作品タイトル不明
23-44 セルロア王国の技術者/異議
仁たち修理班の3人は、離宮そばで動かなくなった『リヨン』の元にやって来ていた。
「幸い、デウス・エクス・マキナ殿のおかげで停止していますから危険は無いです」
ということで、まずは最も面倒な『リヨン』から始めることとなった。
近付いてみると、人間の倍以上というボディは、やはり大きい。
「この4メートルという大きさは貴方が決めたのですか?」
仁がヤルマーに尋ねた。
「ええ。いろいろ試してみて、やはりこれ以上大きくすると強度は落ち、動作も鈍くなり……、と、いいことがなかったので」
ヤルマーは計算でこの大きさを決めたというよりも、試行錯誤の末、この大きさに辿り着いたようだ。
それは途轍もない回数の試作・試行があったことだろう。
そして仁は、もう1つ気掛かりだったことを尋ねる。
「『 隷属(マスタースレーブ) 』の順位が、先王のみだったのはやはり意向によるものですか?」
「……ええ、残念ながら。陛下は、誰も信用できぬ、と仰せになられて……」
『 制御核(コントロールコア) 』を取り出すヤルマーを見つめながら、仁は質問を続けた。
「やはり不便といいますか、 歪(いびつ) ですよね」
命令者が1人だけというのは、セキュリティ的には安心なのかもしれないが、今回のような場合には危険でもある。
「製作者である貴方の言うことも聞かないのですか?」
通常、製作者は別格として扱われるものなのだ。
「ええ、そういう指示でしたから。……あああ!?」
ヤルマーが声を上げた。
「 制御核(コントロールコア) の 魔導式(マギフォーミュラ) がみんな消えている……。 基礎制御魔導式(コントロールシステム) まで……」
そしてがっくりと肩を落とした。
基礎制御魔導式(コントロールシステム) は、コンピューターでいえばOSに当たる。ゴーレムや 自動人形(オートマタ) を動かすための基本プログラムだ。
立つ、歩く、走る、殴る、などの基本動作はこれにより行われる。
製作者の特徴が良く表れるので、見るものが見れば、製作者を特定することもできるのである。
かつて、『エレナ』が、仁の先代、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが手掛けたゴーレムや 自動人形(オートマタ) を、それと見分けたのはこの理由による。
その 基礎制御魔導式(コントロールシステム) がきれいさっぱり消えてしまったのは、仁が製作した『隷属書き換え魔法・消去』を放った魔導具の効果だ。
ヤルマーが肩を落としたのも無理はない。仁と違い、 制御核(コントロールコア) の製作には、それなりに時間と手間が掛かるのだから。
ちょっとだけ済まない気持ちになった仁であった。
取りあえず、壊れていない23体は 制御核(コントロールコア) を取り出しておく。
その後、礼子により破壊された7体については、 制御核(コントロールコア) を取り出した後、可能な限り修理していくことになった。
この機会に仁は、セルロア王国のゴーレム技術をじっくりと調べさせてもらうことにした。
まずは金属素材。
「……炭素鋼には違いないが、金属組織が微細化されていて靱性が高いな……」
壊れた部分を観察しつつ、仁はそんな感想を抱いていた。
熱処理に相当する『 熱処理(ヒートリート) 』の内容が適正である証拠だ。
傍目には小さな項目だが、こうしたところに技術者の本質が表れるものなのである。仁はヤルマーの実力の高さを感じていた。
そして動作用の動力。
使われているのは軟質魔導樹脂ではあるが、かなりチューニングされていることが見て取れた。
例えるなら、ポリエチレンのテープか。長手方向には非常に強度が高いが、幅方向に引っ張ると簡単に裂ける。
この軟質魔導樹脂も同様に、筋肉としての動作方向には非常に力強さを見せていた。
「ふうん、工夫のあとが見られるな。性能が高いのも頷ける」
一方のヤルマーは、
「この『リヨン』を手もなく捻ってしまうジン殿の 自動人形(オートマタ) 、レーコ嬢でしたか……、凄まじいものですね」
と、助手をしてくれている礼子の方をちらちらと見ながら感心することしきり。
「いつか自分も、レーコ嬢……には及ばずとも、高性能な 自動人形(オートマタ) を作り上げたいものですよ」
そしてラインハルトは壊れた部分を観察していたが、
「ヤルマー殿、『リヨン』の構造も素晴らしい発想ですね。関節部にのみ魔導樹脂を使って反応速度を上げるとは」
と、その構造に感心する。
「ははは、お恥ずかしい限り。軟質魔導樹脂を使う方式で、どこまで性能を上げられるか、極めてみたかったのもあるんですよ」
「確かに、関節以外の部分にある魔導樹脂は、ある意味邪魔者ですからね」
変形に必要な 魔力素(マナ) の何パーセントかが拡散してしまい、効率が落ちるのである。それでヤルマーは必要最小限の魔導樹脂で動作させることを選んだらしい。
仁としても、そちらの方式を突き詰めて考えたことはなかったから、なかなか参考になるひとときであった。
『リヨン』30体の後は、壊れたゴーレムの修理に取りかかる3人。
「あー……これはもう直すより新しく作った方が早いな」
仁の目の前にあるのは金色をした破片。ガラナ伯爵が連れてきた金ぴかゴーレムの残骸である。
「ですね。……面目ない」
「いえ、ヤルマー殿が謝ることでは」
ラインハルトがそう言うと、ヤルマーは首を左右に振って、寂しそうな声で言った。
「とはいえ、私の作ったゴーレムがやったことです。責任の一端は私にもあるでしょう」
「ヤルマー殿は義理堅いのですね」
ラインハルトは目の前にあるゴーレムに視線を戻した。礼子に倒された『ウィッパー』である。
「鞭という武器を選んだのはなぜですか?」
その質問を発したのは仁。グロリアから、戦場においては、鞭という武器は扱いづらいと聞いていたからだ。
だがその答えは単純明快であった。
「はは、単に先王から命令されただけですよ。変わった武器を使えば、対処しづらいだろうから、と言う理由でした」
しかし、そうなると先王リシャールは、そうした判断に関しては光るものがあったのだろう、と仁は少し残念に思った。
その才能をもっといい方に向けていれば、と思わなくもない。
頭の片隅にそんな雑念を抱えながら、仁は目の前にあるゴーレムを黙々と修理していった。
ラインハルトとヤルマーは頻繁に会話をしている。やはり『 金剛戦士(アダマスウォリアー) 』と『 黒騎士(シュバルツリッター) 』の製作者というかつての好敵手同士、話も弾むらしい。
昼食をはさんで、作業は続けられた。
3人とも、食事より作業を優先するタイプのようで、食べ終わるとすぐさま修理を開始するあたりは似たもの同士である。
クライン王国の汎用ゴーレムや、『ランツァー』も、この時に修理を行う。
『ランツァー』はヤルマーが。ラインハルトは『マルトー』を担当。そして汎用ゴーレムは仁が修理した。
そのため、内骨格・筋肉動作の詳細は、ヤルマーに見られることはなかった。
「さて、これで終わりでしょうか?」
「……の、ようですね」
「いやあ、疲れましたが、有意義なひとときでした!」
そして午後3時過ぎ、とりあえず修理すべきゴーレムは無くなったのだった。
ようやく作業を終えた3人は、礼子が用意したお茶を飲み、今度こそ寛いでいた。
「ジン殿の手際の良さは見習いたいですね!」
ヤルマーは尊敬の眼差しを仁に向けている。
それに答えようと仁が口を開きかけたとき。
「お父さま、誰か来ます」
礼子が、迎賓館の方を指差した。
「……ジン殿! 一大事が発生した!」
大声で叫びながら走ってくるのはグロリア・オールスタット。
「何かあったのかな?」
仁たちはこの日1日、外でゴーレムの修理に掛かりきりだったので、事情に疎い。
とはいえ、老君と情報のやり取りができる礼子も知らなかったということは、たった今起きたことなのだろう、と仁は身構えた。
「はあ、はあ」
息を切らして走ってきたグロリアは仁たちのそばで足を止めると大きく息をついた。そして、
「セザール王太子の即位に異を唱える者が現れた!」
と告げたのである。