軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-07 隣村からの便り

エルザが試作圧力鍋で作り始めたのは『フォン』もしくは『ブイヨン』と呼ばれる種類のものである。

これらは、現代地球では料理における『出汁』で、シチューなどのベースにしたりスープの出汁として使ったり、ソースを作ったりする。

アルスではすじ肉、鶏ガラ、骨髄、野菜、果物などいろいろなものを入れて煮込むので、フォンとブイヨンの中間のようなものであり、仁は『洋出汁』と呼んでいた。

コクが出るまでには長時間煮なければならず、完成までにはかなりの時間を必要とする。

それを、圧力鍋を使ったらどれくらい短縮できるか試そうというのであった。

今回作っているのは蓬莱島標準の組み合わせ。

ゴンドアカリブーの骨、煮干し、昆布(によく似た海草)、マルネギ(タマネギ)の芯、シイタケ(みたいな食用キノコ)、それにカプリの乳。

ゴンドアカリブーは魔族領から輸入したもの、煮干しはタツミ湾産、昆布は蓬莱島の北でマーメイド部隊が採取、マルネギはトパズが畑で育てたもの、シイタケも同じ。

これは和洋折衷の出汁となる。

これに肉や魚、野菜をもっと加えれば更に複雑な味が絡み合う『洋出汁』が出来上がる。

和食に合うものは少ないが、スープ、リゾット、シチューには殊の外合うのだ。

隠し味的に混ぜると料理の旨味を増してもくれるのである。

「ジン兄、これを皆が見ている前で作ったらどう?」

吹き始めた鍋を見つめていたエルザが振り返って言った。

「あ、それはいいな。10分くらいで出来上がるなら、説明している間に済むだろうから、味見をしてもらえるしな」

「味見してもらえるなら塩を加えてスープにするといいかも」

塩味を加え、目の細かい網で濾し取ればお手軽スープの出来上がりである。

「うん、それでいこう」

塩だけで美味いスープになることを知らしめれば、皆この圧力鍋を普及させようと思ってくれるに違いない、と仁は当て込んだ。

そうこうしているうちに10分が経ち、エルザは火を止めた。

蓋に取り付けられた魔導具部分では温度を検知し、火が消えると少しずつ圧力を抜いていくようになっている。

噴き終わるまでは、結界に阻まれて蓋を取ることは出来ない。

だから蒸気が噴き出して火傷したり、蓋がすっ飛んだりしないのである。

「使い勝手はどうだ?」

「悪くない。もう少し柄が長いといいかも」

今回作った試作は小型なので片手鍋である。

世界会議でお披露目するのは、出席者全員分を作るために両手鍋になるだろう。しかもかなり大型の。

「そっちも作って、慣れておかないとな」

「え」

エルザは目を見張った。

「わ、私、が、作って、みせる、の?」

予想外だったようだ。

「駄目かな?」

「……」

エルザは数秒考えてから、首を縦に振る。

「……やる」

「頼むよ」

同時に、30人分は楽に作れる大型圧力鍋から、2人用の小型圧力鍋までのラインアップを揃えることになった。

世界会議で使うのは一番大型のものにする予定だ。

「コンロは改良型魔導コンロを使うか」

原型は仁がカイナ村で作った魔石コンロだが、こちらは 魔結晶(マギクリスタル) を使ってより高熱を出せるようになっており、大人数でも大丈夫なものだ。

「あとは素材か」

仁は少し考えてから老君に指示を出した。

「老君、鉄素材を、流通が混乱しない程度に各国から買い込めるか?」

蓬莱島にある素材を使うことも考えたが、ここは経済効果を考えて、購入する道を選んだ。

なにしろ、仁の資産は増える一方なのである。

自給自足ができる環境にいて、税を取られておらず、収入が入ってくる。その収入も、不定期とはいえ半端な額ではない。

ここらで使わないと経済が回らなくなるのではないかと、そっち方面に疎い仁でさえ心配になるほどだ。

『わかりました。各国に散らばる 第5列(クインタ) に指示を出し、素材を購入させましょう』

老君はすぐに手を打った。

商人に化けている 第5列(クインタ) が素材を買い、最寄りの 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へ送り出す。あるいは、転送装置で蓬莱島へ送り込む。

急激な市場価格の暴騰を招かないように加減して、老君は各国から鉄のインゴットを購入していくのである。

* * *

「収穫祭への招待?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。今朝村長さんの所に届いたそうです』

カイナ村の隣村であるトカ村では、ちょうど麦の収穫が終わったそうだ。

今年はまずまずの収穫となり、冬の飢饉騒ぎを乗り切ったお祝いも兼ねて、盛大に行いたいということだった。

「わかった。明日、カイナ村へ行こう」

エルザが作った『洋出汁』をソレイユに渡すと、それを使って彼女は冷スープを作り始めた。

トポポとマルネギ(タマネギ)、カプリの乳を使って煮込み、それにヤマネギ(ギョウジャニンニク)のみじん切りを加える。

ルーナは大麦のリゾットを作っている。

このリゾットにも『洋出汁』を加えている。他に、塩胡椒、マルネギ(タマネギ)、シイタケ(みたいな食用キノコ)、ワイン、それに少々の米を混ぜた。

それに付け合わせとしてシトランを使ったフルーツサラダ。

「うん、美味い」

ということで、その日の夕食は試作圧力鍋で作った『洋出汁』を使った献立であった。

* * *

「トカ村か……」

「リシアさんのいる村」

「そうなんだよな……」

仁は、なんやかんやでご無沙汰してしまっているので少しばつが悪そうな顔をしている。

隣村ということで、頻繁に行き来できそうなものであるが、そんな心理ゆえか、逆に疎遠になってしまっている。

地形的にも、2つの村の間にはトーゴ峠が立ちはだかっており、片道2日近く掛かるという距離もあって、村間に交流はほとんど無いのだ。

というよりも、カイナ村が僻地にありすぎると言った方が早いだろうか。

「かといって鉄道や道路やトンネル掘削の意味もなあ……」

仁ならできるが、その結果や周囲への影響を考えるとあまりやりたくない。

そもそも、カイナ村とトカ村だけ行き来できても意味が無いと仁は思っている。

リシアは新米領主として頑張っている。それゆえにあまり気に掛けなかったのも事実だ。

「……薄情な奴と思われても仕方ないな」

「ジン兄、リシアさんは、あまり人に頼る人じゃない。自分でなんとかしようと努力する人」

「そうかな?」

仁は、初めて会った頃の、不安を抱えていたリシアを知っている。自分に何が出来て、何をするべきか悩んでいた彼女を知っているのだ。

遠くばかりを見据えていた仁も、少し反省せざるを得なかった。

「手土産を持って行くことにするか」

「ん、この圧力鍋を持って行くといい」

「ああ、そうだな」

仁とエルザは話し合ってお祝い品などを選定していったのである。