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作品タイトル不明

24-09 閑話46 フランツ王国の暗雲

「ううむ、困った……」

3月1日、フランツ王国国王、リジョウン・ド・バークリーは頭を抱えていた。

「陛下、どうなさったのです?」

『北公爵』ロターロ・ド・ラファイエットが、顔色の悪い王を心配しての質問だ。

彼はリジョウンの片腕ともいうべき立場にあるのだが、その実、あまり仲が良くない。

独善的、独裁者的なリジョウンに対し、ロターロが口やかましいことばかり言うためだ。

だが、この日のリジョウンはいつになく気弱であった。いや、元々小心者なのである。

「オランジュ公が、我が国の面目に泥を塗った。それどころか、造反の兆しさえある」

「なんと!」

「……吾はどうしたらいい?」

意気消沈しているリジョウンは、セルロア王国から送られて来た書面をロターロに見せた。

それに目を通したロターロは長い溜め息をつく。

「……陛下が途方に暮れるのも無理はないですね。これが真実だとしたら酷すぎます」

送られて来た書面は、セルロア王国新国王、セザール・ヴァロア・ド・セルロアの直筆であり、加えて、ショウロ皇国皇帝、クライン王国王子、エゲレア王国公爵、エリアス王国侯爵、そして崑崙君らの署名も入っていたことから、嘘ではないだろうと思われた。

そして問題はその内容である。

簡単にいえば、ルフォール・ド・オランジュが起こした事件の顛末が書かれており、その事実に対し、各国はフランツ王国に対し、謝罪と賠償を求める、というもの。

その賠償金額の総計は、フランツ王国の国家予算5年分に当たる。分割払いとしても、全納するまで数十年は掛かると思われた。

「断れば、セルロア王国に攻め滅ぼされかねん」

セザール王の 為人(ひととなり) を知らないだけに、こうした危惧も出てくるというもの。王と北公爵は2人して悩むこととなった。

「賠償金はひとまず置いておくとして、謝罪の方を考えねばなりません」

「やはりそうなるか……」

リジョウンは今年37歳。幼少時から父王に甘やかされて育ち、4年前に即位したばかりなので、まだまだ王としての自覚が薄いのである。

ロターロは王より5歳年上なだけであるが余程しっかりしており、頼りない我が儘坊ちゃんの王と我欲まみれの南公爵がいても、なんとか国が成り立っているのは、彼の手腕のおかげと言えた。

しかし、そのロターロと言えども、この事態を打破する策は思いつけなかったのである。

* * *

『 解放隊(パルチザン) 』という組織がある。

フランツ王国に潜伏する革命集団であり、前王ウィルゾン、現王リジョウンと続く酷政に対し反抗を続けている。

去る2月28日、とある情報がもたらされていた。

『南公爵、ルフォール・ド・オランジュがセルロア王国の建国記念式典にて、国際的な失態を演じた』と。

この報告を受け、 解放隊(パルチザン) は動き始める。

こういう事態を想定して立てていた計画が発動されたのだ。

各地に散らばっている隊員たちに連絡が飛んだ。

『計画2のB、決行は3月3日』

「よーし、ついにこの日が来るか!」

「やったるぞ!」

「愚王めに、天誅を下してやる!」

等、隊員たちの士気は高い。

昨年8月、 解放隊(パルチザン) に仲間として潜入した『ショルト』ことレグルス41は老君に報告を入れていた。

とはいえ、仲間になって1年も経っていないので、得られた情報もそれなりに少なかったが、老君はそれらを繋ぎ合わせ、おおよその見当を付けていた。

『なるほど、彼等は革命を目指しているのでしょうかね』

老君が類推したのは、仁の知識にあった過去の出来事。

古代中国、『漢王朝』の末期、皇帝を傀儡として操っていた十人の宦官を粛清し、更には庶民の血が入った幼帝をも廃し、正統な血筋の皇帝を立てたエピソードである。

もちろん、異なる点も多々あるのだが、できる限り短期間で、また、できる限り血を流さないことを前提に考えるとそうなるのである。

『元凶の一人であるオランジュ公不在、尚かつその者が国外で不祥事を働いた、これを好機と捉えたのでしょうからね』

おそらく、一斉に蜂起し、オランジュ公寄りの勢力を鎮圧すると同時に、王宮内でも呼応して現王を拘束。

傍系とはいえ正統な血筋を引き、人柄も良く、領民に好かれている人物を王に据える。

これが、老君が看破した 解放隊(パルチザン) の戦略。

そして、新たな王にと思われる人物の名は——ロターロ・ド・ラファイエットと言った。

* * *

「うーん、なるほどな……」

老君は、推測が出来上がった時点で仁に連絡を入れていた。

「あまり他国の事情に首を突っ込むのも考えものだと今回思い知ったよ。 大事(おおごと) にならない限り、その国のことはその国の国民に任せよう」

ただし、と付け加える仁。

「オランジュ公の捜索は続けてくれ。なんとなく嫌な予感がする」

『わかりました』

* * *

「オランジュの奴は、セルロア王国から逃げてきて、クロゥ砦に立てこもったらしいぞ?」

第5列(クインタ) にもわからなかった情報が、 解放隊(パルチザン) にもたらされたのは2日後であった。人海戦術というのも、時には馬鹿にできないものである。

「あの辺境の砦か?」

「なるほどな。中央に戻れば、セルロア王国に弓引いた咎で処刑されるから、領地からも逃げ出したわけか」

「ならば工作員を送り込み、様子を 窺(うかが) わせよう。まずは王の交代からだ!」

こうして、 解放隊(パルチザン) たちは革命へと突き進んでいく。

3月3日、各地で一斉蜂起した 解放隊(パルチザン) は、国王側の油断を突いて、瞬く間に主要都市を制圧した。

各都市の重要ポストにも幾人か同志を送り込んでいた彼等の勝利であった。

「何!? 反乱だと? 何でこの時期に!」

3月5日、知らせを聞いたリジョウンは青ざめる。いつも彼を助け、おだててくれたオランジュ公はいない。

「陛下、最悪の事態も覚悟してください」

「さ、最悪だと!? ……嫌だ! この国は吾のものなのだ!!」

玉座……王の座る椅子に青ざめながらもしがみつき、まだそんなことを喚き続けるリジョウンを見て、ラファイエット公は静かに嘆息した。

そこに近付いてくる足音。

近衛兵士の中にも 解放隊(パルチザン) に所属する者がおり、城内の制圧は簡単であった。

「王! お覚悟!」

「……」

解放隊(パルチザン) 十数名がとり囲んだ時、フランツ王国国王、リジョウン・ド・バークリーは失禁し、気を失っていた。

* * *

「……そうか、早かったな」

同日、仁は老君から、フランツ王国で起こった革命の顛末を聞いていた。

『私の予測したとおり、リジョウンは処刑され、新たな王として、ロターロ・ド・ラファイエット公が立ったそうです』

バークリー王朝が倒れ、新たにラファイエット王朝が立った、というわけだ。

「セルロア王国としての対応は難しそうだな……」

またしても心痛の種が増えた、と仁はうんざりしている。

「……それに、まだオランジュの処遇が決まっていないし、できないでいる」

エルザも意見を口にする。

「ああ、そうだな。とにかく、まずはオランジュを捕まえないことには話にならない」

『そちらも、今『 解放隊(パルチザン) 』のメンバーが追っています。その中に 第5列(クインタ) も何名か紛れ込ませております』

「わかった。様子を見ていよう」

まだまだ世界が平穏になる日は遠そうである。