軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-24 商人喚問

「いや、お見事でした、エルザ様」

警備兵が頭を下げた。

今、グース、テンクンハンと2人の仲間、そして警備兵は、エルザ、サキと共に、仁の屋敷にある応接室にいた。

「さすがは 国選治癒師(ライヒスアルツト) であらせられる。あんな見事な治療行為は生まれて初めて目にしました」

「そ、そう」

警備兵からの手放しの賛辞に、エルザは少し照れを隠せなかった。

「私はロイザート警備隊第2班班長のリルロートと申します」

リルロートは居住まいを正すと、業務モードに入った。

「お部屋を貸していただいて恐縮です。手短に済ませましょう」

リルロートはグースとテンクンハンに向き直った。

「ええと、グース殿、と、テンクンハン殿、でしたな」

「はい」

「……はい」

リルロートは生真面目な性格のようで、淡々とした、事務的な質疑応答が始まった。

「ふむ、珍しい生地を売っていたら、奴らに目を付けられた、というわけですね?」

「そういうことです。奴ら自身がそう言ってましたから」

返答をするのは主にグースであった。テンクンハンは、時々補足を入れる程度。

テンクンハンよりは多少だが腹芸ができる男であった。

幸いにして、警備隊第2班班長のリルロートはテンクンハンの名前も、うろ覚えではあるが知っており、とりあえずは信用されたようだ。

「グース、無事で何より」

そこへ、仁もやって来た。

宇宙船の視察が終わったので、大急ぎで駆けつけてきたのだ。

「これは、ジン様」

リルロートは立ち上がって礼をした。

仁はショウロ皇国の帝室名誉顧問であり、名誉職とはいえ、伯爵より上の地位にあるのだ。

「事情はバトラーから聞いて粗方知っています。俺に構わず続けて下さい」

「はっ、わかりました!」

リルロートは再び事情聴取を開始した。

その間に仁は、ちょっと席を外し、老君に連絡を取った。

バトラーDやカペラ7、それにグースらから個別に話を聞くよりも、まとめて老君から聞く方がわかりやすいからだ。

「……そうか、ふむ、こっそり『 知識転写(トランスインフォ) 』で情報を取ったんだな? よくやった」

気絶している男たちから、カペラ7は、情報を上手いこと引き出していたようだ。

もっとも、 第5列(クインタ) が使える 知識転写(トランスインフォ) はレベル4までのため、必要な情報がギリギリ読み取れる程度であるが。

で、やはり彼等は 統一党(ユニファイラー) の残党で、食い詰めた揚げ句に、金でああした汚れ仕事を請け負うようになったのであった。

それ以外に役に立つ情報は無かった。

仁が情報を得て応接間に戻ると、こちらも事情聴取は終わったようだ。

「ジン様、ご協力感謝します」

リルロートが立ち上がって礼をしてきた。

「いいえ、いいんですよ。で、彼等はどうなるんでしょう?」

彼等、というのはグース、それにテンクンハンとその仲間のことである。

「はい、グース殿は問題ありませんのでもう自由になさっていただいて結構です。ですが、テンクンハン殿とお仲間2人は、まだこの後も話を聞くことになるでしょうね」

「それでしたら、彼等は俺のところで預かりましょう」

間髪入れずに仁は提案し、リルロートはそれを受け入れた。

「そうしていただけると助かります。後日……おそらく明日、自分の上司か、調査官が来ることになると思います」

「わかりました」

そして再度礼をし、リルロートは帰っていった。

「さて、みんな疲れていると思う。ちょっと早いけどまずは夕食にしよう」

「ああ、確かに空腹だ……」

時刻は午後5時を回ったところ。

仁とエルザは蓬莱島で夕食も済ませていたので軽く、後の面々はたっぷりとお腹に入れたのである。

* * *

「さて、これからどうするか、考えようか」

夕食後、仁が仕切り直した。テンクンハンたちは黙って聞いている。

「改めまして、テンクンハン殿、俺はジン・ニドー。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) です。あなたにはお会いしてみたいと思ってましたよ」

「……テンクンハン・テリースという。よろしくな」

少し警戒しながら、テンクンハンが自己紹介した。

あらためて明るいところで見ると、40前後の年齢、明るい金髪にグレイの目。やや痩せているが、体つきはしっかりしている。

「俺は、ケイスだ」

「俺はトーイ。治療、感謝する」

ナイフ使いはケイス、露天商はトーイというらしい。

名乗りあったところへ、バロウが来客を告げた。

「ジン様、テクレス様がお見えになりました」

「ああ、ちょうど良かった」

エカルト・テクレス。

かつて、セルロア王国南部、コーリン地方の大商人であったが、前王リシャールにより、建造した新造船と財産を没収され、失意のままショウロ皇国へ亡命してきていたのだ。

王が替わっても、故郷に戻る意志はなく、ここロイザートで細々と日用品を商う店を開いている。

また、その経済に関する知識を買われ、時折政府から呼び出され、質問や相談を受けていた。

テンクンハンが持ち込んだ 地底蜘蛛絹(GSS) の取り扱いをどうするか相談するため、レグルス46、通称『デック』を迎えにやっていたのであった。

急ぎではないこと、テンクンハンたちが事情聴取を受けていたことから、店を閉めてからやって来たというわけだ。

「エカルトさん、ご無沙汰してます」

「おお、ジン殿、こちらこそご無沙汰しております」

仁は挨拶を済ませると、早速本題に入ろうと、口を開きかけるが、エカルトはそれを押し止めた。

「ジン殿、事情は道々伺いましたので大丈夫です。……皆様、私はエカルト・テクレスという商人でして、今回の事態に何か助言できることはないかとお伺いした次第です」

そしてテーブルの上に置かれた 地底蜘蛛絹(GSS) の見本を手に取って確かめる。

「ふうむ、やはり、これはいいですね。鮮やかな色に染められないということですが?」

これには仁が答えた。

「今のところは、ですよ。どうにでもやりようはあると思っています」

その答えにエカルトは満足そうに頷き、テンクンハンに質問を投げ掛ける。

「この布の供給量はどのくらいですか?」

「そうですな、巾およそ1メートル、長さ10メートルを1単位として、1月に20単位くらいかな」

「ふむ。それは、生産量の問題ですか、それとも輸送上の問題ですか」

「輸送です」

「なるほど。ということは、馬車や街道など、状況が変われば、もっと手に入るということですね。因みに生産力はどの程度で?」

これには、テンクンハンも少し考え込んだ。

「ああ、正確な数値はもちろん秘密になさって下さって結構ですよ。ただ、おおよその値付けのために知っておきたかったのです」

次々になされるエカルトの質問とその答えを聞きながら、仁は、さすが元大商人だ、と感心した。

「あとは明日、陛下に報告し、判断を仰ぐくらいか」

国の許可なくミツホへ行き、また戻って来たテンクンハン。

ミツホから密入国し、こっそりと金を稼いでいたケイスとトーイ。

法に照らせば重罪人である。

だが、ミツホとの正式国交が結ばれんとしている今、騒ぎを起こすのは得策ではない。

幸いにして、この『 地底蜘蛛絹(GSS) 』の輸入は、双方の国に利益をもたらす。

この際、調査官に任せるより、仁が立場を利用してうまく処理すれば、ショウロ皇国、ミツホ国双方にとって利益があるように持って行けるだろう。

そのために何らかの特別措置が取られるよう、口添えする必要もありそうだ。

……と、そんなことを考えながら、仁は一番気になっていたことを、ちょうど話が一区切りついたらしいテンクンハンに質問した。

「ところで、これを出すという蜘蛛ですが、どこに棲息しているんです?」

「ああ、それはリットーの奥山ですな」

「なるほど」

彼等を保護しているとはいえ、第3者にあっさりと教えるあたり、やっぱり残念な人物なんだな、と、力の抜ける仁であった。