄色のおじいちゃま、しゅごい! ありがとーなの」

〈何の何の、この程度〉

あの咆哮だけでそんな魔術使えちゃうなんて、流石はドラゴン。

「……流石ユーリちゃん。長老達の張り切りっぷりと張り合いっぷりが半端ない」

「……本気で新人の初騎乗の手伝いに欲しい」

なるほど、確かに離れてドラゴンに騎乗してるツェンさんとソフィエさんの会話がちゃんと聞こえる。

効果は抜群だ!

「赤いおじいちゃまも乗せてくれてありがとーございましゅ!」

〈ホッホッホ、孫と空の旅とは最高じゃのぅ〉

赤の長老ドラゴンにもお礼を言っておかねばと思ったんだけど。他の長老ドラゴン達の歯軋りが微妙に怖い。

「……出発する」

そんな微妙な均衡の中、セリエルさんが淡々と告げて手綱を操る。

それと同時にフワリ、と浮力が働いた。

その場に残るヤハルさんに行ってきますと手を振り、いざ出発進行!

セリエルさんと私の騎乗する赤い長老ドラゴンの左に並んでソフィエさんとエスメリディアスと白い子竜。

私達の少し右後ろに青い長老ドラゴンに騎乗したシエルさんが付き、ソフィエさん達の少し左後ろに茶色の長老ドラゴンに騎乗したツェンさん。

そしてその後ろにミルレスティと赤い子竜が続き、最後尾のど真ん中に黄色の長老ドラゴン。

それに少し遅れて騎獣軍団が横並びになっていた。

それだけでも壮観だと言うのに、見る見る間に魔大陸が遠くなり、空が近くなった。

そして視界の先に広がったのはこの世界では初めて見る、キラキラと光が反射して輝く紺碧の水平線だった。

「ふわぁ……海だ……」

海を見ると、妙にあの童謡を歌いたくなるよね。

短いからこそ歌詞が頭に残るのは私だけ?

思わずノリノリで一番を歌うと、シエルさんが青い長老ドラゴンの上でずっこけた。

「いやいやいや、短っ!」

「う?」

「もうちょい何かあるでしょ!」

しょうがないなぁ。じゃあ、二番と三番も歌いましょ。

〈船なんぞなくてもじぃじが 外国(とつくに) に連れてってやるぞ!〉

〈〈〈そうじゃそうじゃ!〉〉〉

あれ? ただの歌詞なのに、長老ドラゴン達が凄く張り切ってる。

ま、いっか。

そんな騒がしくも楽しい空旅も、満たされたお腹とセリエルさんの背中の温かさと抜群の安定感に少し眠くなる。

優しい波音と心地良い潮風にも後押しされ、気付けばそのまま少し微睡んでいた。