軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-05 ラインハルトの誕生日

時間は少し飛んで、5月10日。今日はラインハルトの誕生日である。

カルツ村にあるラインハルトの屋敷、通称『 蔦の館(ランケンハオス) 』で、ささやかな誕生パーティーが行われていた。

「ラインハルト、誕生日、おめでとう」

「ありがとう、ジン」

「ライ兄、お誕生日、おめでとう」

「ありがとう、エルザ」

「誕生日おめでとう、ラインハルト」

「ありがとう、サキ」

仁ファミリーが参加し、ラインハルトの誕生日を祝っていた。

ただ、マルシアとロドリゴは、エリアス王国からの依頼で新型船の試験航海に出ているので出席できないのが残念だった。

他人(ひと) の誕生日は祝う癖に、自分の誕生日となるとやらなくていい、などと言っているラインハルトであったが、今回は仁が半ば強引に主催したのである。

仁からの誕生日祝いは当然懐中時計である。

デザインはベルチェとお揃いで、色は金色。

「ベルの物を見せてもらった時から思っていたが、これはすごいな……魔導具ではないというのが更に凄いよ」

時計のことは知識として知っているラインハルトではあるが、実物を手にすると改めてその技術に驚く。

「ありがとう、ジン!」

この日何度目かの感謝の言葉を口にしたラインハルトは、他の者たちからの贈り物を確かめていく。

「エルザは……おお! 『オルゴール』仕様の宝石箱だな、ありがとう」

銀製の宝石箱はエルザのデザインである。仕込まれている曲は、有名な演奏家が奏でた夜想曲であった。

「サキからは……見事な水晶の置物だな」

エッシェンバッハ家が懇意にしている原石の行商人に頼んで手に入れた逸品であった。

全高50センチを超える。

「これだけのものはなかなか見ないぞ。ありがとう、サキ」

トアとステアリーナからは、ラインハルトとベルチェを象った置物である。

こちらは全高30センチ。ラインハルトは黄水晶、ベルチェは紅石英でできている。

トアが素材を、ステアリーナが加工を担当した。

「これはまた、素晴らしいな」

こうした置物は、貴族の家の『格』の証明ともなるのだ。

ラインハルト自身は美術品、珍品、銘品などの所有欲はあまりないものの、貴族として無関心でいるというわけにもいかない。

この面で侮られるということは、領主としてのデメリットにしかならないからだ。

そして、ヴィヴィアンからは絵画。なんと、自分で描いたのだという。

「この絵は……伝説の一コマか」

「ええ」

語り部らしく、竜に乗る伝説の勇者を描いてある。

これは、世の絵描きが好んで描くモチーフである。

「勇者の隣に姫君が乗っているな」

「ええ、竜に攫われた姫君を助け出した場面です」

しかも、勇者と姫君が、どことなくラインハルトとベルチェに似ているのだ。

「ヴィーって、絵も上手かったのね」

古くからの友人であるステアリーナも感心していた。

「あら、こっちへ来てから描き始めたのよ」

「え!?」

「元々、絵を描くのは好きだったんだけど、セルロア王国にいたときは語り部として以外のそういった活動は一切禁止だったんですもの。ショウロ皇国に来てから始めたの」

それでこの出来映えとは、彼女の絵の才能がいかばかりか、わかろうというもの。

「一流の絵描きに勝るとも劣らないよ。改めて、ありがとう」

最後に、ミーネからは誕生日のケーキが贈られた。

ペリドに教わって作ったもの。

「おお、これはすごいな!」

「ジン様の世界では、こうしたケーキに蝋燭を歳の数だけ立てて、火をつけたそれを吹き消すのだそうですよ」

「ほう」

本来ならパーティーの冒頭で行うのだろうが、そこは異世界、ということで仁は口出ししなかったのである。

小さめの蝋燭を5本と、大きい蝋燭が2本。ラインハルト25歳の誕生日である。

火をつけた蝋燭を一息に吹き消したラインハルトに、出席者たちは拍手で応えたのであった。

「だけど、ヴィーにあんな才能があったなんてびっくりしたわよ」

「私も、描くことが楽しいって、最近知ったの」

ステアリーナとヴィヴィアンは、ここのところすれ違いが続いていたため、1ヵ月ぶりに会ったのである。

「物語だけでなく、絵画で記録を残すという方法もあるわよね」

「ええ、私もそう思っているわ」

「確かに、物語を絵で表すと、イメージが掴みやすいよな」

仁も話に加わった。

「絵物語、というジャンルもあることだし」

「絵物語か……いいわね、それ」

「……私、伝承以外の題材でヴィヴィアンさんが描いた絵も、見てみたい」

エルザもまた、ヴィヴィアンの絵を見て、ファンになったようだ。

「くふ、顔料、っていったっけ。集めるのも楽しそうだね」

サキはサキで、錬金術師らしい興味の持ち方をしていた。

「でもね、『語り部』としても楽しいの。最近、グース君と知り合って、話を色々聞かせてもらっているんだけどね」

「へ、へえ」

そのセリフを聞いたとき、仁には、一瞬サキの顔が引き攣ったようにも見えた。

「各地の伝承を突き合わせると、過去の真実が見えてきたりもするからね、面白いわ」

一方、ヴィヴィアンは実に楽しそうに話し続けている。

仁がサキに話しかけよう、と思った、その時。

「ジン、いよいよ宇宙船を造っているんだって?」

近付いて来たラインハルトに尋ねられたのである。

「ああ、そうなんだ。試作は終わって、いよいよ本番の建造開始したところさ」

「乗ってみたいなあ!」

「もちろん、完成して安全確認したら、ファミリー全員で乗ろう!」

「楽しみにしているよ。最近、執務が忙しくて、何も作れないんでいささか不満が溜まってしまってね」

ラインハルトと話をしているうちに、仁はサキに何か話しかけようとしていたことを忘れてしまっていた。

「ベルチェもそろそろ5ヵ月、だっけ?」

「ああ。最近、少しお腹が目立ってきたかな」

そう言いながら、ラインハルトは椅子に座ってエルザと話しているベルチェをちらりと見た。ミーネも一緒にいた。

「秋が深まる頃には生まれるんだろうな」

「ああ。男の子でも女の子でも、元気な子ならいいさ」

仁としても、母体の健康と胎児の健やかな成長を願い、現代日本の医療知識を総動員して色々と助言していた。

(といっても、妊婦さんがどうすればいいかなんてほとんど知らないけどな……)

基本的に健康的な生活をすべき、ということはわかる。

飲酒や喫煙(この世界に喫煙の習慣はないが)はNG、身体を冷やすのは厳禁、というくらいしか知らないのである。無理もないが。

(あとは過度のカフェインは駄目だっけ……)

ほうじ茶はカフェインが少ないのでお勧め、と言っておいた。

家事は侍女がいるし、 自動人形(オートマタ) のネオンやベラ、それにゴーレムもいるので、無理はしないだろう。

「まあ、ラインハルトだから、大丈夫だろうけどな」

愛妻家の彼であるから、ストレスの溜まるような言動はしていないだろうと思われる。

「ん? 何が大丈夫だって?」

うっかり口に出してしまったことでラインハルトに尋ねられたが、

「ラインハルトの家庭の平和、さ」

と、珍しく無難な返答をした仁であった。