軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-32 語らい

仁は、無重力状態での実験も少しやってみた。

例えば火。試しに、小枝に魔法で火を付けてみる。

「あ、面白いね」

サキが面白いと、指を差して声を上げた。火を付けたものの、燃え上がらず、丸い形になってすぐに消えた。

「ふうん、多分だけど、空気の対流が起こらないから、酸欠になってすぐに消えたんだろうな」

「なるほどね」

このような実験をしていると、老君から報告が入った。

『 御主人様(マイロード) 、間もなく『アドリアナ』が帰還、着陸します』

「お、そうか。じゃあ、見に行くか」

「ああ、楽しみだな!」

「くふ、どんな光景だろうね」

4人が床に降り立つと、老君はゆっくりと重力を回復させる。

「……ふう……なんとなく身体が重いね」

「ああ、同感だ」

「これじゃあ、無重力状態に長くいると骨が弱くなるというのも頷けるな」

現代日本にいたときに聞いた話を、仁がぼそっと口にすると、ラインハルトとサキが驚いて尋ね返してきた。

「え!?」

「ジ、ジン、なんだい、それ!? 穏やかじゃない話が聞こえたんだけど?」

「ああ、それは……」

骨というものは体を支えているわけだが、その負担が無くなると、強度を維持する必要を感じなくなるため、強度が弱くなる、という説明を、仁は歩きながら説明した。

「ふうん……」

「だから、さっきのは、非常時のための訓練であって、決してあの状態でいるわけじゃないから」

「……げぷ」

「サキ姉、行儀悪い」

「いや失敬、失敬」

歩きながらゲップをするサキとそれを咎めるエルザ。

だが彼女たちは知らない、無重力でゲップをすると、ゲップの本体である空気が分離されずに出てくることを。

……つまり、胃の中の液体と固形物も一緒に出てくることになることを……。

彼女等は幸運であったことを……。

* * *

「う、うわあああああ! なんだ、これは!」

「ライ兄、うるさい。サキ姉を見習って」

「……」

「いえ、エルザ様、お言葉ですが、サキ様は放心なさっているだけかと」

サキが静かだと思ったら、直径300メートルの球形船『アドリアナ』を見て茫然自失となっていたらしい。

そして仕切り直し。

「……ジン、これは凄い! 凄すぎる! 君はなんてものを作ったんだ!」

少しだけ落ち着いたものの、まだまだテンションの高いラインハルト。

「いやあ、まいった。予想外、予想以上だったよ、ジン」

完全に呆れ果てたサキ。

2人に仁は、懇切丁寧に説明をする。

「老君も礼子も、俺が乗って宇宙へ出るためにはこのくらいはないと安全ではないと言うもんでさ……」

「ああ、それなら少しわかる」

「うんうん」

仁の半ば言い訳めいた説明に納得する2人。2人とも、老君たちがどれほど仁を大切に思い、大事にしているかは承知しているからだ。

「おい」

説明をちゃんと聞いているのか、と仁が突っ込んだ。

「ああ、ちゃんと聞いているさ。しかし凄いものだね。僕たちも乗せてもらえるのかい?」

「もちろん、そのつもりさ。機関には問題が全く無いから、内装を調え次第、みんなを招待するよ。みんなで宇宙へ行こう!」

「おお、そりゃ楽しみだ」

「くふ、心が躍るね」

仁がラインハルトとサキに説明している間、エルザは老君と話をしていた。

「……そう、やっぱり紫外線どころか、可視光線も有害なの」

『はい。魔力を流していない魔獣の革は、あっという間に劣化しました。もちろん、真空という環境もあるのでしょうが、低級の魔法染料も1日掛からずに色が褪せましたから』

「やっぱり宇宙の環境は厳しいということ?」

『そういうことですね』

こちらはこちらで、何やら対策を練っているようである。

* * *

「ふう、やっぱり温泉はいいなあ」

その夜は蓬莱島に泊まることにしたラインハルトは、温泉で寛いでいた。

「……で、ジン、式はいつ挙げるんだ?」

いっしょに入っている仁に尋ねるラインハルト。

さすがに何のことだ、と、惚けることもできず、

「うーん、秋と思っていたんだが、夏頃かな……」

と、当たり障りのない言葉を返す仁。

「月の調査が終わったら考えたいと思っているんだが」

一応、真面目に考えてはいるらしい。

「エルザがいてくれるおかげで色々助かっているし、延び延びにしているようで済まないと思っているんだが」

本音も交えての返答に、ラインハルトも満足した。

「そうか。まあ、最終的には2人の問題だから、僕がとやかく言うことでもないんだがね」

そう言いながら、ラインハルトはお腹を撫でた。

「少し引っ込んできたかな?」

ベルチェに指摘され、執務の合間に運動をしているという。

「ベルチェの方は大分お腹大きくなってきたろうな」

「ああ、そうだな」

ラインハルトはお湯に浸かりながら、幸せそうに微笑んだ。

その笑顔を見た仁は、ふと、自分も彼等のような家庭が作れるだろうか、と思ったのである。

一方、サキとエルザも一緒に入浴していた。

「ああ、やっぱり温泉はいいね。ただのお湯とはやっぱり違うよ」

右手で左腕を撫でながら、しみじみとした口調でサキが言った。

「エルザもジンと仲良さそうで何より」

「……サキ姉、グースさんとは?」

「え? うーん、どうなんだろうね。ボクにもよくわからない、というのが本当のところさ」

サキは屈託のない笑みを浮かべた。

「私から見て、サキ姉とグースさんはお似合いだと、思う」

「くふ、そうかい?」

「……ん。私なんかが言えることじゃない、けど」

「そんなことはないさ。ボクなんかより、エルザの方がずっと大人だよ」

「……そんなことない」

そう言って俯くエルザの頭を、サキは優しく撫でた。

「エルザ、ほんとに、大人になったね。……きっと、ジンがいるからだろう。ちょっと、羨ましいよ」

「サキ姉……」

真っ赤になるエルザ。

「あはは、でもそんなところはまだ昔のまんまだね」

「……もう」

蓬莱島に吹く風は暖かく、そろそろ夏の到来を思わせる夜であった。