作品タイトル不明
04-02 失敗は成功の元
翌日、仁はまず通信の魔導具から製作することにした。
情報を遠方に飛ばすやり方は 魔導監視眼(マジックアイ) と 魔導投影窓(マジックスクリーン) でわかっている。
空間に充満する 自由魔力素(エーテル) 、これは特定の条件下で振動し、その波は遠方まで伝わるのである。ちょうど空気と音の関係に似ている。
これを利用し、音声をやり取りすることの出来る魔導具を開発した。名付けて 魔素通信機(マナカム) 。
これを 魔導監視眼(マジックアイ) と 魔導投影窓(マジックスクリーン) と組み合わせることで出来上がったのが 魔素映像通信機(マナ・テレカム) である。
「よし、これを搭載すれば地上とやり取りできるな」
次に作製したのが保護装置。
「結界の応用で、身体への物理的影響をカットすればいいだろう」
壊れた機体で怪我をしないように、という考えである。
物理的打撃を防ぐ結界を発生させる魔導具は比較的簡単に出来た。これはシート下に設置する。
そして脱出時の事を考える。
やはり思いつくのはパラシュート。仁は 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸でパラシュートを作った。軽くて丈夫である。併せて、
「小型の 魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン) 、これを背負っていればパラシュート降下時に落下速度を緩めたり、方向を変えたり出来るだろう」
こっちの方はパラシュートと違い、上手く使えるかどうかは未知数なので使う時が来ない方がいいのであるが。
というわけで、安全に対する対策が出来たところで試作2号機を作り始めた。
基本は1号機と同じであるが、形状をより洗練された形にし、強度の必要な部分にはアダマンタイトで補強を入れた。
更に複座とし、礼子用のシートを設ける。
ここまではいい。
問題は、固体を吸い込まないようにする方法だ。
しばらく悩んでいた仁だったが、突然ひらめいたことがある。
それは、シート下にも設置した、物理防御の結界。
これは現代的に言えばバリアーである。が、中にいる者が酸欠になることはない。つまり、空気は通しているわけである。
「ああ、でも、一定以上の風速だと通さないんだっけな」
『 強風(ウインド) 』『 風の一撃(ウインドブロウ) 』などの魔法による強風は通していない。
「えーと、なるほど、ここの 魔導式(マギフォーミュラ) が……そうか、ここで規定しているわけだ」
そこで仁は、物理結界の 魔導式(マギフォーミュラ) を調べていく。
以前ブルーランドで、ビーナが作った結界発生の魔導具を評価した実力は伊達ではない所を発揮。
その成果として、 空気取入口(エアインテーク) に、気体以外の物質、つまり液体や固体を跳ね返す反発性の結界を施した。
この結界は機体全体を覆うことも出来るようにされ、事実上の 障壁(バリア) となる。風の魔法を通過させるのが唯一の欠点だが。
最後に、予備燃料というべき、予備の 魔結晶(マギクリスタル) を積めるようにする。万一、 魔素変換器(エーテルコンバーター) が故障した時でも、安全に着陸できるだろう。
「これで考えられる保安処置は終わりだな」
航法補助システムとしての 制御核(コントロールコア) は、墜落した1号機から回収して情報をコピー、これで初期から飛行が安定する。
「よし、行こう」
昼過ぎ、仁と礼子を乗せた試作2号機は蓬莱島の空へと舞い上がった。
「うわあ、やっぱり気分いいな」
初めて空を飛んだ仁は文字通り有頂天である。因みに操縦は主に礼子が行っていた。
「お父さま、今度の機体の方が安定しています」
勘で調整したにしては細かい形状の見直しが効いているようだ。
「失敗は成功の元、と言うからな。新型ほど性能が上がっていないと困るよ」
そして仁は自分も操縦出来るようにと練習を開始。教官は礼子である。
「少しずつ慣れて下さい」
徐々に礼子から仁へと操縦が引き継がれ、その日の夕方には、仁も独りで飛行機を飛ばすことが出来るまでになった。これは航法補助システムがあったればこそだが。
「あー、気持ちよかった」
無事着陸した仁は、ご機嫌である。礼子も嬉しそうだ。
「今日はいい夢が見られそうだ」
ソレイユとルーナが夕食の用意をして待つ我が家へと、仁は足取りも軽く歩いて行くのであった。
更に翌日、仁はいよいよ自分でも船を造ってみることにする。
船体形状は 三胴船(トリマラン) にしてみた。 双胴船(カタマラン) 同様、高速航行に適している。その上、中央の船体に動力や船室を置けるため、重心も低くできる。
船体は最早定番と言える 軽銀(ライトシルバー) 。そして、
「エンジンは……これだ!」
それは 魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン) をベースに開発した、 魔法型水流推進機関(マギウォータージェット) 。
風魔法を水魔法に置き換えただけだが、これがまた効率よかった。現実のウォータージェット推進とは原理そのものからして違うので当然だ。
「ゴミを吸い込まないようにすればOKだな」
バードストライクの事故から学んだので、水草などを吸い込んで噴流が止まらないように固体を排除する結界で対策した。
昼食後、仁は礼子を伴ってタツミ湾へ船を運んだ。運ぶのはやはりソレイユとルーナ。
「よし、処女航海と行こうか」
飛行機と違い、船は比較的安全だ。仁が操縦して出発。
船の操縦システムも知らないので、自動車に準じてある。アクセルで走り、ブレーキを踏めば水中に制動板が展開され、レバーで前進と後退が切り替えられる。左右に曲がるのはハンドル。
「おお、これは快適」
タツミ湾内の凪いだ海面を航行する試作艇。
「よーし、最高速度テストだ」
アクセルをめいっぱい踏み込む仁。三胴船は速度を上げ、その最高速はおおよそ時速で70キロくらいか。
「十分だな。ま、礼子の方が速いけどな」
助手席の礼子を見やって仁が呟く。それを耳にした礼子は嬉しそうに微笑んだ。
今度は1回で成功した船を操り、十分に堪能した仁はソレイユとルーナの待つ港へと戻った。
「よし、この試作1号船、『ハイドロ1』と名付けよう」
ハイドロとは水の、とか水素の、という意味がある。仁にしては異例とも言える良名かもしれない。
「そうだ、飛行機の方は『アルバトロス』にしよう」
アホウドリであるが、響きがなんか気に入ったのでそう名付ける仁であった。
さらにその翌日。
「さーて、船と飛行機ができたところで、量産に入るか」
船は島の守備に、飛行機は守備や偵察はもちろん、この世界の把握に使いたいと思っていたのである。
「礼子、飛行機はソレイユに、船はルーナに、それぞれ30台ずつ作らせておいてくれ」
「わかりました」
仁が作った試作の複製なので、ソレイユとルーナには簡単にできるのだ。念のために書いておくと、この世界の一般的なゴーレムはおろか、最高性能のゴーレムにもそんなことは出来ない。
比較対象が無いため仁は自覚していないが、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の持つ技術だけがそういった超高度なゴーレムや 自動人形(オートマタ) を作り出せるのである。
「ということで、俺は船と飛行機に乗せるためのゴーレムを作る。礼子、手伝ってくれ」
「はい」
今回のゴーレムは軽さを優先して、これまた 軽銀(ライトシルバー) で作る。
何度も行っているので、あっさりと40体のゴーレムが完成した。
前にも書いたが、 軽銀(ライトシルバー) はチタンの同位元素であるから、表面の酸化膜で色を変えられる。それで、空用ゴーレムはライトブルー、海用ゴーレムはネイビーブルーとした。
「よーし、まとめて『 知識転写(トランスインフォ) 』レベル4。……よし、これも大分慣れたな」
最初の頃は余計な知識も転写してしまったり、仁の負担が大きかったりしたが、何度も行っているうちに慣れ、今では短時間で必要な知識を転写できるようになっていた。
「命名、スカイ1からスカイ20、マリン1からマリン20」
でもやっぱりネーミングセンスはあまり変わっていなかった。
「それぞれスカイ1とマリン1を隊長として、 空軍(エアフォース) と 海軍(ネイビー) とする」
これで蓬莱島の守備力はといえば、武器を搭載していないのであまり向上してはいない。
「武器は……あまり作りたくはないが、この世界では仕方ないんだろうな」
魔物だっている世界、自衛のための戦力は必要だろうと、仁は割り切ることとした。
「それはそれとして、スカイ1、お前は部下を使って、この蓬莱島を中心に周囲を偵察し、地図を作れ。要領は今教える」
知識転写(トランスインフォ) を使えば、一瞬で必要な知識を教えられる。このあたりは対人間よりも効率がいい。人間には 知識転写(トランスインフォ) は効かないから。
ずっと気になっていた、この世界における蓬莱島の位置がこれでわかるだろうと、仁はその結果を楽しみにしていた。
「さて、武器と防具を考えるとするか」
仁の製作意欲はとどまることを知らない。
「まずは防具だな」
素材を見て考えようと、仁は研究所地下の倉庫へと向かうのであった。