軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-46 シベール館/説得

エルザの発言後、一同は水を打ったように静かになった。

最初に静寂を破ったのはゲーレン・テオデリック侯爵。

「……確かにな」

眩しいものを見るかのように、テオデリック侯爵はエルザを見つめながら頷いた。

正論であるがゆえに、当たり前のこととして、忘れかけていたこと。

世の中は、エルザが言うほどに単純ではないが、今回の場合、判断する理由としては大きな意味がある。

「エルザ、ありがとう。おかげで決心がついたわ」

議長を務める女皇帝であるが、同時に彼女はショウロ皇国の代表でもある。

「ショウロ皇国は、王太子セザール殿下を次期セルロア国王として推します」

そして反対意見は? というように、ラインハルト、ゲーレン・テオデリック侯爵、デガウズ魔法技術相、フリッツ中佐、マテウス大尉を順に見回すが、彼等の口から反対意見が出ることはなかった。

「クライン王国代表として、私も次期セルロア国王に、セザール殿下を推します」

即賛同したのはアーサー王子であった。ジェシカもグロリアも同意しているようで何も言わない。

「エリアス王国といたしましてもセザール王太子殿下を推しますわ」

フィレンツィアーノ侯爵が宣言した。

「我がエゲレア王国もその意見に賛成です。元々その予定でしたからな」

ブルウ公爵も賛成し、これで集まった代表たちの意見は統一されたのである。

「では、『シベール館』へ行ってみるとしましょうか」

「陛下、全員で行くのは危険では?」

女皇帝の言に、デガウズ魔法技術相が異論を唱えた。

「そこは難しいところですな。分断される危険もあるのでどちらが、とは言い切れない面もあります」

これはゲーレン・テオデリック侯爵。

「そう、ね。……『崑崙君』、貴方の御意見は?」

ここで仁の意見を聞いてくるあたり、なかなか 強(したた) かである。今更だが。

「自分としては……」

因みに、『俺』『私』が使い分けづらかったので、『自分』にした仁である。

「……行動しない方は全員『コンロン2』に乗っていてもらいたいくらいですよ」

「なるほどね。あそこなら手出しされないわね。皆さん、いかがでしょうか?」

先日『コンロン2』に乗っており、その乗り心地を知っている者がほとんどであったため、反対意見は出なかった。

「それでは、『シベール館』に行く顔ぶれを決めてしまいましょう」

これには少し時間が掛かった。女皇帝は自分が行くと言って憚らなかったし、デガウズはじめ臣下はそれを止めようと必死。

他の国も似たようなもの。

最終的に、アーサー王子、ブルウ公爵、フィレンツィアーノ侯爵、ラインハルト男爵、そして『崑崙君』仁の5人、つまり各国から1名ずつが代表として行くことに決まった。

同行している侍女や使用人までは乗せきれないので、ショウロ皇国の船に乗船させることとする。これでひとまずは安心だ。

『コンロン2』に乗る者は迎賓館屋上へと向かう。

「では、『コンロン2』へどうぞ」

エルザとエドガーが先頭に立って案内していく。ガラナ伯爵はそんなエルザを何とも言えないような目で見ていたが、結局何も言うことはなく、全員無事『コンロン2』に乗船した。

今回操縦するのはローズである。リリーはキャビンアテンダント役だ。

「では行きます」

昨日と同じく、揺れを感じさせない軽快さで『コンロン2』は浮かび上がった。

一方で、乗り切れない侍女や使用人たちは、昨日同様、老子とアンが案内して迎賓館裏通用口から船へ。

裏手は十数メートルの距離で堀割に面しており、桟橋も近くにある。

数名の兵が彼等を見ていたが、特に何も言われることはなかった。

使用人であり、ショウロ皇国の船に乗るだけであるから、特にとがめる必要はないと判断したのであろうか。

そして仁たち代表は正面玄関へと向かった。

だが、彼等が迎賓館を出てシベール館へ向かおうとしたとき、それを阻止しようと兵が遮った。

「ここはお通しできません」

剣を持った兵10人、槍を持った兵10人が、迎賓館からシベール館へ向かう道を封鎖していたのである。

一行を遮ったのはその兵士長らしき男。

「通してもらおうか。我々の行動を縛る権利はないはずだ」

アーサー王子がそう言っても、兵士長は聞く耳を持たない。

「いいえ、貴殿たちは重大な内政干渉をしようとしているようです。それは断固阻止させてもらいます」

「誰の命令だ? アラン・デモヌ公か」

「お答えできません」

押し問答をしていると、そこに1人の貴族がやってきた。がっしりした体つきの威丈夫である。

「何をしている、お前ら!」

彼はかなり身分の高い貴族らしく、兵は敬礼をし、かしこまった。

「はっ! 迎賓館を封鎖するよう命令を受け、実行中であります!」

それを聞いた貴族は一喝する。

「馬鹿者! 他国の代表を拘束するなど愚の骨頂だ。国際問題になるぞ! 私が責任をとる。解散しろ」

「は、しかし彼等は我が国に内政干渉をしようと……」

「まだぐずぐず言うか。よいか、こちらから招待した他国の代表を拘束するということ自体が恥さらしなのだ。私が責任をとると言っておるのだ。下がれ!」

「は、了解であります。……戻るぞ!」

貴族の剣幕に押され、兵士長は渋々ながらではあるが、引き上げていったのである。

「失礼致しました。私は総務省主席、バルフェーザ・ウォーカーと申します」

貴族が自己紹介した。

年の頃は40代半ばといったところ、茶色の髪に茶色の目、口髭・顎髭を蓄えた厳つい顔つきをしている。総務省というより軍人と言った方がお似合いである。

「セザール王太子殿下をご支持下さると伺っておりますが、まことでしょうか?」

そう尋ねたバルフェーザ・ウォーカーだったが、アーサー王子は疑り深そうな顔を無言で向けている。

「これは失礼。私はセザール王太子殿下に是非にでも次の王になっていただきたいと思っている派閥の一員でございます」

そう聞いても、アーサー王子は今一つ信用していないようだ。

「困りましたな。時間があまりないのです。王太子殿下におかれましては、シベール館に軟禁されておりまして、会議を欠席せざるを得ない状況に追い込まれています。このままですとアラン・デモヌ公が即位してしまうでしょう」

「殿下、とにかく彼に付いていきましょう。ここでこうしていても時間の無駄です」

ラインハルトが助言すると、アーサー王子も頷いた。

「そうだな。貴殿の言うとおりだ」

アーサー王子はバルフェーザに向き直る。

「バルフェーザ・ウォーカーと言ったな。では案内を頼む」

「はい、お任せください」

そして、一行は『シベール館』へ向かった。

「お通しできません」

ここでも、玄関を守る門衛に止められたが、バルフェーザ・ウォーカーの一喝で通過することができたのである。

「こちらです」

バルフェーザの案内により、辿り着いたのはとある部屋の前。扉には鍵が掛かっているらしく、びくともしない。

「礼子、開けてくれ」

その一言で、礼子は扉の取っ手に手を掛け、力ずくでこじ開けた。

丈夫そうな扉だったが、礼子の前にはボール紙ほどの抵抗もできず、あっけなく蝶番ごと外れてしまったのである。

「殿下!」

中にいたのはセザール王太子。この部屋に幽閉されていたらしい。

「おお、皆さん……助けに来てくれたのですか? バルフェーザ! お前も!」

「王太子殿下、お急ぎください。このままではアラン・デモヌ公が即位してしまいます」

「しかし……私には 鍵璽(けんじ) が無い」

「 鍵璽(けんじ) が何ですか。真の王は、国と国民を愛し、未来へと導く者でなければいけません。残念ですが先王は……いや、これ以上は臣下が口にしていいことではありませんな。とにかく、国のため、国民のため、殿下に即位していただきたいのです」

熱弁を振るうバルフェーザ。

「閣僚たちは、 鍵璽(けんじ) によって起動可能なゴーレムを恐れているにすぎませぬ。皆、真の王が誰であるかは承知しているはずです」

ゴーレムが何体起動しようとも、礼子がいる限り無意味なのは、あの模擬戦を観ていればわかることだ。

中には、今まで吸っていた甘い汁を吸えなくなることを良しとせずに王弟に付いている愚か者もいるようではあるが。

そしてアーサー王子も口を開いた。

「セザール殿。我々も同じ気持ちです。何としても貴殿に即位していただきたい。この世界のためにも……」

熱心にセザール王太子を説くアーサー王子を見て、仁は彼の新たな1面を発見した思いであった。

「世界のため、ですか」

「そうですよ。先日行った世界会議の真似事。あれが本当に行われれば、世界は今よりずっと発展していくでしょう」

ここで仁も口を開いた。

「その通りです。ああした平和な会議、それを行っていただくなら、『崑崙島』をその会議の場所として提供してもいいと思っています」