作品タイトル不明
25-25 献上品、そして
翌朝、早々に食事を済ませた仁は、さっそく普及用自動車の製作に取りかかった。
一番の修正部位は減速機である。
現代地球の自動車のようなトランスミッションは必要無いし、仁も構造を知らない。なので減速機といっても1段だけだ。
つまり、より小型化し、低出力化したゴーレムエンジンの出力を、ギヤで減速しつつトルクアップしようというのである。
減速比は1:5。
エンジンのトルクも5分の1にできる。つまり、大きさを小さくできる。
馬力を正確に5分の1にする計算は複雑になり、仁にも正解する自信はない。
よって、とりあえず大きさを5分の1にしたエンジンを作ろうと思ったが、さすがに10センチは小さすぎると思い直したのであった。
「20センチにしようか」
魔法筋肉(マジカルマッスル) の力だけで考えればほぼ正解である。筋肉の断面積に力は比例するのだから。
エルザ、礼子に手伝いをしてもらい、20センチ級の2連ゴーレムエンジンが完成した。
これを、ギヤで減速するようにして自動車に搭載するのだ。
「改造というのも面倒臭いから新しく作ろう」
と、仁の真骨頂全開である。とはいえ、昨日出来上がった自動車は蓬莱島もしくは崑崙島専用にすればいいと思っているので無駄に死蔵されることはない。
昨日作っているので、普及用試作車は短時間に出来上がった。
「さて、力はどうかな?」
研究所前の広場で試乗してみると、発進加速時に力不足であるということをありありと感じた。
「1:5じゃギヤ比が適切じゃないのか……」
1:10では大きすぎるだろうから、1:7に変えてみる。実際は、ピニオンギヤ……ゴーレムエンジン側に付けられた歯車の歯数を小さくしたのである。
この時、噛み合う歯車の歯数が互いに素(最大公約数が1)になるようにすると、まんべんなく歯車の歯が噛み合い、均等に減っていくので調子を維持しやすいのだ。
仁は、ゴーレムエンジン側を13、車軸側を90にしてみた。
「お、いけるな」
これにより、加速時の力不足は解消されたようだ。
「最高速は……まあ、こんなものか」
目一杯にアクセルを踏み込んでも、時速20キロそこそこ。人間の駆け足くらいである。
「まあこれなら危険は無いだろうし、珍しい玩具と捉えてもらえばいいか」
街中の移動なら十分な速度ともいえる。仁はこの構成をベースにして、献上する自動車を作ることにした。
動力、足回りは2号車と同じものにする。
座席は魔獣の革張り、中には『 暴食海綿(グーラシュヴァム) 』を入れて座り心地を良くする。
問題はボディだ。
『ホースレスキャリッジ』らしく作ることにする。
デザインはエルザにも手伝ってもらった。基本は青銅と木材で作り、要所には金メッキを施して豪華さを出していく。
何せ、女皇帝陛下が乗るであろう自動車だからだ。
女皇帝専用のつもりなので、側面には皇帝家の紋章『 交差した3本の剣(ドライシュヴェルト) 』を入れる。
「うん、いい出来だ」
文字通り『 馬のない馬車(ホースレスキャリッジ) 』が出来上がった。
「あとは運転手ゴーレムか」
これも青銅を使い、青年タイプで製作した。乗り降りの時にドアを開けたりもする、使用人的機能も盛り込んだ。
このタイプを称して『 運転者(ファーラー) 』と呼ぶ事にした。ショウロ皇国で御者のことをそう呼ぶのである。これは1体目なのでファーラー1だ。
各種装備も取り付け、一応の完成をみる。
装備の漏れがないかどうかは、仁の記憶にある現代日本の自動車と比較してみた。
仁は自動車免許は持っていないので、マニアといえるほどには詳しくはないが、社用でタクシーや同僚の運転する車には乗っているのである程度は知っていた。
「ああ、ワイパーがあるといいかな」
と、忘れていた装備を思い出したりもできたので、この方法はなかなか有効であった。
午前中一杯を手直しに追加した結果、『一品もの』の高級自動車が出来上がった。
「……これじゃあ普及は無理だな」
「……うん」
手伝いをしていたエルザも、仁の言葉に全面的に同意した。
女皇帝陛下専用車両として凝った結果、庶民はおろか、大半の貴族でも手が出せないようなものになってしまったのである。
例えばヘッドライト。魔導ランプによるカンテラ風ではなく、『 明かり(ライト) 』の魔法を使って前方への指向性を持たせている。
それから窓ガラス。大きめの窓は全部石英ガラスでできており透明度が高い。危険防止のため、『 強靱化(タフン) 』で強化した『強化ガラス』になっている。投石くらいでは割れない。
同時に運転席は少し下げ、乗客が外を見る妨げにならないような位置に配置した。大型観光バスを参考にしたのだ。
クラクション。耳障りな甲高い音でなく、自転車のベル音を大きくしたような音。これにはエルザが開発した録音、再生の魔導具を利用した。
更には超小型の冷蔵庫まで内蔵し、夏は冷たい飲み物が飲める。冬は切り替えで保温庫になるのだ。
スペアタイヤは床下に4つ収納されている。
肝心の動力性能だが、結局最高時速20キロに落ち着き、街中もしくは近郊までの使用に限定してもらう。
運転手ゴーレムを除き、定員は6人である。構成は前列3人、後列3人掛け。
シートは回転及びリクライニングさせることができるので、向かい合わせにして座ったり、進行方向を向けたり、平らにして仮眠をとったりも可能。
そしてガソリンに相当する『 魔力素(マナ) 』の補給だが、大型の 魔力貯蔵庫(マナタンク) を搭載することで、連続2日間の稼働が可能になっているはずだ。
「効率アップした 魔力素(マナ) の供給機……『 魔力素補給機(マナサーバー) 』も作っておこうか」
今後、生活改善の魔導具を増やすならば必要になるだろうからだ。
するとエルザが、作ってみたいと言い出した。
「ジン兄、それ、私にやらせて」
特に難しいものではないので仁も頷く。
「いいよ、やってごらん。ただ、あまり小さく纏めないように、できるだけ大きくした方がいい」
今現在使われている 魔力素(マナ) の供給機は、事務机くらいの大きさがある。
なので、それより二回り程度小さくするだけに抑えておいた方がいい、と仁はアドバイスした。
「わかった」
PCソフトが、箱の大きさを小さくしないようなものかな、などと仁は頭の中で考えていた。
小さくしすぎると有り難みがなくなり、ぞんざいに扱うというのは人間心理なのだろうか、などと半ばどうでもいいことを考えながら、仁はエルザの製作する姿を眺めていた。
「エルザも上達したな」
つい、そんな賛辞が口をついて出る。
「あ、あり、がとう」
いきなりの言葉にどぎまぎするエルザ。その手から 魔結晶(マギクリスタル) がこぼれ落ちた。
「おっと」
「危なかったですね」
床にぶつかる前にそれを受け止めたのは礼子。仁は伸ばした手を所在なさそうに引っ込めた。
「ありがとう、レーコちゃん」
「いえ」
エルザは製作に戻り、30分ほどで『 魔力素補給機(マナサーバー) 』は完成した。
「うん、いい出来だ。お疲れ、エルザ」
「うん、ありがとう」
「……あれ? まてよ……」
完成した 魔力素補給機(マナサーバー) を眺めながら、仁ははたと思い当たることがあった。
「ジン兄、どうしたの? 何か、まずかった?」
ちょっと不安そうなエルザの声。だが仁はそんなエルザの肩を叩いて、
「これを搭載すればいいんだよ!」
と愉快そうに言った。
「そうすれば補給なしに走り続けられる」
要するにこれは巨大な『 魔素変換器(エーテルコンバーター) 』なのである。
「あ、そういうこと」
エルザにも分かったらしく、笑顔になった。
ということで 魔力素補給機(マナサーバー) を搭載してしまう。これにより、半永久的な走行が可能になった。
そこへ、ロルが昼食ができたと知らせにやってきた。
「ご主人様、お昼ご飯の仕度ができました」
「お、そうか」
ちょうどいいタイミングだったので、仁とエルザは手を洗い、食堂へ向かった。
礼子は2人に……というより仁に付き従い、エドガーはちらかった工房を片付けてから一足遅れて食堂へ。
「お、今日はうどんか」
本日の昼食は天麩羅うどんであった。
「はい、ペリドさんたちに教わって、わたくしが作りました」
「へえ」
海老と 野菜(かぼちゃもどき) の天麩羅もからっと揚がっているし、つゆの濃さもちょうどいい。
うどんは若干腰が弱い気がするが、小麦粉の選別によるもの(強力粉と中力粉、薄力粉のブレンド具合)なのか打ち方なのかまではわからない。
仁は腰の強いしこしこしたうどんが好きだが、エルザは今回くらいの腰のうどんが好みなようで、美味しい美味しいと言いながらお代わりまでしていた。
「さて、そしたら自分たちの自動車も作ってしまおうか」
「ん」
昼食後、仁とエルザは、改めて一般公開用自動車の製作に取りかかった。
エンジンや足回りの外観はそっくり同じ、だが材質を変えることでよりパワフルにできる。
ゴーレムエンジンの素材も青銅でなくオリハルコン、動力用 魔法筋肉(マジカルマッスル) も蓬莱島標準品にすることでおよそ5倍のパワーが見込める。
飾り付けはなしにすることで若干だが軽量化にもなる。
ただ、ジンの紋章、『丸に二つ引き』だけは、両側面と屋根に大きく描いておく。
運転手はエドガーを教育することにした。
「問題は、これをどうやってロイザートまで運ぶかだ」
おおよそ1台500キロくらいの重さ、『コンロン2』に積むには少々重いと思われる。
そこへ老君がアイデアを出してきた。
『 御主人様(マイロード) 、ロイザートのお屋敷で作ったことにすればいいのです』
「ああ、そうか。そこからなら 宮城(きゅうじょう) まで運ぶのも楽だしな」
仁はその案を採用することにしたのであった。