軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25-17 申請

3月24日、仁とエルザは礼子とエドガーを伴い、『コンロン2』で 宮城(きゅうじょう) へ向かった。

最早『コンロン2』は仁の身分証代わりとなっており、特に止められることなく前庭に着陸することができた。

さすがに、警護を兼ねて近衛兵がやって来て出迎えることになる。その中に見知った顔があった。

フローラ・ヘケラート、仁の屋敷のお向かいさん、ヘケラート家の長女で、近衛女性騎士である。

「『崑崙君』ジン・ニドー卿、ようこそいらっしゃいました。エルザ媛、レーコ媛もようこそ」

エドガーだけは、位をもらっていないため名前は挙げられなかった。

「陛下がお待ちです」

昨日、『コンロン2』が帰ってきたのを見て、今日あたり仁がやってくるのではと心待ちにしていたという。

即、執務室へと通される仁たちである。

「『崑崙君』ジン・ニドー卿、エルザ媛、レーコ媛、お久しぶりですね」

女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロが仁たちを迎え入れた。

「今日は何かしら?」

挨拶が済むと更にフランクになる女皇帝。横で生真面目なフローラが渋い顔をしているのもお構いなしである。

「はい、まずは、セルロア王国で起きたあの事故について……」

計8人の兵士が行方不明になったダリの地下遺跡の件を説明する仁。

「そう、8人とも生きていたのね。ジン君、ありがとう。エルザ、よくやったわ」

多少なりともショウロ皇国に関係のある仁やエルザの活躍は、素直に喜ばしいことであった。

「それから、何かあるのかしら?」

「はい。実は、すぐにというわけではないのですが、ミツホ国へ行ってみたいと思っておりまして、その許可をいただきたく」

まだ正式な国交が開かれたわけではなく、仮に、であるため、いくら自由に国境を出入りして良い『崑崙君』といえども、ミツホ国へ勝手に行くのは憚られたのである。

「わかったわ、手続きをさせましょう。……ところでね、一昨日だったけど、トア・エッシェンバッハが同じような許可をもらいに来たけど、一緒に行くのかしら?」

「いえ、そのつもりはないですね。あの人たちは新婚旅行を兼ねているんじゃないですか?」

新婚旅行、という習慣はないので、一瞬きょとんとした女皇帝であったが、すぐにその意味を理解し、微笑んだ。

「ああ、そういうこと。なかなか良さそうな習慣ね。お祝いと休暇と、それに新婚さん2人だけで……」

ひとしきり感心した後、女皇帝は仁に向き直った。

「で、ミツホへ行くのは? ジン君とエルザ、2人きりで?」

もう完全にフランクな呼び方になっており、フローラの顔はますます渋くなっていく。

「いえ、自分とエルザ、礼子とエドガー。それにハンナとサキを連れていこうかと思ってます」

「ハンナ……ああ、あの可愛い子ね。それにサキ……トアがステアリーナと一緒だからということね」

訳知り顔に頷く女皇帝。

「エルザはそれでいいの?」

いきなり話を振られたエルザはきょとんとした顔で返事をした。

「え、はい」

その顔を見て、分かっていなさそうだと察した女皇帝は言葉を追加した。

「ジン君と2人っきりでなくていいの?」

するとみるみるうちにその顔が赤く染まる。

「え、あ、はい。まだ、いいです」

その答えに女皇帝は微笑んだ。

「そう、『まだ』ね」

その時、さすがに耐えきれなくなったか、横でフローラがえへん、と咳払いをしたので、女皇帝は居住まいを正した。

「わかったわ。許可証は発行しましょう。でも2つ、条件があります」

「何でしょうか」

「1つは、商業的な取り引きはしないこと。ただし、個人的な購入はその限りではないわ」

要するに、ショウロ皇国とてまだ正式な国交がないのに、他の国もしくは団体がそういった契約を交わされると困る、ということである。

仁はもう個人ではなく『崑崙君』なのだから。

「わかりました、大丈夫です」

仁は即答した。サンプルさえ手に入れば、蓬莱島で量産出来る自信はある。

「あと1つは、できればでいいけれど、誰か1人はショウロ皇国所属という肩書きで行って欲しいの」

仁は崑崙君ということで一国に縛り付けたくはないが、エルザかサキはショウロ皇国の人間として赴いて欲しい、ということだ。

ショウロ皇国としての許可証を発行するのだから当然の要求と言えた。

「ええ。エルザとサキはショウロ皇国の人間ですからね」

快く承知する仁。女皇帝は微笑み、礼を言う。

「助かるわ。それじゃあ証明書の発行手続きを取っておくから。2日か3日掛かるかもしれないけれど」

さすがに女皇帝1人で決裁できる内容ではなかったのである。

「お願い致します」

仁と違い、女皇帝陛下は忙しい身なので、それで謁見は終了となった。

仁たちは執務室を出る。

そこへちょうど、エルザの兄フリッツ・ランドルが通り掛かった。

「あ、兄様」

「おお、エルザか。それにジン殿、久しぶり。元気そうで何より」

「フリッツ殿もお変わりなく」

少し日に焼けた顔でフリッツは笑った。

「ああ、昨日の夜、帰り着いたんだ。何ごともなく、無事にゴリアスを連れ帰ることができてほっとしているよ」

「お母さまには、会った?」

エルザが『お』母さまという時は、彼女の育ての母でフリッツの実の母であるマルレーヌ・ランドルのことである。

「今日、勤務が終わったら行こうかと思っている。休暇ももらえるしな」

「でしたら、『コンロン2』で行きませんか?」

「え、ジン兄?」

仁からの思い掛けない申し出に、エルザの方が先に反応した。

「……婚約したことを報告しないとな」

「……う、うん」

少し頬を染めるエルザ。

「はは、そうか、まだだったか。それなら、喜んでお供しよう!」

フリッツは笑って仁の背中を2度3度叩いた。少し痛そうに顔を 顰(しか) める仁。

「それでは午後3時頃、そちらの屋敷に行くからよろしく」

最後にそれだけを仁に告げると、フリッツは足早に去っていったのである。

エルザは仁に寄り添って廊下を歩いていった。

* * *

「何か手土産が必要かな?」

屋敷に戻った仁はエルザと相談していた。

因みに、この世界に結納のような慣習はない。ないのだが、婚約したからには、意思表示をするために何かをするのではないか、と仁は頭を悩ませていた。

「……私も、よく知らない」

箱入りだったエルザが知っているはずはなかった。

バロウとベーレも同じ、というか、彼等は庶民であるので、貴族がどんなことをするかは知る由もない。

時刻はまだ昼前なので時間的な余裕はある。

「……ここはラインハルト、だな」

「ん、賛成」

2人の意見は一致した。

礼子とエドガーを連れ、地下にある 転移門(ワープゲート) を使い、ラインハルトの『 蔦の館(ランケンハオス) 』へと移動する。

「ラインハルトは女皇帝より先に熱気球で帰国していたっけな」

「うん、そうだった」

そんな話をしながら地下室から階段を登っていくと、出会ったのはベルチェである。

「まあ、話し声がすると思いましたらお二方でしたのね。今日はどうなさいましたの?」

「うん、ちょっとラインハルトに聞きたいことがあって、連絡無しで悪いと思ったけどやって来てしまったんだ」

仁が頭を掻きながら言うと、ベルチェは済まなそうな顔をした。

「まあ、そうでしたの? 主人は朝から出掛けて、まだ帰っていないんですわ」

村長から何か重要な話があると言われて出ていった、ということであった。

「わたくしでよろしければお伺いしますわ」

「ジン兄、ベルチェさんだって知っているはず」

「そうだな」

ということで、仁はベルチェに聞いてみることにしたのであった。