軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 壱  03 同居

「ふうん、『神隠し』、ね。その可能性はあるかもね。200年くらい前に、やっぱり異世界から来た人がいたらしいわ。……あ、お粥が冷めちゃうから食べて!」

アドリアナはシュウキのためにお粥を作ってくれていたらしい。

「といっても、残り物にスープをかけて温めただけなんだけどね」

それじゃお粥と言うよりおじやでは、という突っ込みをしたかったが、せっかく作ってくれたのに文句を言うのは悪いと思い、その言葉はお粥といっしょに飲み込んだシュウキであった。

「……ん?」

「どうしたの? 不味かった?」

「いえ、この味……ああ、そうか」

物足りない、と感じたのだが、それはすなわち『出汁』が取られていなかったからだと気が付いたのである。

だが、自分を助けてくれたアドリアナが、わざわざ作ってくれたものに文句をつけるほどシュウキは大人げなくはなかったのである。

「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

シュウキが『ごちそうさま』といったことに対し、アドリアナは不思議に思わなかったらしい。

「お茶、飲む?」

それどころか、食後のお茶も勧めてくれた。

こちらは2杯淹れ、アドリアナも一緒に飲むようだ。

「……でね、さっきの話だけど、過去、2人か3人くらい、異世界から来た人がいたみたいなの。一番最近でも200年くらい前だけどね」

「ふうん。それで、その人たちはどうしたんですか?」

「この世界……『アルス』っていうんだけどね、アルス世界にいろいろ恩恵をもたらしてくれたらしいわ」

それを聞いてシュウキは意外に思った。魔法という神秘的な力があるこの世界で、自分のような人間に何ができるのだろう、と。

「ある人は、『お米』を作ることを教えてくれたらしいわ。今食べたお粥もそのお米ね。もっとずっと南の方でしか作れないんだけど、それまで作っていた麦類よりもずっと沢山収穫できたそうよ」

ああ、そういう貢献の仕方か、とシュウキは納得した。

『ごちそうさま』という言葉についても、その時に伝わったのだろう。

そしてシュウキは更に考えを巡らせる。

魔法があるということは、それ以外の学問の可能性が摘まれることなのだろう。だが。

「魔法と科学を融合させたら面白いかも」

ぽろりと、つい、口を付いて出た言葉だったが、アドリアナは思ったよりも食い付いた。

「それ、面白そうね!」

と。

「ねえ、シュウキ。あなた、これからどうするつもり?」

「どうすると言われても……」

どうしようもない。異世界に1人放り出されては、生きていけるのかどうかも判断できなかった。

そんなシュウキの心情を察したのか、アドリアナはすまなそうに付け加える。

「ごめんなさい。……故郷に帰りたいわよね?」

「うん……それは、まあ」

正直なところ、帰りたい。両親や姉や妹や友人にもう一度会いたかった。

「今のところ、異世界と行き来するような魔法や魔導具はないのよ」

本当に申し訳なさそうなアドリアナ。シュウキはそんな彼女にもう1つ質問をする。

「魔導具って?」

「え、ああ……。魔力で動く道具、と言えばいいかしら……。いちいち魔法を使わなくてもすむから便利なのよ」

「なるほど、わかりました。そうすると、今のところは、僕は故郷に帰ることができない、というわけなんですね」

「ええ。本当に、ごめんなさい……」

だがシュウキはそんなアドリアナに優しい言葉を掛けた。

「アドリアナさんが謝ることじゃないですよ。本来なら命を落としていたのに、この世界に渡ってきたことで生き延びられたんだから、感謝しなくちゃいけないんでしょう」

「……シュウキ、貴方って、優しいのね」

少し潤んだ目をしたアドリアナに言われて、シュウキはどきっとした。

アドリアナは美人である。それこそ、シュウキが今まで出会ったどんな女性よりも。

金髪に翠の目をしているが、顔立ちはどこか懐かしさを感じさせるところがある。要は東洋人的な感じもするということだ。

生物的に同じではあるが、人種的には地球人と完全一致するわけではないということだろう。

「もしアドリアナさんがよければ、僕をここに置いてくれませんか?」

そう口にしてからシュウキは赤面した。

一人暮らしと思われる女性の家に置いてくれというのは非常に厚かましくも図々しい願いだということに気付いたのである。

「いいわよ」

だが、アドリアナはあっさりと承知した。

「え?」

「シュウキはいろいろと私の知らないこと知っているみたいだし、研究に協力してよね?」

その代わり、きっと世界を渡る魔法を編み出してみせるから、とアドリアナは笑ったのである。

* * *

「それじゃあ、シュウキはこの部屋を使ってね」

今までシュウキが使っていたベッドはアドリアナのものだったようだ。

2人は今、廊下を隔てた部屋の掃除をしている。

埃が溜まり放題なので大変だ。

「アドリアナさん、こういう時に使う魔法ってないんですか?」

布で鼻と口を覆ったシュウキが、古いベッドの下を掃きながら尋ねた。

「んー……『 浄化(クリーンアップ) 』というのはあるけど、単純に汚れを落とすだけなのよね。ほら、貴方の服に付いた泥や血の汚れはそれで落としたんだけど」

要は、掃除に特化した魔法は無いようだ。思ったより不便なものである。

「……そうじゃなくて、代わりに仕事をしてくれるような魔法……いや、魔導具ってないのかな、って」

「……え?」

シュウキは、大家さんの子供が持っている漫画本で、魔法使いが『ひとりでに動く箒』を使って部屋掃除をしているシーンを見たことがあったのだった。

だが、アドリアナは別のものを想像したようだ。

「……『 魔法人形(マギドール) 』……いや、それじゃあまだ不足ね……そうすると……」

何か閃くものがあったのか、手を止めてぶつぶつ言い出した。

そんな彼女を、苦笑いで見つめたシュウキは、部屋の掃除に1人勤しむのであった。

「……ごめんね、シュウキ。貴方にばっか掃除させちゃって」

部屋の掃除をシュウキが一通り終わらせるまで、アドリアナは考えに耽っていたのである。

「いいですよ。お世話になるのは僕なんですから」

「とは言ってもね……」

アドリアナは悩んだ顔を見せた。

「ところでシュウキ、貴方っていつもそんな喋り方なの?」

「はい?」

「私は多少……かなり雑な性格しているから、貴方のこと最初から『シュウキ』って呼んでるけど、貴方は『さん』付けで呼んでくれてるわよね?」

「ええ、まあ」

「なんかやだ」

「そう言われても……」

シュウキとしては、見知らぬ男を自分の家に住まわせようというアドリアナの方が変わっていると思っている。

思っているだけで口にはしないが。

「私はね、7人兄妹の末っ子で、上6人は全部兄なのよ。そのせいか、こんな性格になっちゃったんだ。だから、シュウキももう少し砕けてくれると嬉しいな」

「はあ……」

それにしても警戒心なさ過ぎだろうと思わなくもないシュウキである。

「僕は5人兄妹の真ん中で、上に姉が2人、下に妹が2人いるんで、こんな喋り方になるんですが」

「じゃあ、まずは呼び捨てから、ってことで」

「ええ、そのくらいなら。アドリアナさん」

「ほら、また!」

「あ、ごめんなさい。……アドリアナ」

「うん、それでよし!」

こうして、シュウキとアドリアナの同居生活が幕を開けた。