作品タイトル不明
27-06 700672号の助言
ラインハルトの誕生日から一夜明けた5月11日。
仁は蓬莱島で宇宙船の進捗状況を確認していた。
場所は研究所裏手奥の平地。
元々平らな場所だったところを整地し、宇宙港にしたものだ。
広さはおよそ18平方キロ。3キロ×6キロの長方形をしており、東端に建造ドックが建っている。
西端には巨大な格納施設が建てられていて、航空機もここに格納されており、『 凍結竜(フロストドラゴン) 』の剥製もこの建物内に展示されていた。
その建造ドック内で巨大重作業用ゴーレム、ダイダラ1から50が総出で取りかかっている様子は迫力がある。
「外殻は何重にもするんだな」
「はい 御主人様(マイロード) 、最も重要ですから」
老子がやって来て説明していく。
「外側から、マギ・インバー、発泡 地底蜘蛛樹脂(GSP) 、ミスリル銀、 魔導樹脂(マギレジン) 、64軽銀となっております」
発泡 地底蜘蛛樹脂(GSP) は断熱、 魔導樹脂(マギレジン) は穴が空いた際の応急修理用とのことだ。
「司令室と 御主人様(マイロード) の私室には更にハイパーアダマンタイトの内張を加えます」
仁の安全ということになると徹底している老君である。
その他にも、非常脱出用の 転移門(ワープゲート) が5つあるとか、 障壁発生器(バリアプロジェクター) を必要数の5倍搭載しているなどの説明が続いた。
「まだ、見落としているものはないだろうかな」
老子からの説明を聞き終わった仁は研究所に帰り、工房で礼子を相手に考えごとをしていた。
「お父さま、宇宙船制御用の頭脳はどうなっているのでしょうか?」
その礼子が指摘してくれた。
「ああ、そうか。……老君、そこのところはどうなっているんだ?」
すぐに老君が返事をした。
『はい、 御主人様(マイロード) 。専用の魔導頭脳を載せる予定ですが、できましたら 御主人様(マイロード) に製作していただきたいと思っております』
老君には幾つかの制限が掛かっているため、何でも製作可能というわけではない。
特に、新たなもの、今までのものを超えるもの、などは仁の許可が必要になっている。
既存の技術を組み合わせるというのはこの限りではない。
「わかった。他に何か注文はあるか?」
『はい。一度、700672号に相談をしていただくとよろしいかと思います』
700672号は、仁の知る限り、最も知識豊富な存在である。
「なるほどな。宇宙船に関しても助言をもらえるかもしれないな。早速行ってみよう」
ということで、仁は礼子を連れ、 転移門(ワープゲート) で700672号の拠点へと飛んだ。
* * *
「よく来られた、ジン殿」
700672号は変わらぬ姿で仁を迎えた。その両脇には、『白い少女』ネージュと、『赤い瞳の少女』ルージュが寄り添っていた。
「お元気そうですね」
「うむ。定期的にペルシカジュースを差し入れてもらっているからな。貴殿も肉体が完全に馴染んだようではないか」
「ええ、お陰様で」
などという当たり障りのない会話を交わした後、仁は本題に入った。
「実は今、宇宙船を建造しているのです」
「ほう。ついにそこまで」
「はい。それで、もしよかったら、注意事項のようなものを聞かせていただけたらと思いまして」
その言葉に、700672号は少し考える素振りを見せた。
「……ふむ、そうだな。立ち話も何だ、こちらへ来たまえ」
「はい」
仁と礼子は、700672号に導かれるまま、部屋の奥にあるテーブルに着いた。
「そもそも、この部屋は『天翔る船』の一部であるわけだが」
徐(おもむろ) に語り出す700672号。
「想像してみたまえ、目隠しをして深い海の中に潜ったとしたらどうだろうか?」
仁はそんな状況を想像しながら、700672号が言わんとすることを考えてみた。
「……自分の位置を特定することが重要、なんですね」
「然り。正解だ」
「このアルス、それから太陽の位置を常に把握している必要があるわけですね」
「そうだ。それに、それらを一旦見失ったとしても、再び見つけられるようでなければならぬ」
「なるほど」
やはり700672号に相談しに来てよかった、と思う仁であった。
「それからやはり自動操縦だな。就寝中や、手が放せない事態に操縦できないというのは拙い」
それもまた、頷ける話であった。
「無重力……正確には無重量状態になる可能性も考慮しておく必要があるな」
「備品は基本固定しておく、ということですね」
「然り」
物によっては磁石を使うこともあるだろう、と700672号は補足した。
宇宙空間での高速飛行中に宇宙塵や隕石にぶつかると被害が大きいため、 障壁(バリア) に頼るだけでなく、事前に察知することも必要だと言われ、仁は頷いた。
「対物レーダーのようなものが必要ですね」
「うむ。難しいかもしれないが、な。それから、大きな物は避けるより破壊した方がいい場合もあるから、そういった兵器もあると良いものだ」
「あ、そうですね」
魔力砲(マギカノン) とレーザー砲はあるが、爆発する系統の武器はない。
「『 魔力爆発(マナ・エクスプロージョン) 』を利用した爆弾、 魔力爆弾(マナボム) ……いや、弾頭を搭載したミサイルか……」
仁の意欲は増すばかりである。
それから、もしも月など、未知の天体に着陸し、調査するならば、専用の車両があると便利だと言われた。
「空からだけでは見つからない物もあるだろうからな」
「わかりました」
カプリコーン1か、トータスでもいいが、真空でも行動可能な車両がほしいところである。同時に、偵察機も必要だ。
更に言えば、脱出用の救命艇もあった方がいいだろう、と700672号は言った。
「言うまでもないが、宇宙空間は暗い。船内の明かりは十分にな」
その他、ライフライン、つまり水、食糧、空気(酸素)の確保については十分なマージンを取った設計をすることなどの助言を受け、最後に、
「行き詰まったら、いつでも訪れるがいい」
との言葉をもらい、仁は蓬莱島へ戻った。
実に有意義な 一時(ひととき) だった、と満足した仁である。
* * *
「おかえりなさい」
仁が蓬莱島に戻ると、エルザが迎えてくれた。
最近、エルザは午前中はカイナ村にいて、ミーネと共に子供たちの教育をしたり、診療所のサリィを手伝っていることが多い。
「ただいま」
「老君から聞いたけど、700672号の所に行ってきたの?」
「うん。色々とアドバイスをもらってきた」
そこで仁は、宇宙船を建造するに当たって、700672号から受けたアドバイスを説明した。
「いつもながら、彼の助言は有り難い。……私からも一つ、いい?」
「もちろんさ」
「救護室、もしくは医務室を作るなら、そこの空調や重力、明かりなどはもう1系統用意しておいてほしい」
「確かにな」
そういった人命に関わるような施設の信頼性を上げるのは絶対に必要なことだと、仁も同感だ。
「……そうしてみると、ファミリーのメンバーにも色々聞いてみるのが良さそうだな」
独りよがりにならないように、と仁は自戒する。
「うん、賛成」
エルザも賛成し、
『 御主人様(マイロード) 、是非それは行って下さい』
老君も賛成したのであった。