軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-09 収穫祭の夜

トカ村の収穫祭は日没と共に終了する。

今は6月、夏至が近いため、日没は午後6時30分過ぎ。

夕陽が山の向こうに隠れると、トカ村村長のブラークが宣言をする。

「日は落ちた。これで春の収穫祭も終わりだ。片付けは明日行う。みんな、これからも頑張ろう」

村長の宣言に、おおー、という声が返ってきて、収穫祭は終わりを告げた。

あとは火の番が、確実に火が消えていることを見て回るだけ。

仁たち……仁、エルザ、ハンナ、礼子、エドガー、ギーベック、サリィ、ルウの8人はリシアの領主館へと招待された。

「領主館といっても名前ばかりなんですけどね」

案内されたのは、トカ村には珍しい2階建ての家であった。敷地もかなり広い。

まだ出来たばかりらしいのは、柱や壁の色を見ればわかる。

「5月に完成したばかりなんです」

少しはにかんでリシアが説明する。

「昨年が凶作だったので、収入がない家が多かったんです。それで、仕事を作り出そうと思いまして、この館を建てることに」

「なるほどな。……でも……いや、なんでもない。中を見せてもらえるかい?」

「ええ、もちろんですよ。今日はお泊まりいただくつもりなんですから。さあ、どうぞ」

「それでは、お邪魔します」

建物は木造で、要所に石材が使われている。

玄関ホールは広めに取られており、床は石造りであった。

「なかなか立派な造りですな。広々して気持ちがいい」

ギーベックが感想を口にした。

「いえ、村の人口を考えたら、少し大きすぎたかなと思っています」

「そうですか?」

仁は首を傾げ、ちょっと計算してみた。

トカ村の人口を考えてみると、まず戸数は約50戸。

標準的な家族構成は3世代、つまり祖父母、両親、子供で、子供は2人から3人いるのが普通だ。つまり1戸あたり6人から7人。

祖父母共に健在な家庭は約半数。

結果、人口はおよそ300人である。

領主の住む館の標準としてみたら小さいのであろうが、トカ村の人口からすると十分大きいともいえる。

「エルザは、どう思う?」

結局、こうした標準について、仁は判断基準を持たないことに気づき、隣にいたエルザに投げた。

「領主の館というものは、その土地の顔、という面もあるから、ある程度は目立たないと、いけない」

「ああ、そういうものなんですね……」

リシアも少し納得したように頷く。

こういう点では、子爵家に生まれ育ったエルザの方が多少なりとも貴族としての感性を持っているようだ。

「まずはお部屋にご案内致します」

リシア自ら、仁一行を部屋に案内していった。

「ギーベックさんご夫妻はこちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

ギーベック、サリィ、そしてルウは 二間(ふたま) 続きの部屋であった。

つまり、ツインの部屋がドアで繋がっているということ。

「ジンさんとエルザさん、ハンナちゃんはこちらでいいでしょうか?」

同じく 二間(ふたま) 続きの部屋に案内された。

「ああ、いいよ。ありがとう」

「あたし、おにーちゃんと一緒がいい」

とのハンナの希望により、仁とハンナ、それにエルザが1部屋ずつ割り当てられた。

そのあとは入浴の時間である。

外にいた時間が長かったので、身体が埃っぽく、皆、入浴は有り難かった。

やや小さめではあるが、ちゃんと男女別の浴室が設けられており、仁たちにも不満はない。

ところでハンナは、今回エルザやサリィ、ルウらと共に入浴した。

「ここのお湯は無色透明なのだな。匂いもほとんどしない」

「ジン兄は、『単純泉』と言って、ました」

サリィの呟きに、エルザが答える。

「ふむ、単純泉、か。文字通り、単純にお湯が湧き出している、ということだね? そうすると、カイナ村の温泉は何になるのだろう?」

今まで気にせずに浸かっていた、と、サリィは頭を掻いた。

「えーとね、『炭酸水素塩泉』、っておにーちゃん言ってたよ?」

カイナ村の温泉は重曹分を多く含む炭酸水素塩泉で、肌がつるつるになる『美肌の湯』でもあった。

ハンナがそう説明すると、サリィは目を丸くして驚いた。

「ハンナちゃんはすごいな。私よりも物知りだ」

「えへへ、いっぱいべんきょうしたの」

サリィに褒められ、嬉しそうなハンナ。

「ハンナちゃんって頭いいんですね」

ルウも驚いている。

「……ん。ハンナちゃんは、勉強家」

エルザも同意した。

「二堂城で、いっぱい本読んでいる」

「だって、ご本、好きだもん」

女湯は賑やかだ。

一方、男湯の仁とギーベック。礼子はギーベックがいるので外で待機している。

「……」

当然、話は弾まない。

* * *

夕方まで色々な鍋を食べていたので、夕食は軽め。

ということで、『パシュタ』が用意された。

「茹でたパシュタに 丸豆(ダイズ) の油を絡めて、ヤマネギ(ギョウジャニンニク)の根を刻んで入れました」

リシアが説明してくれる。

そこに好みで塩胡椒を振って食べるという。ペペロンチーノに近いといえるだろう。

仁とギーベック、サリィは胡椒多め、エルザはやや控えめ。ハンナとルウは胡椒抜きの塩のみ、で楽しんだ。

「この食べ方、美味しい」

エルザも気に入ったようなので、蓬莱島でも研究させようと思った仁である。

「クレスを刻んで掛けたら美味しいかもしれんな」

「あ、そうですね!」

「胡椒の代わりに唐辛……」

唐辛子、と言おうとした仁は、アルスで唐辛子ってあったかな、と思い直し、口を噤んだ。代わりに、

「刻んだキノコ類を入れても食感が楽しめるかも」

と助言しておいた。もはやそれはペペロンチーノではないかもしれないが。

パスタはいろいろなバリエーションを楽しめればいいのである。

それからも、いろいろな話をしつつ、夜は更けていく。

ハンナがうつらうつらし出したのでその夜の歓談はお開きとなった。

「おやすみなさい、皆様」

歓待役であるリシアは、客室前まで一行を送り、一礼をして下がっていった。

「それじゃあ、おやすみなさい」

仁の腕に抱かれて眠っているハンナをちらりと見て、エルザは自室のドアを閉めようとした。

「あ、エルザ、ちょっと」

そんな彼女を仁は呼び止める。

「なに?」

「今日は、いろいろとご苦労さん。さすがエルザだな」

村人の診察に当たってくれたことに、仁は感謝を述べた。

「ん……私にできることを、しただけ」

思い掛けないタイミングでの褒詞に、ちょっと戸惑うエルザ。

「それでも、言っておきたかったんだ。……おやすみ」

「おやすみなさい」

仁はハンナをベッドに寝かせ、自分も上着を脱いでもう1つのベッドに横になった。

朝から色々とやっていたので、なんとなく疲れたのである。

そんな中、少しだけ気になっていたことを考えてみる。

(トカ村の人たちとカイナ村の人たちって、何か違うような気がするな……)

僻地といっていいカイナ村であるから、それは無理からぬことなのであるが。

(考えてわかることではなし……)

そのうち、仁は眠ってしまったのだった。