作品タイトル不明
24-25 『頭脳』目覚める
正常動作を開始したクロゥ砦の『頭脳』が最初に行ったのは情報収集であった。
年号、日付をはじめとし、短時間のうちに情報を集めていく『頭脳』。
砦内にいる人間の会話をはじめ、包囲している兵たちの会話も拾うことで状況を知ることができるわけだ。
日付、年号は、自分を再起動した人間……ダジュール・ハーヴェイに付き従っている 自動人形(オートマタ) に尋ねればよかった。
3458年3月10日、という年月日を知ることで、魔導大戦が終結した3155年から303年が経っていることを知る。
《 自由魔力素(エーテル) 濃度が低い……これは 魔素暴走(エーテル・スタンピード) のためと思われる……300年以上が過ぎても自然回復しきっていないということになる》
こうした現実も解析し、事実として受け入れていく。
そして、クロゥ砦という、ある意味自分の体内にいる人数も把握していく。
《8人……いや、9人》
更に、戦闘用ゴーレム6体が起動していること、 魔導砦(マギフォートレス) 補佐 自動人形(オートマタ) が目覚めていることを知る。他にも数体、雑用 自動人形(オートマタ) が動いていることも知った。
《ふむ……》
そこまでは何ら問題は無かった。
では、戦闘用ゴーレムは何のために起動した? 当然、敵性存在と戦闘するためだろう。
その敵性存在とは? 当然、『魔族』でなければならない。
『魔族』の特徴は? 保持する 魔力素(マナ) の密度が高く、身体能力も高い。
《今の相手は? ……一体これは!?》
* * *
『クロゥ砦』の建設が開始されたのは魔導大戦中期。当時の最高の技術を以て建設された。
完成をみたのは魔導大戦末期。
その立地からいって、最終防衛線としての砦である。
南には川を挟んで、当時の人類を束ねる王国、ディナール王国の首都があるのだから。
だが、幸いにしてこの砦が実戦に投入されることはなかった。
砦が完成して3日後に、『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』が起こされ、魔導大戦は終結したのだ。
砦の 魔導機(マギマシン) のほとんどは未使用のまま封印された。
本来なら、数日から十数日掛けて動作確認……現代地球風に言えば『デバッグ』を行うはずであったが、実行されることもなく。
そしてそれは統括する『頭脳』も例外ではなかった。
そこに綻びの端緒が存在することにも気が付かないまま、砦は300年以上の長き眠りに就くことになったのである。
* * *
《人間同士が争っている? そんな馬鹿なことが?》
300年の眠りから目覚めた『頭脳』であるが、その知識はかなり偏っていた。というよりも、教育不足なのである。
《魔族とではなく人間同士で争う……その理由は?》
本来ならば、『指揮権』を持った司令官が『頭脳』の上に立ち、大まかな指示を出し、その行動を監視、微修正するのであるが、そのような人間は砦にはいなかったのだ。
《可能性1。……砦内の人間か、砦外の人間か、どちらかが魔族に洗脳されている》
《可能性2。……どちらか、あるいは双方が狂っており、戦わざるを得ない状況になっている》
《可能性3。……自分の知る『人間』に似てはいるが、実は異なる生命体である》
《可能性4。……何らかの理由があり、同族で争っている》
《可能性5。……死亡者がいないところから、これは単なる演習である》
《可能性6。……外の人間は、自分の存在が邪魔になり、破壊しようとしている》
《可能性7。……》
『頭脳』は、その能力を生かし、可能性を列挙し、観察された事実と照らし合わせていった。
《第一前提。自分は人間に奉仕するために存在する》
《第二前提。自分は破壊されるわけにはいかない》
これは、魔導大戦を背景とした大前提として組み込まれていた。
司令官以上の権限がある人間からの破壊命令によらない限り、『頭脳』は自己防衛を行うのである。
そしてちょうどその瞬間、砦を包囲した『王国軍別働隊』からの攻撃が、外壁の一部を傷付けたのであった。
『王国軍別働隊』にしてみれば、防御結界の突破方法として、一点集中攻撃による部分的な高負荷により、一時的な解除を目論んだのである。
そしてそれは成功した。……ある意味、絶妙のタイミングで。
* * *
少し前。
「元帥、残る手段の中で有望そうなのは一点集中です」
懐古党(ノスタルギア) の技術者、チハラッド・サウトが考えた末に口を開いた。
「順次ではなく、同時に1点に攻撃を掛けるのです」
その際、多少の時間的前後や、着弾位置がずれるのは問題ない、と補足する。
「うむ、ただ睨み合っていても仕方ない。やってみよう」
こういう経緯で、王国軍別働隊側の戦闘用ゴーレム20体による1点集中攻撃が行われることとなった。
「目標、敵砦中央、外壁上、扉の真上」
狙いやすくわかりやすい箇所を指定し、攻撃命令を出す。
「投擲!」
最初の攻撃は、60メートルほどの距離を空けて、直径30センチほどの岩を投擲することで行った。
この攻撃の要は、一箇所への攻撃というよりも同時着弾にある。岩のような物理攻撃を1箇所に集中するということは現実的に不可能だからだ。
そして20個の岩が着弾。
「おお!?」
後方で眺めていたカーター元帥の目にも、砦が歪んで見えた。それはすなわち、結界が揺らいだ証拠である。
「有効そうですね。もう少し近くから攻撃させましょう」
「うむ」
カーター元帥も、なかなか有効そうなこの攻撃に、喜びを隠せない。
2回目の攻撃は30メートルの距離から行うことになった。もちろん、2機のバリスタは、不意に結界が消えた際にはその矢を発射するべく待機状態である。
「投擲!」
半分の距離からの攻撃。威力もそれに応じて上がる。
1度目よりも更に結界は大きく揺らいだ。
「行けるぞ! 3度目、投擲!」
そして3度目。
着弾後、結界は揺らぎ……一瞬だけ、消えたのである。
2機のバリスタを管理していたゴーレムはそれを敏感に感じ取り、つがえた矢を発射した。
アダマンタイトの先端を持つ矢である。
1本は砦の外壁に刺さった。そしてもう1本は見事に、砦上にいた敵ゴーレムを貫いたのだ。
「やったぞ!」
初めての戦果らしい戦果に、兵士たちも小躍りした。
「はしゃぐな。これからだ」
カーター元帥は周囲の者たちを戒める。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、クロゥ砦から攻撃が放たれた。
外壁の上から、紫色の光が兵士たちに向かう。
「ぎゃっ!」
「ぎゃあっ!」
悲鳴を上げ、前方にいた兵士十数名が倒れた。紫電が更に2度、放たれる。
「な、何だ! どうした?」
「ぎゃああ!」
「ぐあっ!」
わけがわからないうちに、更に十数名が気絶する。
「ゴーレムたちは倒れた兵士を担げ! 急ぎ後退しろ!」
カーター元帥は辛うじてそれだけを命じることができたのである。